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頭の良い奴から死んでいく。バカなフリして生きていく。


 漆黒の闇が広がり、辺りに星が瞬く大宇宙のど真ん中。

 オレとナビは向かい合う。

 宇宙服も酸素ボンベも必要ない。

 オレが生身でも平気なのかと尋ねたら、貴方は10番ですからと返された。

 理屈は通じない。全てを容認するしかない。

 ここまで来たら、やり切るしかない。

 宇宙に佇む人類はそんな事を考えていた。


「ささっ、オレさん。お願いします!」


 ぼんやりと薄紅色に輝く鉱石を差し出しながらナビが言う。


「えっと、これは何?」


 オレが尋ねるとナビは少しだけ憂いを帯びた表情となる。


「これは10番街の星の記憶です。10番(アリシアさん)の死の間際に託されたものです。今から滅びた惑星の再生を始めますよ!」


 ナビは明るく振る舞っているように見えるが、オレにはそれが空元気だとわかっていた。

 消滅したはずの惑星を再生させる。

 それがオレの神としての初仕事となった。


「……わかった。やってみる。それで、どうしたらいい?」


 惑星の再生なんてきっと並大抵の努力では成し得ないだろうと、オレは腹を括る。

 

「星の記憶を握り込み、力を注ぎ込んでください。想いを込めて」


「うん。それで?」


「……はい?」


「いや、もっと複雑な工程があるんじゃないの? 惑星を創るんだからさ。宇宙に渦を巻いて塵を集めて、コアを形成するとか、なんたらかんたら、あるんだろ?」


 ナビがキョトンとしているので、オレが過去に読んだであろう漫画の天地創造のイメージを伝えたが、どうやら見当違いであったようだ。


「ありません。星の記憶に力を込める。それだけですけど?」


「いや、小学生の工作キットかよ!」


 レンジでチン並のお手軽さで、惑星とは作れるらしい。

 元々常識離れしているとは感じてはいたが、ここまでくるとエニグマが神以上の存在だと言われても納得するしかなかった。


 オレは星の記憶なる鉱石を握り込み、自身の雷撃の力、託されたアリシアの力、3番の創造の力をブレンドし注ぎ込む。

 すると鉱石が眩い光条を放ちながら、グングンと膨張していく。


「成功です! 解き放ってください!」


 言われるがまま、膨張を続ける鉱石を宇宙空間に放り投げた。

 

「あとは何も問題がなければ、数日の内に10番街は蘇るでしょう! オレさん、お疲れ様でした!」


「簡単すぎてお疲れでもないけどな……。でも緊張はしたな。久々に汗が出たよ。次は住民の救出か、それともまず刹那達の捜索にいこうか」


 オレの額の汗をナビがハンカチで拭い、朗らかに微笑む。


「隔離世界に戻ったら、こちらに合流するようにと書き置きを残して来ました。カズくんもいるので、余程のことがない限り大丈夫だと思います。他の事を優先させましょう」


「書き置きって、いつの間に隔離世界に戻ってたの?」


「え? オレさんが会議をしている間にですが、ダメでしたか?」


「いや、秘書として優秀すぎるでしょ……オレいらないじゃん」


「誰だって初めてはそんなものですよ! 気になさらないでください」


 痒い所に手が届くどころか、痒くなる直前に対処してくれている。ナビが秘書でいてくれて良かったとオレは安堵していた。


「それとオレさん、お仲間からメッセージが届いています」


 お仲間と言われても心当たりのなかったオレが宇宙空間をキョロキョロと見渡すが、答えなど見つかるはずもない。


「誰から?」


「えーと、14番ですね。彼は風使いです。11から20番はお互いを同属帯と呼び合い、非常に仲間意識が強かったようです。ですからオレさんを15番だと思い込んでメッセージを送ったのでしょう」


「仲間……か。聞かせてくれるかな」


 ナビが胸元から携帯型端末を取り出して、ボタン操作をすると、立体映像と共に音声が流れ出した。

 やはり見覚えのない男性が、緊張の面持ちで言葉を紡いでいる。


『同属帯の諸君、レオナルドの演説は聞いたよな。あいつは我々を侮辱した。これは決して許される事ではない。あいつの目論見を暴いて、あの男こそが世界の悪だと証明してやる。調停者(ジャッジメント)の各支部の所在を添付しておいた。俺は先にいくが、助けはいらない。俺一人で完全に叩き潰してやる。見ていてくれ』


