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氷雷無双。絶望の新人類。


「手をあげて止まれ! ……動くんじゃないぞ」


 軍服姿の男達が自動小銃を手にオレと氷駕を脅す。

 14番のメッセージに添付されていた情報を頼りにやってきた金星の外れにある小惑星の調停者支部前。

 二人は()()()()()に囲まれていた。

 

「なぁ、なんで人間ってのは銃ってヤツを持った途端に強気になれるんだ? 俺にはまるで理解ができん。猿が棒切れを持っているのと同じだろう」


「あー……普通の人間は鉄砲で撃たれたら死ぬからかな。ほんの少しでも他者より優位なら、すぐに付け上がるのが人間だからさ」


 殺意を前に呑気に話す二人を見て、軍服の男達が気色ばむ。

 氷駕はその様子を楽しむようにズンズンと前に出た。


「ととっと、止まれ、ほっ、本当に撃つぞ!」


 制止を聞かずに歩み寄る男に恐怖を感じた警備員の一人が辛抱たまらず引き金を絞る。余程慌てているのか、呂律が回っていない。

 氷駕の頭部を鉛玉が次々とすり抜けていく。

 エニグマに実弾が当たるはずもなく、回避する必要すらない。

 オレも氷駕に続いて歩みを進める。


「猿に言われて止まるやつなどいない。今度はこっちが命ずる番だな。動くな(フリーズ)


 氷駕の全身から凍気が吹き出す。

 一瞬にして絶対零度に世界が染まる。

 吹雪が猛り、大地が凍りつき、生命が活動を停止する。

 気がつけば銀世界。零下の中、銃を構えた男達の氷の彫像が立ち並ぶ。


「砕けて爆ぜろ。──氷点爆決(ブロークン)


 天から巨大な氷塊が降り注ぎ、氷漬けになった男達に直撃。見るも無惨に粉々に砕け散る。


「お前もやれ。少しは気分が晴れるぞ」


 ビルの中から新たに出て来た敵を見た氷駕が言う。

 

「なぁ、おかしくないか? オレ達が動けるのは当然として、アイツはなんで絶対零度の中で動いてんだよ」


 確かに不可思議であった。

 世界は凍りついている。

 人間が活動できる理由がなかった。

 しかしビルから出て来た男は凍りつく様子もなく、二人を見て薄気味の悪い笑みを浮かべながら右手を突き出す。

 大気が逆巻き、翠色の光が収束していく。


「……真空風殺刃(エアロブレイド)


「──ッ!? なんだと!」


 繰り出された真空波を見た氷駕の顔色が変わる。

 放たれた魔法の性質を読み取り、回避が必要だと判断した氷駕だったが、気が動転していたのか回避行動が間に合わずに真空の刃が直撃する。

 風に切り裂かれた氷駕の肉体から鮮血が吹き出した。


「氷駕ァッ!? おい、大丈夫かよ、おいっ! くっ、ガッ!」


 慌てて氷駕のもとへと駆け寄るオレの肉体にも真空波が襲い掛かかる。咄嗟にガードを固めるが、風の刃に腕が切り裂かれ、激烈な痛みと共に盛大に出血する。


「痛って! なんだよ今の攻撃は、どうしてオレ達にダメージが通るんだ……あいつは、普通じゃない!?」


 この世に存在していない無敵なはずの二人を風が切り裂いた。

 異常事態にオレは戸惑う。だが氷駕は平静を取り戻していた。


「今のは……14番の疾風だ。ワケがわからんぜ。何故人間如きが、あの技を……おい、オレ、全力で奴をぶち殺すぞ。力を出し切れ、一点集中だ、いいな」


 氷駕の言葉にオレは頷く。


「あっ、ああ! ──黒雷砲撃(ライトニング)……」

「……蒼天氷撃(アイシアブラスト)──」


 雷鳴轟き、冷気が踊る。

 オレと氷駕が力を練り込み、破滅の雷氷弾を形成する。


「「──くたばりやがれッ!」」


 息を合わせて力を放つ。

 不気味な男も風の魔法を繰り出すが、二人のエニグマの波長を合わせて放たれた光の渦が全てを飲み込み、存在ごと消滅させた。


「ハッ! やってやったぜ、人間如きが、調子に乗りやがる。しかし何故14番の技を……」


 光の渦に呑まれて消えた男を見た氷駕が冷笑を浮かべていた。


「おっ、おい、氷駕、あれ……」


 オレが氷駕の肩を叩きながら前方を指差した。

 氷駕が目を向けると、そこに見えたのは、またしてもビルから出てくる複数の男達。

 表情のない男が一斉に拳を突き出す。


「おい、……嘘、だよな? まさか、また?」


真空風殺刃(エアロブレイド)

真空風殺刃(エアロブレイド)

真空風殺刃(エアロブレイド)


 オレの予感は現実となった。

 エニグマすら切り裂く真空の刃が次々に放たれる。

 四方八方から放たれる真空波を躱しきれず、徐々に被弾が多くなる。

 不死身のはずだった肉体が引き裂かれ、ダメージが蓄積していく。

 再生が追いつかない。無限に繰り出される旋風を前に、攻勢に出ることもできない。


「何がどうなってやがる。このままでは死ぬかもしれん。おい、オレ、一旦退くぞ」


「死ぬって、オレ達が? 冗談きついって」


「冗談? これは現実だ。対策を立てる必要がある」


 空間を引き裂き、次元の隙間へと逃走。

 氷駕とオレは戦闘から離脱した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「オレさんお疲れ様です。また楽勝でしたか?」


 二人を出迎えたナビの顔は明るい。

 しかしオレと氷駕は意気消沈していた。


「人間が14番の技を使った。それだけならまだいい、問題なのは奴等の攻撃が俺達の肉体を貫いた。絶対にあり得ない事態だ」


「えっ……そんな、冗談でしょう? 私達にダメージを?」


「ほんとだよ。オレ達は確かにダメージを受けた」


「まるで悪夢だ。人間に負けたりしたら、一生の恥になる」


「なんとかしないとな。氷駕、どうする?」


「……詳しく調べる必要がある。奴らを生け捕りにするぞ」


「………………マジ?」


 氷駕の意外な提案にオレの血の気が引いた。

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