オレもお前が気に入った。博士の異常な雷光。
──お人形にする……か。
少女に対して歪んだ欲望を持っている目の前の男を成敗するのは決定事項として、一つ気になる点があった。
「レア、何故この男は問答無用で斬り捨てない。
キミの言う理屈と合わないだろう?」
そう、勇者はハカセの問いに応じている。
今までの行動理念から見てもソレは不自然でしかない。
レアは腕を組み、神妙な面持ちで嘆息をする。
「……そこにいる男は多分、あんたのお仲間よ。
一応、殺すにしても許可がいるのかと思って」
言いながらレアはハカセを顎で指した。
目の前にいる男とは面識がない筈だ。
だとしたら勇者の持つ直感による推測だろうか。
謎を解くには本人に直接確認するのが手っ取り早いだろう。
「よう、変態博士。お前、名前は?」
「ロリコ、く、くく、クッ……いいさ、無礼を赦そう。
僕の名はジェイド。ジェイド・ザ・ライトニング!
この世界の頭脳! 真実の雷! 紫電の英雄!」
ハカセは得意気に、これでもかと声を張り上げている。
その発言はまさに青天の霹靂だった。
新人類だと思っていた男が同類かも知れない。
たまたま名前と特徴が一致しているだけで別人かも知れないが、妙な胸騒ぎを覚えている。
第三のオレの出現、トッドの死、不可解な事だらけ。
一体この世界は何がどうなっているのだ。
「……また難しく考えてるみたいね。
どうしたらいいか教えて欲しい?」
オレのことを気遣うようにレアが尋ねてくる。
「ああ、是非聞かせて欲しいね」
「気に食わない奴は考える前に倒す。私ならそうする」
単純だが明確な答え。
逡巡を断ち切り、前へ出ろと激励された気分だ。
霞がかっていた思考が一瞬にしてクリアになる。
迷う必要はない、やるべき事をやるしかない。
改めて大切な真実に気付かされた。感謝しかない。
「……レア、オレもお前が気に入ったよ。ありがとう」
拳を握って大地を蹴る。
風に乗り勢いを付けた拳で15番を殴り飛ばし、追い縋って馬乗りとなり、顔面を殴打する。
「はべ!? 嘘だろ! 疾すぎ……アガガガガガ!」
鼻をへし折り、エラを削ぎ、拳の弾幕で蹂躙する。
またしても既視感。この光景は何度目だ。
いや、いい。今は何も考えない。
「やめ、やめてくれぇ、悪がったよぉ、許じでくれぇ……ちょっと調子に乗っただけなんだよ……あんたと俺じゃ格が違う、認めるよぉ、後生だから許じでぐれよぉ……怖いよ……だすけて──助けてく、れぇぇぇ!!!」
泣き喚き、命乞いをする15番にトドメの一撃を叩き込もうとしたオレの腕をレアが掴んだ。
「どうした? 止めるのか」
「ううん。私も、ありがとう。思い切りブチのめして」
「ああ、任せろ。──オレ達に挑んだ事を後悔しやがれ」
攻撃が止み、安堵していた15番の顔面を打ち砕く。
最初からこうするべきだった。これでいいんだ。
しかし勝負はここからが本番。
奴が本当に化物ならこれで終わるワケがないのだから。
「──真雷撃弾」
目の前で閃光が炸裂する。
漆黒の雷光が天井を破壊し、空に昇って天を引き裂く。
雷撃を放った15番は音もなくユラリと立ち上がり、オレ達を見て不敵な笑みを浮かべる。
「……ああ、俺もコレ、知ってるな。
そうだった、そうだったな。今から出すわ、本気」
「その必要はない。──終の螺旋【零式】」
予備動作無しで【零式】を速射。
世界を駆ける光の螺旋が15番の肉体を貫く。
それで終わり……のハズだった。
「グアアッ! 死ぬッ! なんてな。良い演技だろ?」
【零式】は間違いなく15番の肉体を直撃した。
だというのに奴はまだ生きている。
「前回はこれで死んだからな。もう効かねえ、対策した。
いつまでも馬鹿の一つ覚えで勝てると思うな、クズが」
丸メガネをクイと上げながら、15番は冷笑する。
15番から得体の知れない狂気を感じる。
オレはこの男に勝てないかも知れない。
「……レア、お前は逃げろ。オレが奴を食い止める」
「イヤよ! あんた一人じゃ厳しいんじゃないの?」
「……ああ、今回ばかりは少しマズイかも知れないな」
「辛気臭い顔すんな! ピンチの時こそ、笑いなさい!」
またしても神が少女に励まされる。
オレ達は顔を見合わせて笑った。
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