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叛逆のペルセウス。そしてオレは神となる。


 ひとけのない塔の中、階段を駆け上がりながらオレは考える。

 何を話すべきか何をするべきか。

 あれこれと考えているうちに、最上階へと辿り着く。

 万感の思いで扉を開く。

 そしてついに神との謁見が叶うときが来た。


「アンタが10番か。助けに来た」


『よく来てくれたね。事情があって今、声が出せなくてさ、思念会話になってしまうけど、ごめんね』


 歳の頃なら14、5歳であろう。

 ジーンズにTシャツというラフな格好をしている金髪の少年が10番街の主であった。


「やっと会えたな」


『そうだね。ボクも君に会えて嬉しいよ』


 童顔の少年は優しい表情で微笑む。

 オレは10番街の神という存在を勝手なイメージで、厳つい男性だと思い込んでいた。目の前で愛らしく微笑む少年の笑顔に虚をつかれた形となり、一瞬、言葉をなくす。


「……えーと、君? も元々人間だったって聞いたけど」


『そうだね、ボクはアリシアという普通の人間だった。女の子が欲しかった両親に可愛いらしい名前をつけられて、昔はよく友達に揶揄われていたっけ……』


 遠い目をしながら話すアリシアは、側から見れば完全に女性だと思える程に美しい容姿をしている。


「それがどうしてエニグマなんかに?」


『あー、そのエニグマってやつさ、仲間に言うのはやめた方がいいかな。ボクはなんとも思わないけど皆んなは心良く思ってないみたいだから。ナビもそうじゃない?』


「そう……ですね。一部の人間が勝手に決めた呼び名ですし、蔑称のように感じますから。ですから我々も自信のことをエニグマだとは思っていませんし、そう呼称されたくはありません」


「そうだったのかな。ごめんな」


 オレが謝罪するとアリシアは気さくな笑顔で答える。


『気にしなくてもいいよ。それで、ボクが()()()()()理由だったね。

 ──あれは今からもう数千年以上も昔のこと、人類が文明を作り始めた頃だった。

 我々は人類に介入するべきか悩んでいた。もっともその頃ボクはまだ普通の人間だったけどね。恐ろしい速度で発展を遂げる生命を見つけた当時の10番は、自らの役割を放棄して、自由に生きることを望んでいた。天の運命か、単なる偶然か、白羽の矢が立ったのがボクだった。

 10番はある日突然、ボクの目の前に現れ、ボクと契約し、全ての力を託して消えた。

 彼の最初で最後の言葉はこうだった。

 我々の存在自体が全ての生命に対する侮辱であり、忌み嫌われるべき悪でないことを証明するのだ。鍵を探し、答えを見つけろ』


「突然、か。そんなところまで、オレ達は似ているんだな」


『──結局ボクには答えを見つけられなかった。ボクがした事といえば世界から忌み嫌われる者達のために楽園を創り出した事』


「それが10番街……」


『昔はもっと簡単だった。世界は一つだったんだ。()()あって、世界が壊れて、全ての生命は袂を分かった。

 オレ君、君に頼みがあるんだ。聞いてくれるかな』


「頼み? 助けに来ただけじゃ足りなかったか?」


『ハハっ! 君は面白いね。実はボクはもうじき死ぬんだ。これを見てほしい』


 アリシアがTシャツを捲り上げると、目についたのは胸にポッカリと空いた大穴だった。


「そ、んな……」


 驚きの事実にナビが絶句する。


『不可能殺しにやられた傷さ。ご覧の通り、10番の力を持ってしても回復しない。君達だけでも逃す事ができて本当に良かった』


 オレは10番が喋れない理由をここに来てようやく察する。

 今も平気な顔をしているように見えるが、傷口から漏れ出した光が粒子となって天へと昇っていくのが見える。

 ジェイドの死を目の当たりにした時と全く同じ光景だった。


「不可能殺しってさ、結局なんなんだよ」


『言うなれば自然の摂理かな。生命はいつか死ぬ。そのことに例外はないだろう? それが例え我々であろうと死ぬべきだと誰かが判断したのかもね。ここでポイントになってくるのは、これが誰かの意思だと言う事。我々は永遠に生きてきて、今までにこんな事はなかったんだ。つまり、不可能殺しは故意的に誕生させられた。ボク達を殺すという明確な意図だけを持たせてね』


「オレ達を殺すためだけに作られた存在……そんな奴が……」


『話を戻していいかな? ボクの頼みはこうだ。君に10番を継承してほしい。そして君に新たな10番街の神となってもらいたい』


「いェっ!? 無理無理、そんなの出来ないって! 第一、神様なんて何していいかもわからないし」


『そんなに重く捉える必要はないよ。元々10番街は行き場をなくした人達の楽園を作るためにボクが生み出した世界だ。ボクが君達を守ったように、君も困っている人、理不尽な仕打ちに逃げ出した人々を守ってあげて欲しい。それが力を持つ者のさだめだ』


「いやでも、いきなり神様なんてさすがに……」


『何をしたらいいかについてはナビが教えてくれる。ナビ、今までありがとう。これからはオレ君を支えてあげてほしい。頼めるかな?』


 終始会話を聞いていたナビがアリシアのそばに歩み寄り、跪く。


「もちろんです。この身を捨ててでも、オレさんを守り、正しい方向へと導きます。私も貴方のような人格者のもとで仕事が出来て光栄でした。後の事は任せて、どうかゆっくりとおやすみください」


『本当に、ありがとう。……オレ君、こちらに来てくれ』


 アリシアに呼ばれてオレもゆっくりと側に近寄る。

 顔には緊張と困惑、焦りと不安の色が混ざっている。


『大丈夫、何も怖くないよ。ボクと君は一つになるんだ』


「ほんとにオレで大丈夫かな。イマイチ自信がないんだけど」


『自信を持って。誰がなんと言おうと君は君でしかないんだから。己の信念を貫き通せば、他には何も必要ない。如何なる障害も、あらゆる困難も、ボク達なら乗り越えられる。共に行こう、そして倒すんだ、真の悪意を』


「真の……悪意?」


『君を化け物にし、不可能殺しを作り出し、そしてレオナルドを操っている奴がいる。そんな事ができるのはボクの予想だと1番になるんだけど、そんな見え見えな答えではないよね。全ての答えを、君が見つけるんだ。この世界を滅ぼそうと企む悪、破滅と混乱を生む陰謀を全てぶち壊してやればいい。今日から君は世界の守護者で、叛逆者だ!』


 オレがゆっくりと頷くと、10番から洗礼の光が流れ出す。

 

『さぁ、世界よとくと見るがいい! ここに古き神が死に、新たなる希望が生まれる。彼こそが鍵、世界の光、全ての悪を打ち砕き、全宇宙に真の安寧をもたらす男だ!』

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