隔離世界にて。束の間の休息。
10番街を離脱したオレ達は自宅のある隔離世界へと戻ってきていた。
突然現れた得体の知れない連中を前に、ミカは悩んでいた。
オレはともかくとして、目の前にいる男女がエニグマだと察していたからだ。重苦しい沈黙が流れ、誰も口を開こうとしなかった。
「今の、なんだ、レオナルド? とかいう胡散臭い男の話は本当か。頭に直接話しかけてきたな。なんだいアイツは」
このまま全員が押し黙っていても仕方ないと、ミカが疑問を投げかける。
「正体についてはオレが聞きたいよ。オレの頭にもアイツの演説が届いたけど、よくもまぁ、あれだけ好き放題、言えるよな。オレが半エニグマなのは事実だけど世界の滅亡なんて望んでないしさ」
「ふふん、もとより覚悟はできていた。今更何を言われても妾は何も感じぬ。あの男の言葉が嘘だと証明すればいいだけの話じゃ」
「あの男、やはりあの場で消しておくべきだったな。ナビ、10番との間に何があった。そろそろ教えてくれてもいいだろう」
「うん……色々とあってね。私達が10番のいる星の中枢にたどり着いた時、そこに不可能殺しが現れたの。10番は私達を逃して、不可能殺しを倒すために星ごと道連れにする手段を選んだ」
ミカが疑問を投げかけたのをきっかけに、全員が堰を切ったように語り出す。情報量が多すぎて一度に全てを理解しきれない。
ミカは苛立ちを隠す事なくテーブルを殴りつけた。
「あー! うるさいっ、一度に話し出すんじゃない、大体あんたら誰なんだ。アタシにも理解できるように順序立てて説明しな」
一瞬にして場が静まり返る。
最初に口を開いたのはオレだった。
「あー、えーと、全員分の自己紹介をすると、オレ達のことは何だか通称エニグマって呼ばれてるらしくて、この女性が29番のナビさん、男性が17番のカズキさん、そこの銀髪獣耳が妖狐の曄、このガラの悪い神様が9番のノノと好い仲のミカさん。よし、今回は上手く説明できただろ」
オレが得意気にしている隣でナビとカズキがヒソヒソと密談している。話題はもちろん、ミカとノノについてだ。
「おいナビ、9番は確か女性だと記憶していたが、それもかなり幼い容姿をしていたはずだ。オレくんは今、好い仲と言ったな?」
「シーッ! 何かを察しても、黙っているのが大人だから、静かにしてなさい」
室内が狭いこともあり、二人の会話はミカに筒抜けになっている。
ミカが顔を赤くして拳をプルプルと震わせていると、ちゃっかり聞き耳を立てていた曄が声高らかに笑い出す。
「なんじゃ、お主、神のくせにソチラの気があるのか! なんと面妖な! 妾が美麗だからといって、妙な気を起こすでないぞ!」
「はぁ? なんだこの化け狐、神に喧嘩売るとはいい度胸してるじゃないか、なんなら封印してやろうか? あ?」
「ほぅ、面白い、どこの何の神だか知らんが妾の百鬼夜行の前に跪かせてくれるわっ!」
「上等だ、表に出な、白黒付けてやるよクソ狐」
「お主は阿呆じゃな、この隔離世界に表などないわ、色に溺れて腑抜けたか、あ・ほ・う!」
「こんの、クソがっ! もうキレた、覚悟しやがれ」
曄とミカが取っ組み合いの喧嘩を始めた。
オレには仲良くじゃれあっているように見えたので、喧嘩を止めないことにした。
「オレくん、いつぞやは悪かったな。敵の策略にハマり、君を悪だと決めつけた。心から謝罪するよ」
カズキがオレのそばまで寄ってきて、真摯な態度で頭を下げる。
「あぁ、そんなんはいいよ。いつの間にかオレは宇宙一の大悪党になってるし、それに比べたら軽い軽い」
「それでは俺の気が済まない。なんなら俺を殴ってくれても構わない。さぁ、遠慮なくやってくれ」
言いながら頬を突き出すカズキを見て、オレは小さく笑う。
「ほんとにいいって。あの時全力で殴り合ったし、嫌な気持ちは全部、吹き飛んだからさ。これからは仲間としてよろしく頼むよ」
オレは自身の感情を真っ直ぐに伝えた後、右手を差し出す。
カズキは気恥ずかしそうな顔をしながらも、しっかりとオレの手を取った。
「さて、今後のことも含めて、一度真剣に話し合いましょう。不可能殺しとレオナルド、それに姿を消した5番の動向も気になりますし、ここからが真の意味で正念場ですよ!」
ナビの言葉にオレとカズキは深く頷いた。




