神と代行者。偽妄の消失。
代行者は願い。
力無きモノが手に合ぬ凶兆に苛まれたとき、理を埋めるために現れる。
【祓へ 糺せ 祓へ 糺せ────── 】
「人としては頑張った、頑張りましたぜ、お嬢さん」
「そ……ん、な……」
閃光流線──
粒子迸る代行の剣が少女の肉体を容易く貫く。
勢いよく吐血し、瞠目する瞳からは涙が溢れる。
決定的な致命傷。しかし少女は生きることを諦めない。
口から流れ出る血を拭いもせず、腹部に深々と突き刺さる光子剣を鷲掴みにして破壊を試みる。
「……死の淵でこそ人は煌めく。知ってますぜ、知ってまさぁ。アッシは人間だろうと軽視しない油断もしない」
代行者は慢心しない。最初から心などないのだから。
彼等は人間を真似た意思人形。世界の傀儡。
「──粒融溶剣・千灑極光」
言葉通り串刺しにした粒融溶剣に追撃の理力を注ぎ込み、不要異物を完全に抹消するための準備に入る。
「──ちょっと、あんた! 何ボケっと見てんのよ!
犬っころも伸びてるし、あの女、本当に死ぬわよ!
人の可能性? 死んだら元も子もないでしょう!?」
耳元でレアが吠えた。
勝手にしろと言っておきながら、何故か後を付いてきた少女を愛でるか疎むか躊躇する。
「私が戦ってもいいけど、そもそも『あれ』勝てるの?
攻撃も魔法も当たらないし、代行者ってなんなのよ!」
「簡単に言えば願いか。厳密には違うモノだがな。
惑星、時間、秩序、事象、意思なきものが自身の存続を願った時に現れる防衛手段。宇宙全体を守る免疫機能」
「うわぁ……理解の範疇を超えて気が遠くなりそうね。
それじゃあ、あんた達エニグマってのも同類なの?」
「……いや、根本からまるで違う。
オレ達は逆に単純だ。難しく考える必要はない」
「単純? もういい! 意味わかんない!
とにかく今はあんたを助けなさいよね!」
「ああ、そうだな。今からこの空間を破壊する。
お前は他の者を連れて退避する準備をしてくれ」
手を出すつもりはなかったが状況は変わった。
オレはオレと共にオレを止めなければならない。
「そんじゃあ、ま、最終段階と参りやしょう。
これで全てが元通り。──偽妄の消失」
代行者が放つ裁きの焔。
隔離空間が光に沈む。
現実と虚構。
世界異世界の接合点。
無限に増殖する粒子に飲まれ、
全てが光となっていく。
職務に忠実な代行者の活躍により、世界から異物は完全に排除されるであろう。
──このオレさえいなければ。
「レインスト! 今回ばかりは間違いだ。
オレが消えれば抑止力も消える。それが敵の策略だ!」
「おや? これはエニグマ2番のお兄さん!
こりゃどうも、お久しぶりなこって。
だが少しばかり遅かった。焔は既に放たれましたぜ」
「遅くないさ、この世界にオレがいる限り。
──終の螺旋【零式】」
全身に流れるありったけの【零】を解き放つ。
偽りの世界を舞う大華燐。開闢より出し光の螺旋。
螺旋は無限光子を凌駕し次元の狭間を照らし上げ──
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