電撃宣言。殺したのは誰だ。
腹に大穴を開けたエドが覚束無い足取りで彷徨い、地面に倒れ込む。悔しそうな表情で地面をバンバンと叩き、最後には絶叫した。
「ガアァッ、オ、アァァ、……なんだ……この力は。回復しないではないか……そんはバカな、雷撃如きで、たかが雷撃ごときで私の肉体が滅びるなどアリエナイ。ありえないのだよ」
「そのまま死んでくれてもいいし、なんなら介錯してやろうか。アレスティラの居場所を言ってからな」
オレがため息をついた。同情する素振りもみせず、冷たく突き放すような目で地面に倒れているエドを見下ろしている。
「……アレスティラね。あれもわからん女だ。実際問題、私は手を組んではいるが、どうにも君にご執心のようでね。いっそ殺してみようかと考えていたよ」
「アレスティラを殺すって、今はお前の仲間なんだろ?」
「思えばあの場で君達を殺さなかった時点で、腑に落ちなかった。女勇者と刀のやりとりをした時、明らかに私に向けて疑念を抱かせるように動いていた。不愉快なんだよなぁ、意図的に人を動かそうとする奴は。まぁ、あの女の場合、この宇宙の事象全てを計画通りに動かしている節もあるし、実に腹立たしい存在だよ。……ガッ」
エドが話している最中に意識を取り戻したナビが、ふらふらとしながらも二人に歩み寄り、倒れる3番の頭部に魔弾を叩き込む。
「3番、茶番は結構です。腹の傷も演技なのでしょう? 最終決戦と参りましょう。今度は私も、奥の手を出しますから」
「本当に……回復しないのだよ。……そうか、これで全て合点がいったよ。君はそこに、そこにいたのかね。強いわけだ。だとしたら、話は変わった。私は大人しくこの場を去ろう。計画の練り直しだ。私の命が持つか、君が覚醒してしまうか、時間との勝負だ。楽しくなってきたではないかね」
エドの足元から瘴気が広がり、体全体を包み込むと、不気味な笑い声と瘴気を残して異空間から去っていった。
エドが残した瘴気を、オレは静かに眺めている。
「ナビさん、エドが言っていたのは、多分1番のことだよな? つまり、オレの中に1番がいるってことなのかな」
ナビはしばらく黙り込み、オレの胸元にそっと手を当てる。
「どこか懐かしく、それでいて何よりも遠い存在のような気配は貴方の中から感じます。しかし、貴方は1番ではありません。私は1番を直接みたこともあります、彼の力は独特で、そばにいればすぐに理解できます。だから、貴方は1番ではないし、貴方の中にも1番はいないと断言します」
「……そっか。それで、オレはこれからどうすればいいかな?」
「とりあえず、試練を勝ち抜いてください。貴方ならできます。そして10番に会ってください。貴方は絶対に会うべきだと私は思うので」
「エドは永遠を終わらせて、宇宙を消すと言っていた。そんなことって、ありえるのかな」
「……今回の一件は、想像以上に複雑に、様々な思惑が動いているように感じます。不可能が死んでいる時点で、最早何が起ころうと不思議ではないと私は思います。オレさん、頑張って……くっ」
エドとの戦闘で疲弊していたナビが、糸が切れたかのように言葉途中で意識を失い、床へと倒れこもうとしていたのを直前でオレが抱き止める。
能力者の意識が途絶えた事により、異界は姿を消し、元いたホテルの一室にオレとナビが帰還した。
二人に気がつくと心配そうな表情でルナが駆け寄り、オレが抱えていたナビをベッドへと連れていく。
ようやく一息付くことができたオレがソファで休んでいると、ナビの介抱を終えたルナが、足音を立てないように気をつかいながら歩いてくる。
「オレさん、大丈夫でしたか?」
「あぁ、勝ったよ。ナビさんも無事だったし、戦果は上乗かな」
「すごい! やはりオレさんは無敵ですね!」
嬉しそうにはしゃぐルナを見つめながら、オレは考えを巡らす。
10番に会いたい。会わねばならない。同じ人間でありながら、人外の先輩でもある存在と話せば、劇的に現状が変化するであろうと予見していた。
「ルナ、相談があるんだけど、いいかな?」
「なんですか?」
落ち着いた声音でオレが話しかけると、ルナは気の抜けた声で答える。
「この大会で一刻も早く優勝したい。終わらせよう、全員倒して、今日中に」
「はい! えっ、今日じゅ……う? えええぇーッ!?」
天使の澄み切った声の絶叫が、ホテル中に響きわたった。
◇ ◇ ◇ ◇
薄暗い地下室に、額に脂汗を浮かべた一人の男性がやってくる。
得体の知れない実験器具や、机や棚、乱雑に置かれている本などに埃が積もってしまっているのを見るに、人が出入りしなくなり長い時間が経過していることが見て取れた。
「やはり、回復しないね。傷が疼くよ。忌々しい1番め、不可能殺しを生み出した諸悪の根源……許すまじ……」
胸元に手を当て、憎々しげに男が呟く。
戸棚から薬瓶を取り出し、中の薬液を痛々しい傷口にぶちまける。
意味がないことだとは本人が理解していた。しかし、気休めにはなるらしい。
男は大きく息を吐いて、本棚へと倒れるようにもたれかかる。
その様子を物陰からじっと見つめる人影があった。
「ざまぁねえな。お前の場合、当然の報いだけどな、ゲス野郎」
不意に声をかけられ、男は仰天し、周囲を見渡す。
声の主を探し出した男は愕然とした表情で、震えた声を出す。
「貴様、何故ここにいるのだ、ありえない!」
「お前には、話しておこうか、実はな? このオレが、不可能殺しなのさ」
「そんな、馬鹿……な」
影に言われて男は情けない声を出した。
そして次の瞬間には何かを悟ったかのように動き出し、地下室への入り口へと駆けていく。
「今まで、ご苦労さん。さて、待望の死が、貴方をお迎えに上がりましたよ、っと」
影は男を逃さない。まるで光のような速度で、男の進行方向へと回り込み、唯一の出入り口である地下室の扉を閉めてしまう。
「やめろ、やめたまえ。私達の計画は、我々の悲願は……」
「地獄があるなら、そこから物欲しそうに眺めてな、ジジイ」
影の手元が薄っすらと輝き出す。
いよいよ追い詰められた男は、泣き笑いで懇願しながら、影の足元にすがりつく。
「嫌だ、死にたくない、まだ、死ねないのだよ、私は、許してくれ、そうだ、手を組もう、我々が組めば、誰にも負けない……」
「お前さ、バカ? 今までお前に消された奴等が、今のお前みたいなマヌケヅラで交渉してきたら、助けてやってたか? 大人しく死んで、詫びにいけよ」
ピシャリと切り捨てられ、男の希望は完全に潰えた。
「それは……しかし、死にたくない、私は死にたくないーっ!」
「残念、不可能殺しからは逃げられない。報いを受けろ、クズ野郎」
身も凍りつくような断末魔が部屋をこだまする。
エド・ワン・ドリー。星を壊し、世界を壊し、誰からも恐れられ、憎まれた、3番と呼ばれた男がここに絶命した。




