初めての化け物会議。暗黒物質(ダークマター)を倒せ。
「オレさん! これで貴方は正式に10番になりました! 私は一生貴方にお仕えしますので、御用があれば、なんなりとお申し付けください!」
キラキラとした笑顔でナビが言う。
10番の力がオレの中へと流れ込み、アリシアがこの世から肉体的にも精神的にも完全に消滅したことで、10番継承の義は完了した。
これでオレは10番になってしまった。
「人間に戻るどころか、状況が悪化している。10番街の神になるし、オマケに10番そのものになるなんて……やばくないか……」
オレは本格的に悩み始める。
立場的にも強さ的にも劇的に変化しすぎていて、思考が追いつかない。
これがサクセスストーリーなら自分は超エリートだ。
そんな事を考えながら自分自身を内心、皮肉る。
「そんな深刻な顔をなさらずに! 案外、神というのも楽しいものですよ! 何から始めますか? そうだ! まずは顔合わせと参りましょう!」
「顔合わせって?」
「10番から上のメンバーは定期的に宇宙全体の統治方法や情勢について話し合っているのです。今、丁度その時期ですから、挨拶がてら見学しにいきましょう!」
「ようするに化け物の作戦会議ってことか。……っと、エニグマは禁句だったな。他に呼び方を考えないと」
ナビがオレの手を取り超空間を駆け抜ける。
たどり着いたのは灰色の世界。
以前、曄と共に閉じ込められていた存在の墓場であった。
10番となった恩恵か、それとも正規の手段でこの地へ訪れたからか、今回は肉体が透明にはならず、しっかりと世界に存在している。
「ここは、存在の墓場……だよな?」
「おや? 既に来た事がありましたか! ここは我々しか存在できない特別な世界。特にこの先は10番から上の存在しか立ち入る事が禁じられている世界の果て、パンドラの箱の中です。私は外で待っていますので、新人として挨拶を済ませてきてください!」
目の前にある不気味な洋館を指差しナビが語る。
館自体が陽炎のようにゆらゆらと揺らめき、異質な色彩と雰囲気を持って佇んでいた。
以前はこんな館などあっただろうか。そんな事を考えながら、ナビに促されるままに扉を開けて中へと入る。
広い空間にクリスタルで作られた円卓一つ。純金でできた椅子が十脚。宝石の散りばめられたシャンデリアに、黄金に輝く家具がズラリと立ち並ぶ。
外の雰囲気とはガラリと変わり、この世の贅を尽くしたような絢爛豪華な室内はまるで神々の聖地。世界の全てを照らすかのような神々しさと煌びやかな光が室内を彩っている。
「ケヒヒ! なんか、なよなよしたのが来たぞ!」
純金製の椅子に不安定な体勢で座っている青髪の女性がオレの姿を見て言った。
よく見るとかなり露出度の高い服を着ており、オレは思わず目を逸らす。
「貴方が新たなる10番ですね。歓迎しますよ」
打って変わって落ち着いた雰囲気を持つ緑髪の女性が、落ち着いた声音でオレを迎える。
室内にはオレを含めて三人しかおらず、想像していた感じとはまるで違った。
「あのさ、もしかして二人だけで会議をしてたのか?」
「それは仕方がない事です。2番は死に、1番も3番も、その他大勢が消息不明。今まともに動けるのは4番の私、そこにいる7番、そして10番の貴方。つまり、我々しかいないのです。私達だけで宇宙全体の均衡を維持しなくてはなりません」
「宇宙の均衡? オレには何がなんだかさっぱりだ」
「おい新入り、名前はなんだ」
7番が顔を異様なまでに近づけてオレに問う。
立ち上がった7番は細身で背も高く、とてもスタイルが良い。
「名前はわからない。とりあえずオレと名乗っている」
「ケヒケヒ! 変な奴だな! おい、4番、俺様はいい事を思いついたぞ、今議題に上がっていた暗黒物質の討伐をこいつにやらせよう」