 ブツリと音を立てて映像が途切れる。


「オレさん、どうしますか? メッセージの通り、詳細な位置情報が添付されていますけど」


「行くしかないな。10番街の住民が囚われている場所も聞き出さなければならないし……えっ!? さぶっ……なんだこれ」


 突如、宇宙空間に極寒の寒気が訪れる。

 思わず身震いするほどの冷気を振り撒きながら、その男はやって来た。


「いくら我々といえど、単独行動は控えた方がいい」


「氷駕か。どこから嗅ぎつけてきたんだよ」


 10番救出の際に出会っていた氷駕が、凍てつく凍気と鋭い眼光そのままにオレの前に現れる。


「いいか、我々は仲間だ。14番なら頭が良いから万が一の事もないと思うが、お前はアマちゃんの半端者だ。ミイラ取りがミイラになる可能性が高い。今ならついて行ってやらんこともないが?」


「いや、別にオレ一人でも多分なんとかなると思うけど」


「えっと、彼は多分、お前が心配だから連れて行けと言っているんだと思います」


 ナビがすかさずフォローを入れ、氷駕の言葉を()()した。


「えぇ? だったらなんで最初からそう言わないんだ?」


「それが彼なりの表現方法なのでしょう。オーソドックスに返すなら、力を貸してほしい。跳ねっ返りを気取りたいなら、足手纏いになるなよ? が、適切です」


「ほんと、秘書として優秀だな。優秀すぎるよ。──おい、氷駕、足手纏いになるなよ?」


「フッ、それはこちらの台詞だ。行くぞ、全員凍りつかせてやる」


「やりました! 今の反応は間違いなく好感度が上がりましたよ!」


 宇宙空間でナビが跳ねる。

 どうやら氷駕の好感度を上げる事に成功したらしい。


「それじゃあ、カチコミと行きますかね!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 宇宙の各地に散らばる調停者(ジャッジメント)支社の資料室。

 一人の男が書類棚をひっくり返し、床に落ちた資料を貪るように読み漁る。


「実験段階、素養と適合、掌握と統制……何と言う事だ。レオナルド、まさかこれほどまでとは……これが事実なら、世界が終わる」


「やっほ〜。ゴミ漁りかー? 精が出るねッと!」


 突然現れた影を見て、男の体がビクンと跳ねる。


「お前は誰だ。このビルの兵士は皆殺しにした筈だぞ」


「そうみたいだねー。さすが14番の真空滅殺(カマイタチ)。切り刻まれた兵士のあの哀れな顔! ククッ……面白かったぁ!」


 影の人物がクスクスと笑う。

 14番が何度も目を凝らすが、正体を視認できない。

 ノイズを放つ黒塗りの怪物を前に、不死身の14番が恐怖する。


「貴様……不可能殺しだな」


「あっ! わかる〜? 御名答!」


 静寂に包まれる室内。

 14番の額から汗が流れ、頬を伝って床へと落ちる。


真空風殺刃(エアロブレイド)!」


 問答無用の断罪の旋風。

 圧縮された真空の刃が影の人物を切り刻む。


「はぁ、死んだ兵士が見た最後の光景はこれか。なるほどねー」


 切り刻まれながら、影がうんうんと頷いている。

 14番は逃げ出したいが、動けない。

 首元に死神の鎌が掛かっているような錯覚に囚われている。


「きみさー。頭も勘もよすぎるんだよね。よくノーヒントでここまで辿り着けたねー。推理ゲームでいきなり犯人当てるタイプでしょ?」


「ここまで来て、無念だ。みんな、すまん、俺達の夢は……」


 閃光一閃。

 14番の胸に風穴が空く。


「頭がいい奴は、早死にするよ。だからみんな、馬鹿なフリして生きてんだ。世界もあと少しだからね、おやすみなさい14番……」

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