10番街消滅。調停者からの大切なお知らせ。
天に雷、大地に炎。
紅蓮と蒼の閃光が敵を目指して直走る。
荒れ狂う熱量の荒波が、10番街を焼き尽くす。
黄昏映える優美な世界を、火炎と雷光が染め上げ塗り替え、瞬く間に焦熱地獄へと変貌させる。
「おー、速い速い。よく動く。頑張るねえ」
疾風迅雷。颶風を身に纏い蒼の閃光が拳を振るう。
雷撃を纏った拳が直撃すると、レオナルドの顔面が弾け飛ぶ。
「獄炎弾」
カズキが放った地獄の業火がレオナルドの肉体を包み込む。
シュルシュルと音を立て、レオナルドの頭部が再生する。
焼いても突いても殴っても、まるで意味がない。
だとしたら、再生が追いつかない速度で処理する他にない。
オレとカズキは即席にしては見事と言える連携で、レオナルドを炎雷の暴威の渦中に放り込み、反撃さえも許さない。
二人のエニグマの戦意はレオナルドを圧倒しても尚、昂り続ける。
炎と雷が混ざり合い、絡み合い、怒涛の連撃となって男を襲う。
それは圧倒的な蹂躙だった。
誰がどう見ても戦局はオレとカズキの優位は揺るがない。趨勢が傾くことなど絶対にあり得ないように思える。
だが、攻勢に出ている筈の両者の胸中に一抹の不安がよぎる。
あまりにも、一方的すぎる。
沈黙というのは時に恐怖へと転ずる。
炎雷の中、微動だにしないレオナルドの顔を垣間見たとき、二人のエニグマが同時に恐怖し、攻撃を止め、遥か後方へと距離を取った。
笑っている。
レオナルドは殺意と狂気に満ちた笑顔でほくそ笑んでいた。
心の底から震えが来る。得体の知れない恐怖に精神が侵される。
この男は殺さなければならない。考えるよりも先に本能がそう叫んでいた。
オレとカズキは恐怖を噛み殺し、遠方から最大限の力で雷と炎の閃光を撃ち放つ。
迫り来る絶大なエネルギーを見つめることなく、レオナルドは遠方にある朽ち果てた都市を眺めながら微笑を浮かべている。
「いやぁ、実に美しいな、黄昏というものは。異界の街を照らす朱の光、朽ちていく都市と滅びゆく世界、これはまさに人とエニグマの関係そのものだ。この陰翳礼讃こそが、世界を世界たらしめていると私は思う。君達も血気盛んなのはいいが、例え敵だとしても談笑できるくらいのゆとりを持ったらどうだい? 喜劇の舞台には炎も雷も不要だよ」
苦笑しながらレオナルドが言葉を紡ぐと、雷と炎の閃光は最初から存在しなかったかのように世界から消失した。
この光景をオレは知っている。因果を捻じ曲げ、操る、天使が使う最大の秘術。今見たものはルナの言霊の能力そのものだった。
「それは、ルナの言霊……お前、ルナに何をしやがった!」
「いけないなぁ、オレくん。大切なパートナーを放って単独行動なんてしたら。この世界の住民は我々が保護している。直に君がこの星を消してしまうからね。予定調和だよ」
満面の笑顔でレオナルドがピースサインを見せる。
オレにはその仕草が不快で仕方なかった。
「その口調、その態度、お前の中に3番の面影を感じる。いや、それだけじゃない、貴様、本当に何者だ」
ここに来てようやく、レオナルドがカズキの存在を認知する。
ゴミでも見るような生気のない瞳でカズキを見つめ、面倒で仕方がないといった様子で返答をする。
「私は全てさ。人間であり、エニグマであり、希望であり、世界でもある。そしてそのどれでもない。君達のような存在がいつまでもこの世界にのさばっているから、我々が生まれたのさ。理解できるかな?」
人を小馬鹿にした態度でレオナルドが嗤笑する。
「不可能殺しだけじゃないのさ、君達の脅威はね。我々も既に君達を殺す前段階に入っている。直にこの世の理は生まれ変わる! ──おっと、お迎えが来たようだ。パーティはお開きにしよう」
天を指差し、レオナルドが吼えた。
その直後、慌てた様子でナビと曄が駆けてくるのが見える。
「オレさん!」