「それは妙案ですね。ですが、まだ人間の色が残っている彼には荷が重いのではないでしょうか」
「ケヒへ! だからこそ実力を試すのに丁度いいんじゃないか!」
オレを置いてけぼりにして話が勝手に進んでいく。
「あの……暗黒物質って何だよ。何だがわからんが、それをオレに倒せって?」
「ケヒケヒヒ! 暗黒物質は宇宙の歪み。厄災の源さ。何度殺しても長い年月をかけて次が生まれる。人類は混沌とも呼んでるな。放置すれば、宇宙全体が飲み込まれちまう。そいつを排除するのも我々の役目の一つなのさ」
「それをオレに倒せって!? 普通に考えて無理だろ。宇宙の歪みに混沌? 御伽話じゃないんだから、無茶言うなよ」
「落ち着きなさい10番。我々は混沌よりも圧倒的に高位の存在なのですよ。宇宙の歪みなど、恐るるに足りません」
「ケッヒッヒ! そうさ、俺様なら半日もあれば倒せるぜ。新人に与える試練にしては、随分と優しい部類だと思うけどな」
八重歯を見せて、7番が妖しく微笑む。
拒否する権利など新米にはないであろう。
無理矢理そう納得しなければ、この場は収まりそうになかった。
「じゃあとりあえず、やってはみるけど、オレはやる事が多くて忙しいんだ。すぐに取り掛かれるかはわからないぞ。レオナルドの件に、10番街の復興、10番街の住民も助けに行かないといけないし、刹那達がどうなったかも気になる。問題が山積みだからな」
本当に問題だらけだった。
どこから手を出すべきかもわからないレベルだと言うのに、宇宙の脅威を排除する命まで与えられ、オレは頭を抱える。
「ケヒ、レオナルドな。聞いてて胸糞悪くなる演説しやがって。実際問題どうするよ、あいつ。人類全てを味方につけても、俺様達を倒すなんて不可能なのにな。いっそ人類含めて皆殺しにしてやるか!」
「滅多な事をいうものではありませんよ7番。ですが、実際にかなり厄介な事にはなりました。人類を掌握したがるのは、我々を倒すのとは別の意図がありそうですね。彼の排除も検討しなければなりません」
4番も7番も、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
尊厳を踏み躙られたようなものなので、仕方ないと言えば仕方ない。レオナルドが憎いという点ではオレも同意見であった。
「あとさ、5番がどこにいるか分からないかな。居場所を知りたいんだけど」
ついでとばかりにオレがアレスティラの行方について聞くと、途端に7番が顔を曇らせる。
「ケッ、5番、アレスティラか。俺様はアイツが大嫌い。どこにいるかなんて知りたくもない。自分だけお利口さんの良い子ちゃんぶりやがって! ケッ!」
「7番、仲間に対しての悪態は控えなさい。……先程も言った通り、主要メンバーのほぼ全てが消息不明ですから、会いたいとなれば宇宙中を虱潰しに探すしか他にありません」
「そっか、そいつはちょっと現実的じゃないな。じゃあ、まずはやれる事からやるしかないな。忙しいからオレは帰るよ。今日は挨拶だけ、またな!」
「ケケ! また来いよ。数少ない仲間なんだ、仲良くしようぜ!」
「暗黒物質討伐の件、頼みましたよ」
「わかった! じゃあな」
オレが駆け足で館を出ると、ナビが律儀に待っていた。
「オレさん。顔合わせはどうでしたか?」
「なんか普通にいい奴らで拍子抜けした。流れで暗黒物質ってのを倒す事になった」
「宇宙の歪みを……それはまた大任ですね。了解しました。スケジュールに入れておきましょう」
ナビが【神様手帳】と書かれた名前そのままの手帳に羽根ペンで文字を書き込んでいく。
「ナビさんって今までもずっと、そんな秘書みたいな事してたの?」
「当然です! 私の存在理由は10番に尽くす事ですから!」
「なんか、ありがとうな。頼もしいよ」
「とんでもないです。当然の事ですから。さっ、やる事だらけなので、キビキビ動きましょう!」




