全員殺せ、情けは捨てろ。ぶつかり合う、心(人)と心(化け物)。
塔の中へと侵入してきたオレとナビを複数人の男が迎える。
塔の内部は歪な外観とは異なり、近代的に整えられていた。
本棚や机、モニターに実験器具などがあり、一見すると何かの研究施設のようにも思える。
二人を迎えた男達が先程の傭兵集団と決定的に違うのは、敵意が感じられないことだった。
その事がオレとナビの緊張感を幾分かほぐし、対話をしてみる気にもなってくる。
「お前達もレオナルドの配下なんだろ? オレ達の事はわかるよな。お前らが言うところの世界の敵だけど、どうする?」
遠回しだがストレートに質問をぶつけると、群れの中心にいた小柄な男性が一歩踏み出し、柔和な雰囲気と態度で語り始める。
「……外の連中の様子を見て、君達には物理的なアプローチ、つまり、武術や魔法、基本的な攻撃手段が通用しないことがわかりました。だから我々は特殊な攻撃手段が君達に与える影響について研究させてもらいたいのです」
あくまでも柔らく、丁寧に男は語る。
悪い気はしないが敵の配下という頭もあり、複雑な心境のまま、返答をする。
「なんのために」
「世界の平和のために」
男が真剣な表情で即答する。
「そのためなら死んでもいいって? エニグマが怖くないのか」
「平和は犠牲なしには得られない。矛盾してるけど、僕はこの考えが大好きだ。貧富の差、差別社会、法と秩序に守られた自由。存在するのに存在しない君達、全てが矛盾。この世界そのものの事だからね。だから、僕達が死んでも誰も何も思わないけど、確実に世界には影響を与える事になる。それでいいんだ。ねえ、ペルセウス?」
「なんだ、それは」
「神話に登場する英雄ですよ。君と境遇がよく似ているから、我々は君をそう称しているんです。人とエニグマの中間にいる君をね。君も人の子なら、人類のために、知恵を貸してくれ。エニグマではなく、君個人として」
少しずつ、オレの心は敵に同情しつつあった。
もしかすると、それすら敵の術中なのかも知れなかったが、その言葉はオレを拘束した。
その場に立ち尽くし、指一つ動かさない。
そんなオレをナビは何も言わずに静かに見守っている。
「まずは一番手、彼の持つ邪剣ネクロブロウシアは斬られた側が例え致命傷を免れても、斬ったという事実が無限に蓄積される。つまり、擦りでもすれば継続ダメージで確実に死にます。普通ならば」
「その考えじゃダメだ。斬るとか撃つとかは基本的に無駄だと考えた方がいい。やる前にやられる。だから武器の付与能力依存とかは通用しない。学んだか?」
剣を手にした研究員が、恐る恐るオレに近寄ろうとしていたのを力ではなく言葉で制する。
あろうことか、敵にアドバイスまでしている。
人として、人類のためになりたいと考え出している。
「なるほど。状態異常も駄目ですか。なら、物理干渉ではなく、次元干渉級の厄災なら?」
両手から光を放ち、二人目の研究員が前に出る。
「呪縛神の八封封印」
閃光を放つ両手を床につけ、オレに実験を試みようと力を解き放とうとした、その瞬間、それは冷気とともにやって来た。
「氷駕世界」
一瞬にして室内が絶対零度の凍気に包まれる。
床も壁も瞬く間に凍りつき、突然の出来事に逃げ惑う研究員の体温を奪い尽くし、氷の置物に仕立て上げる。
「氷点爆結」
室内を凍り付かせた男が拳が握り込むと、樹氷が床から突き上がり、突き出した樹氷の先端部分に冷気が収束し、次の瞬間には氷の礫を機関銃のように撃ち放つ。
凍りついたレオナルドの配下達に礫が雨霰のように降り注ぎ、粉々に砕け散った。
床には凍りついた血肉とかつて人間だったものが散乱している。
「やはり、お前はまだ人間だな。レオナルドは我々の存在全てを否定し侮蔑したんだぞ。何を遊んでいる。お前なら、話し合うこともせずに全員を焼き殺せたはずだ。全員殺せ、情けは捨てろ。俺達を悪だと言うのなら、世界をまるごと消せばいい」
足元に転がる凍りついた肉塊を踏み砕きながら男が言う。
「なぜ殺した! 世界を滅ぼすのは3番がやった事と変わりないし、本当に悪党になるだろ。あんたもエニグマだな。名前があるなら教えてくれ」
「俺は18番の氷駕だ。お前が15番を継いだオレだな。同属帯として挨拶に来た。どんな奴かと思って来たら、敵と仲良く会話してやがる。第一印象は最悪だぜ」
青く輝く眼光を放ちながら氷駕が言った。
「だけどさ、ああやって一生懸命に試行錯誤して努力してる奴は好感が持てるんだ。あんな奴が案外、救世主になったりするかも知れないし、敵だとしても分かり合える可能性もあるだろ」
オレが反論すると氷駕は冷めた態度で熱く語る。
「お前の考えは根本的に間違っている。では仮に、人類を抹殺するために努力していますと言うやつが現れたら、お前は協力するのか」
「それは……しない」
「そうだろう。お前はどっちつかずだから、そんな軽はずみな行動ができるんだ。人類側につくか、我々の仲間としてレオナルドと戦うのか、ハッキリと選択をしろ。そうでないと、我々としてもお前をどう扱うべきか判断に困る」
正論なだけに反論できずにいるオレを見て、ナビが助け舟を出す。
「オレさん、何も今すぐに決断をする必要はありません。人間とエニグマの両特性を持つ今だからこそ、できる判断もあると思いますから」
「29番、貴様、何のつもりだ。人類の味方をするのか」
「私はオレさんの味方です。彼は人間に戻っても、我々の仲間になったとしても、どちらにしても必ず世界を救ってくれると信じていますから」
「オメデタイ野郎だな。だから最下層の連中は嫌いなんだ。我々の宿命も責任も何も考慮しないで、好き勝手に喋りやがる。まぁ、いい、今日はジェイドの後任がどんな奴か見に来ただけだ。帰る。オレ、次に会うまでに、自分の運命を決めておくんだな。中途半端は許さん。……それと、仲間として警告しておく。12番がお前を探している。直に姿を見せるだろう。その、なんだ、お前も大変だな。頑張れよ」
言葉の最初と最後で氷駕の態度が豹変した。
「12番って? なんで急に憐れんだような態度になったんだよ」
「12番は水使いの女性ですね。そういえば昔、15番のことを一方的に追い回していました。ストーカー気質で、愛がとても、とーっても重い人です。ものすごく、怖い人ですよ。死ねないのに、死にたくなるくらい……カミソリの刑とか……」
言いながらナビが身震いする。
カミソリの刑と聞いた途端に心が痛み、オレも何故か身震いした。




