炎雷問答。男の誇りと命を懸けて。17番エニグマ・カズキという男。
向かい合う男と男。
己を捨てても大切なものを守りたい。
胸に同一の想いを抱く両者が、皮肉にも敵意を持って対峙する。
彼我の力量差は歴然。お互いが同じ事を考えている。
オレもカズキも、相手に勝てる算段が見つかり至っていない。
相手を神すら恐れぬ不可能殺しだと思い込む男と、不死性が薄れた人間並みの力でエニグマとシノギを削らなければならない男。
互いが互いに勝てない相手だと考えるならば、最後にものを言うのは勇気と胆力。小細工無用の真っ向勝負。
「獄炎弾」
「雷撃弾」
挨拶代わりに放たれた火炎弾と雷撃弾が激突し相殺する。
暗黒に生まれた閃光が消えるのを合図に男同士の死闘が始まる。
オレとカズキが同時に飛び出し、互いの息が掛かるほどの距離で拳を繰り出す。
顔面を破壊しようと迫り来る拳を躱し、捌き、息つく間もなく攻撃を繰り返す。
当たれば終わる。極限状態。間断ない集中状態を維持して、互いの隙を探り、好機を待つ。
「絶対に、この先には行かせねぇぞ、化け物がッ」
「化け物はお互い様だろ、オレにだって、守るべきものがある」
飛び交う怒号。剥き出しの本能。猛り続ける闘争心。
「貴様にはわかるまい。てめえが壊そうとしているこの先の世界は、戦うことしか能がない俺の唯一の存在理由。化け物の気分一つで軽々しく消されてたまるかよ。貴様は滅ぶべき悪だ」
「だから違うって! オレは世界を救いたいんだ。話し合おう。わかり合えるかも知れないだろ」
「悪党の戯言など、聞く耳持たん。燃え尽きろ」
両者の足下から紅蓮の火柱が噴き上がる。身を焼くような熱気に一瞬、呼吸が止まる。呑まれれば瞬く間に塵と化すであろう獄炎を目に、オレはキレた。
「そうかよ、話も聞かずに一方的に悪だと決めつけて滅ぼすのがお前の正義か、そんなもんは、焦がし尽くしてやる」
雷鳴轟き、雷が降り注ぐ。
噴き上がる火柱を落雷が貫き、広がる熱波が世界を包む。
オレの怒りと共に落雷も勢いを増していく。
雷光が落ちた先に生まれる雷華。
炎が吹き荒れ、雷が荒れ狂う地獄のような光景の中でも心を惹きつけるような純粋な青。
戦場に咲いた閃光の粒子がオレの拳に収束していく。
「オレはお前の正義を認めない。守るためなら何をしてもいい、そんな考えだから争いが消えないんだろうが!」
雷撃を纏った渾身の右ストレートがカズキのガードをブチ破り、胸部を貫いた。
「ッっハッ、ガッ……効いたぜ、やるじゃねえか。熱い、熱いぜ、お前の想い、魂が震える。本気を出すのにふさわしい、見せてやる、俺の変身を」
カズキの胸に空いた大穴に炎が集まり、肉体が再生していく。
炎が逆巻き、炎気を鎧のように身に纏う。
紅蓮の装甲。壊滅の腕。焼滅の闘気。
熱気溢れるカズキの肉体はまるで太陽そのもののようだ。
今の人間に近いオレにとって接近するだけでも自殺行為であろう。
大気が燃えている。事実、距離を取っているというのに、息をするだけで喉が傷つき、肺が焼けつく。
カズキがその場に存在している事自体が、攻撃の手段になっている。
こうなると肉弾戦どころではない。エニグマの特性が強く出ている時ならいざ知らず、下手に手を出せば腕ごと焼き切れてしまうだろう。
遠距離から雷撃を放とうにも、人間として魔力で自然の雷を放っている現状では空気中の水分が足りずに放電できない。
完全な手詰まり。有効な戦闘手段が見つからない。
「さぁ、お前も出せよ。本気を。そんなものじゃないんだろ」
オレの選択肢に逃げの一手はなかった。絶対に諦めないと誓ったのだから。
