最悪の襲来。宇宙駆ける雷撃。
初志貫徹で頑張ります。
ホテルの一室で、オレとルナは向かい合っていた。
「存在しているけど、存在しない。それはつまり、時間とか魂とか感情、みたいなことなのですか?」
疑問を投げかけるルナに、オレは首を横に振りながら答える。
「少し違うかな。時間も魂も、頭で認識できるだろ? オレも最近少しづつ理解できるようになったから、自信はないけど、オレ達は頭で認識できない、その先にある存在なんだと思う。かと言って、全く知らないわけでもない」
「認識できない……知っているもの」
ルナが噛み締めるようにして、言葉を飲み込んでいると、二人の頭上から声が届いた。
「──それだと説明不足だよ。我々は生き物にとって、あまりに身近であるが故に、認識すら必要ない存在なのだからね。それを無理矢理に理解しようとするものだから、心が苦しむ事になる」
声が響くと同時、爆発音と共に天井が砕け散る。
巻き上がる砂埃の向こう側で、天空から舞い降りた何かが、禍々しい狂気と、比類ない悪意を振り撒きながら、二人を見据える。
ルナが震えている。オレも息を飲んだ。
背中から冷や汗が吹き出し、手足が凍りつき、胸が締め付けられるような圧迫感を覚える。
砂埃が消え、そこに立っていた人物にオレが叫ぶ。
「エド、貴様何をしに来たっ」
忘れたくても忘れられない。世界を壊す、絶対的な悪の象徴。
サングラスをしたスーツ姿の初老の男が、口角を上げると、口元の皺も歪に変容する。
「知っているのだろう? 10番が必要なのだよ。我々の目的のためにはね。君こそ何故ここにいるのだね。私の世界がお気に召さなかったのかな?」
「そうだな。退屈すぎて脱走したのさ」
オレが不敵な笑みを見せると、エドも邪悪な笑みを返した。
「コラー! 異世界からの無許可の渡航は……3番。よりにもよって、最悪なのが来ましたね。悪夢の再来ですか」
異変を察知して馳せ参じたナビが、異物を目視した瞬間、刃のように鋭い眼光で、エドを睥睨する。
「29番、10番はどこにいる。玉座は空だった。私としても忌まわしい記憶が残るこの地に長居はしたくないのでね、居場所をすぐに言いなさい。この世界を消されたくはないだろう?」
「言えませんね。例え貴方と一戦交えることになったとしても」
エドが放つ悪意をものともせず、威風堂々とナビは言い切る。
脅しに屈しないナビに苛立ちを覚えたのか、エドは眉を動かし、表情を険しいものに変えた。
「ナビさん、オレも手を貸すよ。もうウンザリだ、倒してしまおう」
話しかけてきたオレを横目に、ナビが両手に力を収束させる。
「確かに、口で言って理解する相手ではありませんし、二人がかりならやれるかもしれませんね。転界群瞬」
部屋全体が、朝焼けを思わせるような朱色の光に満たされていく。そして部屋の真ん中にパックリと真一文字に空間の裂け目が生じた。
オレは心配そうに状況を眺めていたルナに平気な顔で言葉を送る。
「ルナ、先に寝ててくれ。化け物同士、話し合ってくる」
ルナが頷くのを確認すると、ナビは溜め込んでいた力を解放させる。三人の肉体は光へと転じ、異界へと続く空間の裂け目へと引き摺り込まれて直後に消えた。
◇ ◇ ◇ ◇
見渡す限りの白。音も物質も存在しない無機質な世界。
気を抜けば、それだけで意識が飛びそうになるような虚無感が広がる異様な世界で三人は対峙している。
「ここは私の世界です。どれだけ力を行使しても、壊れることはありません。やりましょう、オレさん。先手必しょ──えっ!?」
言い切る前にナビの体に不可視の弾丸が直撃する。
理解ができない顔をしながら、ナビの体が遥か後方へと凄まじい速度で流れていく。
「ナビさん!」
