唯はオレの女だ。黒幕さんの登場ですよー!
「……ミコ、来るよ! もう一人の叛逆者ッ!!」
新人類の女生徒が叫んだ直後、眩い雷光が迸り、教室の扉が吹き飛んだ。
ガラス片が宙を舞い、女生徒達が悲鳴を上げる。
「──よう、鉄仮面。
新人類を引き連れて、相も変わらず、お山の大将気取りかよ……」
崩壊した教室の入り口に立つ男と女。
それは紛れもないオレと女勇者の刹那であった。
右腕に纏う光の残滓を振り払いながらオレは言う。
眼光は鋭く、微塵も隠すつもりがない殺意が周囲の人間を震え上がらせる程に場の空気を凍りつかせる。
「何度も言わせるな。オレは鉄仮面ではない」
「うるせえよ。お前は間違いなく鉄仮面だ。
陽神美唯子を出せ。目の前でバラバラにしてやる」
オレの返答に対して吐き捨てるようにオレは言う。
やはり対話が出来る状態ではなさそうだ。
美唯子はオレの背後に隠れているが、どうするか。
「ペル様ペル様ぁ……どうしましょぅ……」
オレの背中を指でツンツンとツツキながら、小声で美唯子が聞いてくる。
もう一人のオレは美唯子を月丘唯という女だと思い込んでいると言っていた。
だとしたら対面させてみるのも一興か。
人の話も聞かず、一方的にオレが悪だと決めつけて話すやり方に多少ではあるが苛立ちを覚えていたし、ここらで一度ガツンとお灸をすえてやるのもいいかもしれない。
「いいぞ、出てきて顔を見せてやれ。唯」
「え!? あの、はーい……」
オレの背後から美唯子が出てくる。
「えっと、あのぅ、こんにちはー。なんて……」
対面するオレに対して美唯子はぎこちない笑顔で小さく手を振っている。
「……嘘、だよな。どうして鉄仮面と一緒に……。
唯、ずっと探して……何が、どうなって……」
美唯子を一目見た途端、もう一人のオレは愕然とした顔となり完全に困惑しているようだった。
やはり本当に美唯子を唯だと思い込んでいるらしい。
「少しは冷静になれ。ここにいるのは陽神美唯子だ。
セツもなんとか言ってやれ。君は常に冷静だろう?」
オレの隣に立っている刹那に対して問いかけると、女勇者は呆気にとられたような顔をする。
「──待て、今なんと言った。私のことをセツと呼……」
「ふざけるな! そうか、そうだよな。
鉄仮面……全て貴様の仕業だな。
唯を連れ去り誑かした全ての元凶がぁ……。
お前を殺す、完全に消してやるぞ……極悪人め……」
刹那の発言を遮り、オレが凄まじい剣幕で捲し立ててくる。
大人になれないド阿呆が……。
さすがに今回ばかりは堪忍袋の緒が切れた。
「……お前、何か勘違いしているようだな。
最初から唯はオレの女だ。
唯はお前の事が煩わしいそうだ。オレの女に金輪際、二度と近寄るなよ、この拗らせ大馬鹿野郎!」
人の話を聞かない阿保には粗雑な言葉で充分だろう。
阿保は餌に群がる鯉のように口をパクパクとさせている。少し酷かも知れないが、こうでもしないとオレも気が晴れない。
「違う、唯はオレの……。あり得ない。
唯、キミは鉄仮面に騙されているんだよな?」
「えっとぉ、私は貴方の唯さんじゃありませんよ?
私の王子様はここにいるペル様だけですからー!」
美唯子はオレの手を掴み、ぎゅっと抱きついてくる。
悪意のない天然行動だとは思うが、もう一人のオレには致命的なダメージだったようで、その場にガックリと項垂れてしまう。
「もういい、美唯子。腕を組むのをやめてくれ。
人前で密着するのは存外、恥ずかしい」
「わー! ペル様はウブで可愛いですねぇ!
あっ! そろそろ黒幕さんもやって来ます!
さぁ、皆さんお待ちかね! 黒幕さんの登場ですよー!」
満面の笑顔で美唯子が窓の外を指差す。
とうとう現れたのだ。ついにこの時が来た。
さあ、姿を見せてみろ。世界を壊す宇宙最大の脅威よ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。