オレが黒幕お前が黒幕。オレの正体お前の正体。
美唯子の発言によって全員が窓際に集まっていた。
視界に映るのは灰色の空の下に広がるグラウンド。
深呼吸をして、その時を待つ。
ついに黒幕が姿を現そうとしている。
「あれ〜? ペル様ぁ、いつの間にか、もう一人のペル様がいなくなってますー! 急用でしょうかぁ??」
重苦しい空気の中、美唯子の陽気な声が響く。
「そんな事はどうでもいい。今は集中させてくれ」
「……はーい。でも怒ったペル様も素敵です〜!」
キツめの口調で言うも、美唯子は平然としている。
一度本意気で注意しようかとも考えたが、バカらしいので止めにした。
「──こんな時にイチャついている場合か、来るぞ」
窓の外を見つめていた刹那が表情を強張らせている。
その数秒後、けたたましいエンジン音と共に空間が引き裂かれ、見えない壁を突き破るようにして一台の単車が飛び出してきた。
単車は地面に光の軌跡を残しながら走り回り、しばらくすると急旋回して停止する。
単車からゆっくりと降りて、グラウンドにポツンと佇むのは顔に仮面を装着している背の高い男だ。
「まさか……鉄仮面……。だとしたらこの男は……」
女勇者の刹那がグラウンドにいる男とオレの顔を交互に見比べながら呟いている。
普段の冷静沈着が嘘のように、今は狼狽を隠しきれていない。それ程までにショックな出来事だったらしい。
「……美唯子、あれが黒幕で間違いないんだな?
一体あの男は何者なんだ。正体は? 教えてくれ」
「えっと、それが、わかりません!
私達の生徒会長?? でも、うーん……」
オレの質問に腕を組み、首を捻って眉を寄せる美唯子。
美唯子の能力を持ってしても判らないとなると、これは宇宙規模の大問題だ。こうなれば直接解明する他ない。
「──わかった。このままでは埒が明ない。
オレが行って話してくる。レアのことを頼む」
謎の男から仮面を引き剥がし、事の真相を探る。
それが最善にして最良の一手。
オレの判断は正しい。それしかない。
心の中で自分に言い聞かせて窓から飛び降りる。
「あっ! ペル様!! ここは三階ですよー!!!」
美唯子の叫びを背に受けながら空を舞う。
風を切り、逸る気持ちを落ち着かせ、男の下へと一直線に舞い降りる。
「よう。随分と無茶をするんだな。足、大丈夫か?」
突然降ってきたオレを見ても男は微動だにしない。
それどころか涼しげな声でオレを迎えた。
「余計なお喋りは必要ない。単刀直入に聞く。
お前が世界を壊す黒幕だな? 正体を現せ」
無機質な仮面の奥にある表情はどうなっているのか。
苦々しく笑みを浮かべているのか、将又余裕綽々か。
「──それは少しばかり違うだろう。
オレに言わせれば、お前さんこそが黒幕なんだがな。
お前さんは一体誰だ? どうして突然現れた。
兄弟の心を踏み躙り、正義ヅラして楽しいか?」
仮面の男の発言に、オレは思わず苦笑する。
「オレが……黒幕? 笑わせるな」
「あぁ、笑えないよな。笑えねぇよ。
お前さんは完全なるイレギュラー。
この世界に混ざり込んでしまった、ただの間違い。
もうこれ以上、オレ達の邪魔をするな」
返す言葉が見つからない。
せめてもの抵抗にと仮面の男を睨みつけると、男は心底楽しそうに膝を叩いて嗤うのだった。
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