原初にして究極の光。不死者を救え。
快晴の空の下、オレとルナが意気揚々と戦闘禁止区域から一歩、足を踏み出すと、途端に悪魔の集団に取り囲まれた。
「お前が優勝候補の雷撃使いオレだな、悪いがここで死んでもらうぜ」
翼の生えた下級悪魔がドスの効いた声で恫喝する。
「ここには大会に関係ない一般人もいる。あんたらの目的はわかった、だが場所は変えよう」
オレとルナは人混みを避け、鬱蒼とした森の中に入り、しばらく歩いて木立を抜けると、見晴らしのいい草原へと辿り着いた。
「ここならいいな。誰の迷惑にもならない。さぁ、いつでも来いよ。全員焼き尽くしてやる」
オレが挑発すると、悪魔の集団が一斉に飛び掛かる。
「ルナ、雷撃注意だ」
「くわばら、くわばら」
オレが全身から雷撃を放出すると、言霊を紡いだルナだけを避けるようにして迅雷が暴れ回り、一瞬で悪魔を焼き尽くす。
積み上がる脱落者の山、しかしまだ悪魔は大勢残っている。
数だけは多い悪魔の群れを眺めてオレは小さく嘆息する。
「「ふん、実力は本物のようだ、我々の出番だな!」」
群れの中から綺麗に声をハモらせて、双子の悪魔が飛び出してきた。ご丁寧に決めポーズまで完璧に合わせている。
「やるぜ、兄貴、これが禁断の究極魔法! 皆で朽ちれば怖くない」
「おうよ、弟、これが禁じ手御法度魔法! 皆で増えれば怖くない」
双子悪魔が詠唱し、自身と仲間の悪魔に閃光を放ち込む。
光に包まれた魔物達の体が徐々に腐り始め、耳障りな呻き声を上げながら、あてもなく徘徊を始めた。
「「これで俺達不死身で無敵で最強よ! 倒せるものならやってみな! ……しまった! 自分も腐るのか!?」」
言いながら双子悪魔の顔が溶けていく。
「なんなんだよ、こいつら……」
オレが屍となった生物に閃雷を撃ち込むと、腐食している肉体は容易に溶解した。
しかし溶け出した肉体が分裂し、増殖していく。
分裂を妨げるように肉塊を雷で次々と焼いていくが、それを上回る速度で再生、増殖を繰り返し、数分もすると地獄絵図のような光景が広まっていた。
草原を生ける屍が埋め尽くし、嘆き、喚き、怨み節を述べながら腐敗した肉体を引き摺り歩き回る。
「シニタイ、イタイ」
「ヤケル、タスケテ」
悪魔達の目は潰れ、喉が裂け、生きている意思すら表現出来なくなっていく。余りの惨状にルナが思わず顔を背ける。
「可愛いそうです。助けてあげたいけど、どうすれば……」
「ナビさん」
オレの呼びかけに応じ、ナビが天から飛来する。
「はーい! お呼びですか! うわ、なんですかこれは……」
鼻を突く死臭。死を求める屍。地獄を再現したような景色を前に、人外であるナビでさえ顔を顰める。
「力を使います。遠慮なしに。あいつらをなんとかしてやりたくて」
「えらい! よくぞ申請してくれましたね! 好きなだけ暴れてください。転界群瞬!」
鮮やかな朱色の閃光に包まれて、オレと屍の渦は異空間へと転移した。
真っ白な空間を埋め尽くすほどの悪意、臭気、命の残滓。
死を求め彷徨う亡者達を、オレは真っ直ぐに、慈しむように見つめる。
「こいよ、オレを倒すためにそこまでしたんだろ?」
オレに向かって、不死となった屍兵が無限の物量を活かし、雪崩のように押し迫る。
並大抵の存在であれば、呑み込まれた途端に勝敗が決するだろう。
生命にとって絶望の象徴である【死】の群れを目の前に、青年は笑った。
「お前達は擬似的な不死だけど、結局死ねないって苦しいことだよな。楽しいことも、嫌なことも、いつかは終わるから、楽しめるし、乗り越えられる。死ねない時点で、生きてないんだ。だから、オレが救ってやるよ。安心して、おやすみ」
オレの両手に光が収束し、憐れみの言葉と共に解き放つ。
迫り来る死の群れが、音も立てずに消えていく。
天地が開闢するより昔、宇宙は光から始まった。
星を作り、銀河を作り、やがて生命を生み出した。
その光を連想させるような、おおらかで温かな耀き。
原初にして究極の波動に呑まれ、哀れな犠牲者達は完全に消滅した。
「この光は、3番の創造の力……なんと儚く、美しいのでしょう。ダメ、抑え切れない。このままでは消えてしまう。──えっ、私、今、何て言った? オレさん、貴方は一体…………」
腕に残った光を振り払うオレの姿を遠くから眺めて、ナビは囁くように呟いていた。




