初めてをキミに。大切な秘密をキミだけに。
これもまた運命。最強の敵。
ありのまま、今、起こった事を話そう。
必殺無敵の終の螺旋が無敵じゃなかった。
何を言っているのか分からないと思うがオレもわからない。頭がどうにかなりそうだ。
防御だとか回避だとかそんなチャチなもんじゃない。
完全に体をすり抜けた。これでも奴の恐ろしさの片鱗。
「……あんた、今度はバカな事を考えてるわね」
冷めた目付きでレアが言う。心を見透かされた気分だ。
「前から思っていたが、キミは心が読めるのか?」
「完璧ではないけどね。なんとなく、わかるのよ」
「それなら、オレが今から何をするかも分かるよな?」
言いながらレアの身体を抱き上げる。
少女勇者はまるで羽のように軽く、甘い香りがした。
「ちょ! 何すんのよ! セクハラ、放せ!」
レアが頭をポコポコ叩いてくるが気にしない。
「言ってる場合か、逃げるんだよッ──!!」
オレ達は逃げ出した。
廊下を走りながら思考を巡らせる。
議題は倒せない敵をどう倒すかだ。
今のところエニグマを倒す方法は終の螺旋しかない。
だがその終の螺旋を対策したと15番は言う。
こうなってしまうと対処のしようがない。
宇宙にでも追放して考える事をやめさせるか。
いや、オレ達には暗黒の運河があるから二秒で戻ってくるだろう。封印も意味がない。
まさに無敵だ。こちらが思考停止になってしまう。
「……現実逃避しないの。真面目に考えなさい」
「でも実際にお手上げだ。攻撃は一切通用しない」
「何か弱点はないの? 心臓とか、命の核があるとか」
「心臓は飾りだ。潰してもすぐ元に戻る。
弱点は存在しない。1番はオレ達を……。
いや待て……今あの男はハカセかジェイドか……」
頭の中に妙案が浮かぶ。
もしかすると不死身の化け物を倒せるかも知れない。
「……それよ! 一か八か、賭ける価値はあるわね。
まずは奴を屋上まで誘き出して……!」
「ああ! イケるかもな! 胸が躍る!」
レアと2人して笑い合う。
気分がとても高揚している。
こんなに楽しいのは久方ぶりだ。
「──あんた、よく笑うようになったわね。
私が注意してから思考も砕けてきたし。
無理して神様ぶってただけなんでしょう?」
「……かも知れない。
オレは神であろうとしていたタダの人間。
いや、化け物か」
「あんたって不思議ね。本当に化け物なの?
顔立ちも整っているし、物腰も柔らかい。
小国の王子って言われても違和感ないくらいよ。
……もう一人の方は最悪だけどね。
うじうじナヨナヨ、自分の不運は全部他人のせい。
何かにつけて女々しくて、男らしいあんたとは正反対」
「……言ってやるな。あれはあれで頑張っているんだ。
だが純粋であるが故に利用され、心が闇に堕ちてしまっ──ん?」
不意に唇に柔らかな感触が伝わる。
腕の中のレアを見ると、プイと視線を逸らしてしまう。
「レア、まさかキミはオレに今キ……」
スと言いかけたところで思い切りビンタされた。
「うっさいうっさい!
哀しそうに話してるアンタが魅力的でカッコよかったとかじゃないから! 何よ、こんな子供にムキになって、バッカじゃないの!? ……うぅ。私の初めてが無意識なんて……私、あんたのこと本気で……」
どう考えてもムキになっているのはレアの方だが、彼女が本気でぶつかってくれるのならオレも応えるべきか。
足を止め、抱いていたレアを下ろして向かい合う。
「レア、オレさ」
「……うん」
「一生黙っていようと心に決めていた秘密があるんだ」
「え……。それは大切な事?」
「ああ。だが少しばかり荷が重いと思うようになった」
「……私でいいなら聞いてあげても、いいけど?」
至近距離で互いの顔を見つめ合う。
秘密を打ち明ければ後戻りは出来ないだろう。
彼女はオレのことだけを考えていると言ってくれた。
それは女性にとって特別で大切な想い。
現に今もオレの負担を躊躇なしに分かち合おうとしてくれている。その想いに報いるべきだと強く意識する。
どちらからともなく距離を詰め、視線と吐息が触れる。
「キミの想いに応えたい。不意打ちではなく真剣に。
キミが初めてをくれたから、オレの初めてをキミに捧げる──」
ゆっくり、静かに唇を近づける。
「ん…………」
優しく触れるだけのような口付け。
感情に流されての行為ではない。
この先に待ち受ける困難を共に乗り越えていく。
二人が特別な存在となるための神聖な儀式であり証。
「普段は控えめなのに、こんなときだけ強引……ばか」
耳元で囁くように言うレアの言葉が心地よい。
オレはそのまま華奢な身体を強く抱きしめた。
「強引ですまない。勝手ですまない。
もう、一人で頑張るのには疲れた。
自分を偽り、強がって生きるのに疲れてしまった」
「あんたはもう一人じゃないでしょ。私がいるもの」
レアが瞳を細めて微笑む。
オレ達は敵陣のど真ん中で再度、強く抱き合った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。