新たな事実。オレの契約者。
「さてと、戻ろうか。なんだか少し疲れたな」
言葉通り、オレが疲れた表情でそう言うと、神妙な面持ちをしたナビがゆっくりと慎重に近づきながら話しかける。
「オレさん、昨晩、3番と戦闘をした後、どこで何をしていましたか?」
「……何って、ナビさんが目覚めるまで側にいたじゃないか」
オレはナビの質問の意図を理解していた。しかし、敢えて知らないフリで返答をする。親しいと思っている友人に、疑いの目で見られるのは、いい気分ではなかった。
「そう、ですよね。……いえ、やはり、有耶無耶にするのはよくないですね。単刀直入に聞きます。先程貴方が放った光の波動、あれは3番の力ですよね。どういうことか、説明していただけますか」
「……信じてもらえるかわからないけど、突然使えるようになったんだ。なんというか、頭にイメージが流れ込んでくる感覚でさ」
オレの言葉にナビは驚いた表情をするでもなく、顎を指でさすりながら沈黙し、思考を巡らせる。
「突然……。オレさん、貴方、我々の仲間と契約していたりしますか?」
先程までの懐疑的な目ではなく、今度は憐れみを含んだ優しい顔でナビが尋ねる。
「あぁ、してるよ。アレとソレと契約してることになってるかな。えーと、伝わらないかな。五番と六番って言えばわかる?」
「五番に六番……また超ビッグネームですね。それに契約を1人で2つも……オレさんが並外れて強いのにも納得ができます。しかしだとしたら、なぜ3番の力を……うーん」
ブツブツと呟きながら腕を組んでナビが悩み込む。
「あのさ! いまいちよくわからないんだけど、結局、契約ってなんなのかな。アレもソレもはぐらかして説明してくれなかったんだよ」
考え込んでいたナビの注意を引くため、オレが声を張り気味に尋ねると、少しだけ驚いた様子で契約についての説明を始める。
「契約とは、噛み砕いて言えば主従関係のようなものです。10番より上のランクの者にしか扱えない能力なので、私もよく把握は出来ていないのですが、メリットデメリット含めて、有用な力だとは聞いています。しかし、契約によってオレさんのように、我々と同類になることはあり得ませんし、不死になることもないです。手首に力を集中してみてください。契約の証が浮かぶはずなので」
オレが言われた通りに右手首に意識を集中させると、淡い光と共に、人間には解読不能な刻印がじんわりと浮かび上がってくる。
「ほんとに出てきた……3つあるけど」
「3つ!? そんなバカな! 基本的に契約は1人につき一回、並の存在ならば我々の力を一つ受け入れるだけで精一杯で、それ以上は存在を保てなくなり、消えてしまうのですよ!?」
目を剥いてナビが尋ね、オレの手を取り、手首をマジまじと見つめる。象形文字のような記号が3つ浮かび上がっていた。
「本当ですね……うーん、ますますわかりません。複数契約してる時点で破綻しているのに、まさかの三人目とは……だとすると、その三人目を見つければ何かわかるかも知れませんね」
またしてもナビが独り言を始めたので、頭を悩ませたオレも途方に暮れてしまう。
「オレってなんなんだろうな。ただの人間だったはずなのに、めちゃくちゃな能力を手に入れるし、今じゃ完全な化け物だ」
諦めたような顔で呟くオレの肩をポンポンとナビが叩く。
「……昨日の戦闘を見た限りでも、貴方は現時点で3番と同等かそれ以上の戦闘力を有しています。しかし、何よりも恐ろしいのは、貴方がまだ半分人間であるという事実です。これから先、覚醒が進めば、それこそ不可能殺しか銀河崩壊級の力を手に入れるのではないでしょうか」
ナビの言葉にオレは身震いをした。
ただでさえ人間離れした力を持っているというのに、まだ覚醒の途中だと言うのだ。戸惑わないわけがない。
「怖いことを言わないでくれよ」
「貴方を意図的に育てている存在がいるのか、はたまた偶然の産物なのか、名前を思い出せないのも引っかかりますし、ウーン……」
頭を抱えてナビが深く考えている。博学のナビにとっても、オレという存在は異例尽くしで、再三再四に渡り思案を巡らせてはいるが、いまだ考えが纏まらない。
「確かにオレは変化していってる。このままだと本当に怪物になるかもしれない…………いや、もう十分怪物だよな」
何度もナビが悩む様子を見て、オレも不安になってしまう。
得体の知れない恐怖が心を支配し、思わず顔が引き攣る。
「そうだ! 大会関係者としては差し出がましいことかと思うのですが、大会優勝の願いで人間に戻る、というのはどうでしょうか」
天啓でも得たかのような晴れ晴れとした笑顔でナビが告げると、オレは思わず身を乗り出してナビの肩を掴み、真っ直ぐに瞳を見つめる。
「そんなこと、できるのか!? 普通の人間に戻れるかも知れないって?」
「10番も一応、この世界の神様を名乗っていますし、確証はありませんが、できるかと思います。あくまでも提案なので、心に留めておく程度に考えてください」
「ありがとう、心に希望が湧いたよ。でもさ、どうしてナビさんはこんなに親身になってくれるんだよ。オレなんてただの大会参加者だろ?」
「そうですねぇ、昨晩助けられたから、というのは建前で、本心から言うと、貴方を放っておけないのです。何故だか、昔から知っているような、懐かしいような……貴方は本当に不思議な人です」
「そっか、じゃあ頑張らないとな! ありがとう、ナビさん!」
言うだけ言って、オレは走り出していく。
その様子をナビはどこか遠い目で見つめていた。




