表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

221/236

決別。世界を殺してお前も殺す。


 ありがとう、勇者様。

 大切な家族()を守ってくれて──


 神の奇跡など起こる筈もなく、あの後トッドは静かに息を引き取った。


 オレが知っている未来は()()()()の手で歪に塗り替えられてしまった。


「──たまたま、だったんだ……」


 亜人種が住まう森の奥深く、彩とりどりの花に囲まれた霊園。墓前に手を合わせながら勇者(レア)が呟く。


「あの日、私は自分の力を試したくて、魔獣を狩りに森に出かけた。そしたら偶然、エルフや妖精を売買する目的で捕まえに来たハンターと遭遇した」


「そいつらを退治したら感謝された……か」


「笑っちゃうでしょ? 私は労せずして森を救った英雄になった。気に食わない雑魚を殺しただけなのにさ。

 そっからあのオッサンがどこまでもついて来て、ペコペコペコペコ、奴隷のように扱ってくださいって、傅くの。

 こっちは罪悪感でおかしくなりそうなのにね」


 少女にとっては皮肉な運命。

 暴れることしか考えず、森に亜人種達が住んでいることなど気にもかけていなかった。それが真実。


 森の住民からの感謝も、言うならばただの勘違い。

 だとしても、そこには確かに絆が生まれた。


 亜人種達が平安を望み、歪んでいても、打算があったとしてもレアがそれに応えた時、想いが形となって平和を築いたのだ。


「ねぇ、あんた……さ。

 死人を蘇らせる方法を知っているのよね」


「……ああ、知っているよ。

 この目で見たし、なんなら実践も可能だろうな」


「──ッ! だったら! 友達なんでしょう?」


「……トッドの想いが無駄になる。

 あの時、トッドはお前のためなら死んでもいいと判断したのだろう。人生を賭けた決死の想いだ。

 だからこそお前は今生きている。

 そうやって命は続いていくんだよ。

 人は死んだら生き返らない。それでいいんだ」


「でも、でもそんなのって……わた、私のせいで……」


 少女の涙が花弁へ落ちる。

 レアは嗚咽し崩れ落ち、大地を叩いて泣きじゃくる。


 気の済むまで泣くといい。

 お前が守った()が全てを包んでくれるから。


 ザッ、ザッ……


 遠くから耳障りな足音が近づいてくるのが分かる。

 枝木を腕で払いながら、足音は段々と距離を詰めてくる。そして丁度オレの最後に辿り着いた時──


「──よう。オレも祈っていいかな」

「……丁重にお断りする。お引き取り願おうか」


 背後から投げられた質問に振り返らず答える。

 オレの答えにオレは鼻で笑った。


「そう言うなよな。

 昔、世話になったし、礼くらいしないとな──」


 背後にいるオレはそのまま無遠慮に墓前へと歩み寄り、自らが殺した人物に手を合わせる。


 沸々と怒りが込み上がる。

 胸の中でマグマのように滾る感情に耐えられない。


「ッテメェ! お前だけは私が必ず殺してやる……」


「……なんだと、チビガキ……。お前は──

 仁義を殴り倒した8頭身のデカチチ女か……。

 やはり繋がっていたんだな。名を名乗れよ、ガキ」


「デカチッ!? 突然何を言ってんだよ!

 私はレイアだ! 文句あるのか!!」


零愛(レイア)。やはり零の一族か。

 これで全て繋がったよ。オレは間違っていなかった」


 レアが喚き立てているのを見て自身の感情を抑制。

 相手の意図を伺うためにも、努めて冷静に声を出す。


「何を勝手に納得しているか知らないが、お前の行動は全て悪手だ。敢えて聞こう、()()()()()


 聞かずとも分かり切っている。

 目の前にいるのはオレだ。

 複製(コピー)でも何者かが化けているわけでもない。

 純然たるオレでしか有り得ない。


「──オレはオレだよ。自分でもわかってんだよな?

 オレは今から全てのエニグマを取り込み世界(1番)を殺す。

 そして最終的にはお前(オレ)も殺す。

 ……手始めに目障りな陽神美唯子を消しに行く。

 どうせ邪魔するんだよな? ()()()()()()、鉄仮面」


「鉄仮面だと? お前は何を言っている」


 オレの問いかけにオレは答えない。

 オレはヒラヒラと手を振り笑顔を見せて闇の中へと消えていった。


「なんなのよ、アイツ。私のこと8頭身美人とかいうしさ。もしかして気でもあるの? 顔はイケメンだけど……。ハッ! ダメダメ! オッサンの仇!」


「美人とは言っていない。デカチチと言っていたんだ。

 まあ今は小憎らしいガキだが、オレが嘘を吐く理由もないからそのうち成長するのだろう、デカチチに」


「〜〜ッ! 真面目な顔してデカチチを連呼するな!」


 憤怒の形相をしたレアに頭部を一発殴られる。

 

「……それで、どうすんのよ」


「とりあえずオレは代行者を倒しに行く。

 もしくは陽神美唯子、新人類の討伐かな」


「代行者!!? 代行者って、()()代行者?」

 

「どの代行者かは分からないが、レインストだな」


「無理よ、無理無理! だってこの星の(アリシア)ですら代行者には近づくなってお触れを出したんだから!」


「そうなのか。オレには関係のない話だ」


「関係ないって……もういい、勝手にしろぉッ!!」


 森の中にレアの絶叫がコダマした。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