「ナビさん、10番は? それにアレはどうなった」
「それどころではない、この星は消滅する。今すぐに避難するのじゃ」
余程急いだのであろう、曄の額には玉のような汗が浮かんでいた。
「それは出来ない。あいつは今この場で倒さないといけない。あいつ放っておくと大勢の人が死んでしまう。そんな気がするんだ」
「俺も賛成だ。あいつはこの世に存在してはいけない悪だ。5番が奴に怯えていた、あの男は普通じゃない。危険なんだよ」
オレの言葉にカズキが賛同すると、ナビは呆れたような怒ったような表情で男二人を睨みつける。
「イノシシ馬鹿は黙ってなさい。オレさん、四の五の言っている場合ではありません。10番の決死の特攻なのです。巻き込まれたら、我々でもタダではすみません」
「どういうことだよ、何がどうなっているんだ」
「詳しいことは追って説明します。今はすぐに避難です。行きますよ! 転界群瞬!」
有無を言わさず、ナビは三人を連れて10番街から離脱した。
後に残されたのは終末の世界。
大地が裂け、天が鳴き、世界崩壊までのカウントダウンが始まっている。
誰もいない世界の中心に一人、レオナルドは佇む。
「あと少しだ、あと少しで君は完成する。早くこい、こちら側に。君だけが、全てを理解できる。君だけが……。さよなら世界、さよなら10番街。私はレオナルド。私はレオナルド。私はレオナルド。私はレオナルド。オムニ、エンド」
◇ ◇ ◇ ◇
【えーと、これで音声は届いているのかな。……失礼、なにせ、このような試みは初めてなものでね。皆様の意識に直接語りかける無礼を許していただきたい。
──私の名はレオナルド・オムニ・エンド。世界の平和と安寧のために活動する調停者という機関の総帥を勤めている者だ。
突然ではあるが、全宇宙に生きる生命の同士諸君に重大な報告をしなければならない。
古くから世界、いや宇宙というべきか、その全てを支配しているエニグマという存在を知っているだろうか。
人生を謳歌し、平々凡々な日々を送る皆様は知らなくて当然の存在だ、むしろ、知らないほうが幸せだろう。
だが、人は生きていく上で、時に理不尽な仕打ち、受け入れ難い事実、残酷な運命を受け入れなければならない場合がある。
だから私は話そう、世界の仕組みを、ありのままの事実を。
真実を受け入れる。今がその時なのだ。
エニグマは宇宙を、生命を支配し、勝手気ままに人命や星の命を消していく。我々がこうしている間にも、彼等の魔の手は迫って来ている。
もしかすると明日にでも隣で笑っている大切な人が消されるかも知れない、故郷が宇宙の塵になってしまうかも知れない。
そんな紙一重の状況で、我々は生かされているのだ。
なぜそのような傍若無人、横暴な行為が許されるのか、答えは簡単だ、我々に抗う術がないからだ。
彼等は不死であり、不滅であり、絶対の存在なのだ。現時点で、人類にエニグマを滅ぼす手段は見つかっていない。
だというのに危険が迫っている。世界の終焉は確実に近づいて来ている。気持ちだけでは救えない、想いだけでは守れない。
ならば私が戦おう。私が先陣を切って宇宙の脅威を排除するべく命を賭して悪と闘い、皆を守ると約束しよう。
私は死を恐れない。私が怖いのは諦めることだ。
全てを投げ出し、他者に依存し、自身の存在意義すら見失なうことを私は何よりも恐れている。
今ここに私は宣言する。全てのエニグマを打ち滅ぼし、エニグマの頂点、名もなき男オレとその従者、曄の首を必ず討ち取ると。
私は君達に見返りを求めない。だが、もし一つだけ願いを聞き入れてくれるなら、どうか私のために祈ってほしい。世界の平和と秩序のために。
世界の顛末がどんな結果になろうとも、私は絶対に諦めない】
◇ ◇ ◇ ◇
全ての謎が明らかになった時、人々はコウベヲ垂れて我々を讃えるであろう。 ──レオナルド・オムニ・エンド。