声を掛け、視線を向けた先で爆発が起こった。
エドが不可視の弾丸を次々と繰り出し、ナビの体を貫くたびに閃光が走り、爆発が起きる。
しばらく攻撃を続けた後、エドは欠伸をしながら、オレへと視線を向ける。行ってやれ。目がそう告げていた。
「大丈夫ですか」
エドの意図を察知して、オレがナビのそばに駆け寄り、声をかけるとナビは蚊の鳴くような声で答えた。
「平気……です。でもさすがにこれだけ力の差があると、再生が追いつきませんね。目眩がします。やはり、階級差は絶、対……」
ボロ雑巾のようになっているナビの目をそっと閉じ、オレが呟く。
「大丈夫、オレに任せて休んでいてくれ。──もう逃げない、戦う前から諦めたりしない。もう、あの時のオレじゃない」
自分自身に言い聞かせ、オレは最強の悪意と相対する。
「痛めつけるのは趣味ではないが、躾のためにね。君も強くなったようだし、今回は、少し本気でやろうか」
エドの足元から瘴気が広がり、完全純度の殺意が気となって、その身を包む。
「私が得意とするのは、破壊と創造、そう言ったね。宇宙創造!」
エドが神の如き威光を放ち、天高く拳を突き上げると、始まりの光に包まれた純白の世界が漆黒に染まる。
あちこちで星が瞬き、新たに生み出された世界が躍動し、エドを中心に星雲が軌道を描いて銀河をその場に作り出す。
「人間でありながら、我々の世界に足を踏み入れようとしている君に敬意を表して、この攻撃を捧げよう。星屑の裁き」
星と星が絶え間なくぶつかり、弾け、新たなる星となる。
エドは手中に汲み取った星の命に瘴気を織り混ぜ、射出した。
接触すれば、森羅万象、生きとし生けるもの全てを素粒子レベルまで分解する裁きの礫。
「一点集中、最大、放電! ────砕けろぉぉっ!」
当たれば死ぬ。そう判断したオレは迫り来る星の命に、全力で雷撃を打ち出す。
雷を極限まで圧縮した、雷撃弾が、星の命に食らいつき、貪り、消滅させる。
「それは、ただの雷ではないね。進化しているのか、君も、雷も」
不気味な笑みを浮かべ、感心した表情でエドが語る。
自然界に存在する雷ではこうはなり得ない。礫に接触した途端に霧散してしまうであろう。だが、オレの雷は違った。あろうことか、星の命を飲み込んだのだ。
それが意味することは、確実にオレが人外の道を進んでいる証拠であり、揺るぎ難い事実であった。
「飛べよ、暗黒、意を持って。──星間暗黒龍」
エドが呪文を紡いだ途端、銀河の彼方から龍が飛来する。無限の宇宙を優雅に泳ぎ、進行を邪魔する惑星を体内に吸い込みながら、飛翔乱舞を描いて迫る。
「──喰らい尽くせ、雷神龍光牙」
オレの肉体から白龍が飛び上がった。
雷の意思を持った轟龍がエドが呼び出した黒龍と衝突する。
二匹の龍は宇宙空間でせめぎ合い、揉み合い、瞬い宣耀を瞬かせ、咆哮を上げながら互いを抹消すべく殺しあう。
「雷撃弾」
オレが放った雷撃が黒龍の腹に風穴を開ける。
苦悶の表情で暴れ回る黒龍を見て、勝機を掴んだ白龍が、天をも揺るがす咆哮を上げ、黒龍を頭から丸呑みにした。
拮抗していた、あるいはエド優勢であったはずの趨勢が一気にオレ側へと傾き、オレが白龍と共にエドへと駆ける。
オレが走りながら笑みを浮かべる。今なら勝てる。そう確信した。
「まさか、ここまでとはね。君はどこまで強くなるんだい?」
自分のため、世界のため、そして故郷を消された刹那のために。
「戻れ、雷神龍光牙。終わらせる」
オレの合図で右腕に白龍が溶け込む。宇宙を再び白で多い尽くさんばかりの閃光が煌めく。
怒りと力と雷撃と、全てを込めた一撃で。
これで全てを終わらせる。
「これで終わりだ、エドォォっ──!」
想いを込めた一撃が、エドの腹部を貫いた。




