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存在の墓場。世界の未来を決める者。


 何も存在しない場所。

 存在が許されない場所。

 無限に広がる灰の色。

 入り口も出口もない、見せかけだけの虚妄の空間。

 世界ともいえない、場所とも呼べない。

 ここは、存在の墓場。

 

「なんじゃ……この場所は、自分自身を知覚できない、まるで、無、そのものじゃな」


 かつて妖狐と呼ばれていた者が声を出した。

 

「おいキツネッ、てめえもいるのか、殺してやる」


 かつてジェイドと呼ばれていた者が怒声と共に閃光を放つ。

 しかし閃光は存在を許されない。

 刹那の瞬きを残して閃光は消滅した。


「何がどうなっておるのじゃ、能力はどうなる。 ──百鬼夜行!」


 ガタゴトと音を立てて空から何かが落下してきた()()()()

 不快なノイズを掻き鳴らし、扉が開く音がした気がするのも、幻聴だろうか。


(あね)さん、だめでーす! そっちの世界が異質すぎて移動できませーん! もしかして、大ピンチですか〜!?』


 扉の中から女性の声がするような気がする。  

 

「なんじゃと!? ならば直接、()を放て。生命無きものなら或いはいけるやもしれぬ」


『了解しました〜! 太陽神の金鎖(デスティニーチェーン)


 扉から金色に輝く鎖が飛び出してくる。

 鎖は一直線にドコかを突き進み、正体不明のナニかに絡みつく。


「クソッ、なんだこれは何も見えないのに、動けねぇ」


「やれやれ、一応この場所にはお互いにイルようじゃな。

そろそろ熱も冷めたであろう、お主のせいで10番を探る計画がパァじゃ、代わりに色々と吐いてもらうぞ」


 姿形も見えないというのに、妖狐が笑っているように感じ取れる。それをジェイドが憎悪の顔で睨みつけていると思われる。


「なめるなよ、獣風情が、焼き殺す! なんだ、雷がでねぇ」


「無駄じゃ、その鎖は太陽の化身、半分人間の今のお前に断ち切れる代物ではない。まぁもっとも、鎖がなくても今の我々は無のような存在だろうがの。ふふん、透明同士では喧嘩にもならぬわ」


「クソがぁ、いつまでも俺は足手纏いかよ、これじゃあ死んでも死にきれねえ……結局何もできないのかよ……」


 灰色の中に声だけが響き、即座に消える。後には何も残らない。


「お主、何者じゃ、なぜその男の中からいきなり現れた」


「……生前、こいつには悪いことをしたからな、せめてもの罪滅ぼしだよ。ダメだったけどな、いつだって俺は下衆野郎の代表だ」


 お互いの声と存在を薄らと感じることはできるものの、座標も距離感も姿形もまるで認識できない。

 会話を続ける他にすることはなく、自身の存在という認識すら消えてしまわないように、必死になって交互に口を動かし続ける。


「生前と言うと死んだのか? お主らは形はあるが存在しない化け物であろう、我々がいくら方法を探っても殺す方法は見つからなかった」


「最近になって事情が変わってね、不可能殺しってのが現れたのさ。既に仲間が何人か死んでいる。これは間違いない事実だ」


「なんじゃと、それではまるで……。その肉体の主との関係は」


「……こいつ(オレ)も犠牲者みたいなもんだな。故郷の星を消されて、化け物の仲間にされて、可哀想な奴だよ」


「故郷を消された? それを本人は知っているのか」


「事実かどうかはわからんが、俺は消したと言った本人からそう聞いたぜ。こいつにも一応伝えたが、信じなかったけどな」


「当たり前じゃ! 故郷を消されたなどと言われて受け入れられるわけがなかろう」


「あーあ、終わりだな、最後まで俺はダメだった」


 ジェイドが全てを諦めたように呟くが、曄はそれを必死で宥める。情報を収集するためにも、自身の認識を続けるためにも。


「まっ、待て、お前達を殺す方法は確かにあるのだな」


「キツネ、いい事を教えてやるぜ、本当に俺達を消したいなら、こいつ(オレ)を完全に覚醒させることだ。こいつが名前を取り戻したとき、多分、全てが終わるぜ。間違っても、人間に戻すようなことはするなよ。世界の損失だし、破滅の未来がやって来る」


「つまり、その男が化け物になるのに協力すれば、世界は救われるということか」


「獣のくせに賢いな、その通りだよ。こいつが今後の世界の行く末を決定づける鍵だ」


 静寂が場を支配する。

 そしてタップリの間を持って、妖狐が意気揚々と語り出す。


「ふふん、今の話を聞いて、是が非でもその男を人間に戻してやりたくなったわ。世界の未来を決めるのは、一人の存在であるべきではない、その時を生きる全ての生き物の総意によって切り開くべきだからの」


「ケッ、勝手にしやがれ。こいつが目覚めたら、謝っておいてくれ、最後まで悪かったとな。それと、できればこいつのこと、守ってやってくれ」


「なんじゃ、星を消し去るような化け物にも義理人情はあるのか、滑稽じゃな」


「こいつは俺の兄であり、弟だ。弟の世話を焼くのは兄貴の役目だろ。そろそろ時間だ、今の俺は化け物ではなく思念のような存在だ、キツネにもできるだろ、俺を完全にこの世から消してくれ」