思考を巡らせ、光明を探しているオレを見て、カズキが冷徹な眼で問いかけてくる。
「貴様、何を考えている。貴様が本当に不可能殺しなら、俺はとっくに死んでいてもおかしくないはずだろ。窮地に於いても何もしないつもりか。どこまでもふざけた奴だ」
オレは一つの答えを導き出していた。
足りないなら、補えばいい。
「あぁ、見せてやるよ、オレの本気をな。死ぬのは貴様だ……」
オレは立派に悪役として振る舞う。
バチバチと音を立てて両腕に雷が発生する。
魔力で生み出せないなら、命を懸ける。
それが結論だった。
自身の生命力と引き換えに強引に雷に変換し、具現化する。
相手を倒せるかどうかはわからない。
約束されているのは身の破滅。
生み出すは黄金の雷。
「なんだそれは、その輝きは。貴様、まさか命を削っているのか」
どんどんと勢いを増していく金色の輝きを前に、カズキがたじろぐ。
「オレに足りないものがようやくわかった。不可能殺しに殺された仲間のため、世界を消された犠牲者のため、自分を殺してでも世界に平和をもたらす覚悟と、──誇りってやつだよッ!」
オレが黄金の雷を解き放つと同時にカズキが紅蓮の閃光を打ち出した。炎と雷が衝突し鬩ぎ合う。
オレは己の身を顧みず、生命力を際限なしに注ぎ込む。
全身が異常なまでに発熱する。思考回路が麻痺し世界が反転する。それでもオレは力の放出を止めない。
しかし限界は突然に訪れる。
体の内側からバキバキと異音が聞こえる。
次第に視界が狭まっていく。
雷が炎を徐々に呑み込んでいくが、時間が足りのは明白だった。
「「いい加減にしろ!!」」
ゴチン!
緊迫した状況とは思えぬ間の抜けた音が世界に響く。
炎と雷は強制的に遮断され、オレとカズキは頭を抱えてしゃがみ込む。
男の闘いを止めたのは小柄な女性と銀髪の少女だった。
「……曄」
「ナビか。来るなと言ったはずだ、何をしに来た」
バチン!
今度は乾いた音。
曄とナビがオレとカズキを同時にビンタした。
「命を懸けるなど、世界を救う前に死んだらどうする。少しは考えぬか、うつけもの!」
「昔からアナタはそうよね、イノシシ馬鹿。彼が私が話してたオレくんだから。信憑性もないのに他人を信じて殺し合ってバカみたい。ほんとバカ、ばかっ!」
返す言葉が見つからず、二人の男が同時に黙り込む。
「ふふん。妾がナビを呼ばなかったら、危なかったの。話が通ずる相手で良かった。まさに僥倖じゃ!」
「私には伝令が来なかったけど、これも誰かの計算なのかしら。事情は聞いたけど、世界も今は半信半疑といったところでしょうね」
「……レオナルドだ。オレ達を嵌めたエニグマの男は自分をレオナルドと名乗っていた。ナビさん、何番かわかるかな」
オレに問われたナビが即答する。
「レオナルド? そんな名前の仲間はいませんよ。カズくんは心当たりがある?」
「いや、俺が連絡を受けたのは36番のただのレニーだ。戦闘力も皆無で我々の仲間内でも空気のような奴だった。レオナルドという仲間は存在しない」
ゾクッとオレと曄の背筋に怖気が走る。
二人の頭に浮かぶのは当然の疑問。
「嘘だろ……じゃあオレ達が会ったアイツは誰なんだよ」
「……恐らくは偽名か、身分を詐称しているか。頭が吹き飛ぶのを妾も見た、エニグマではあるのだろうが、……いや待て、幻術か超再生の能力があれば、あれくらいの芸当もできるのか? うーむ、謎じゃ!」
「とりあえず、10番街に戻りましょう。状況が不明瞭すぎます。下手に動くのは得策ではありません」
ナビの提案を受け入れ、全員で10番街に帰還することにした。