 どこか悲しげな声音が届き、心に微かな哀れみの念が浮かんだ妖狐が私怨を捨て、(ジェイド)の救済を決意する。


「お主の願い、聞き入れた。せめて最後は安らかに逝くがよい」


「じゃあな、世界、オレ。無事に死ねたらまた会おうぜ」


 妖狐が柏手を打ち、経文を唱える。

 オレの肉体に宿っていたジェイドの御魂は、安らぎに包まれながら昇天していった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「いい加減に、起きんかーッ!!」


 曄がオレが倒れているであろう場所に目掛けて、水霊が生み出した水をぶち撒けるフリをする。


「つめたっ!」


 とつぜんの寒気に仰天してオレが飛び起きるも、意識を長時間失っていたせいもあり、思考が上手く働かない。


「あれ、オレ寝てたのか? 狐には勝ったのか」


「な・に・が、キツネじゃー! 妖狐様と呼ばんかー!」


 曄がさらに放水するフリをすると、姿が見えないはずのオレがびしょ濡れになっている映像(ビジョン)が見える。


「冷たいって!! ここはどこだ、オレの体がない、なんだこれ」


「妾にもわからぬ。ナビの言葉通りなら、世界の端くれ、といったところかの。違和感にはすぐ慣れる。問題なのは馴染みすぎることじゃな。妾はもう水遊びができる領域まで達したぞ、どうじゃ!」


 曄が控えめな胸を突き出して、得意げにしている様子が、うっすらと感じられるが、今だにオレは目を白黒させているようだ。

 

「状況が全くわからない、何がどうなったんだ」


「簡潔に言うと、お主の意識を乗っ取ったジェイドという輩を妾が成仏させてやったのじゃ、ありがたく思え」


「そうなのか、ありがとうな。あんた、小さいのに強いんだな」


 透明のままで見えているかはわからなかったが、オレが律儀に頭を下げると、異常な状況に順応した曄はその所作を完璧に理解していた。


「当然じゃ! 妾は妖怪族を束ねる大将ぞ。お主と戦ったときも、実力の三分の一も出しておらんわ。どうじゃ、感服したか!」


「おみそれしました。で、ジェイド、だっけ? 何か言ってた?」


「うむ。内容は言えぬが、有益な情報は聞き出せた。それと、お主にすまないと伝えてくれといわれたな。死んだらまた会おうと」


「縁起でもないこと言うなよ!」


 オレが言うと曄はふふん、と軽く笑う。

 そしてすぐに真剣な眼差しでオレを見つめる。


「妾も謝らなければならないことがある。お主、まだ半分は人間だそうだな。一体、どういうことなのか、教えてはくれぬか」

 

「……話せば長いし、上手く説明できるかもわからないけど、ある日アレスティラって女の子に突然、契約されて、気づいたら身体の中に2番って男がいて、そいつをアレが抜き取る時に身体の中を弄られたから、そのときに化け物になったのかな、とかは考えた」


「全くわからん。お主は説明が下手クソじゃ、今のを聞いて理解できる生物がこの世に存在するかどうかも怪しいぞ」


 曄が呆れた顔をしているのが見るまでもなくわかり、オレは申し訳なさそうな顔をする。


「そうだな、前にも言われたよ、説明が下手だってさ。仕方ないんだけどな、今までにあった全ての事柄が常軌を逸してるんだから。

さすがに透明のままは話しづらいな、なんとかしてみようか。創造神は破壊神(エド・ワン・ドリー)


 オレが能力を発動させると、交わる筈のない視線が交わる。

 世界が色味を持ち始め、オレと曄の肉体が地上と呼ぶべき場所に降臨する。


「なんじゃ、何が起こった!? 肉体が見えるぞ!」


「3番の創造の力で世界と存在を無理矢理、具現化してみた。上手くできたみたいだな」


「すごいの、さすがじゃ! お主、本当に人間か?」


 曄が揶揄うように訝しげな顔でオレを見つめているのが肉眼でハッキリと見て取れる。二人は思わず笑顔になり、手を取り合った。


「まぁ、いまのところはね。残り四割くらいだけど人間味は残ってるよ」


「そうじゃ! 脱出方法を探さねば! お主のお陰で百鬼夜行の扉も視認できる、あのゲートを潜れば脱出できるやもしれぬ。 ──あいたっ!」


 曄が駆けていき、鉄扉の中を潜り抜けようと試みたが、見えない壁に激突した。

 無理矢理に認識できるようにしただけで、世界は本来あるべき姿で機能していないようだった。

 曄は赤くなった鼻を摩りながら、バツの悪そうな顔をしてオレのそばへと帰ってくる。


「無理じゃー! 出られぬ! なんとかならんのか〜」


「ごめんな、オレの能力は完全じゃないんだ。まだ覚醒の途中らしい。だから、この状況も色を塗っただけみたいなもので、ただ、見えるようにしただけ、実際オレ達はまだ透明のままだ」


「……その覚醒というのは、お主がエニグマになる成長の過程のようなものか?」


「多分、そうかな。オレ自身、よくわからないよ。出来れば人間に戻りたいんだけどな」


 オレが肩を落とすのを見て、曄が小さく呟く。

 

「いや待て、人間に戻れるかも知れぬぞ、脱出さえできればな」


「それは本当か!? 何か方法を知っているのか?」

 

 オレが曄の肩を掴んで尋ねると、妖狐は首を小さく縦に振る。


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