ラブラブだけはやめてくれ。神様の特別試練。
空は快晴。
先程までの雷雲は消え去り、強い日差しが肌を刺す。
曇天模様だったオレの心境もいつの間にやら青空の如く晴れ渡っていた。
「ところでさ、なんでオレを殺そうとしたのかな。もしかして、10番って奴に頼まれたりしてない?」
「10番ですか? 私達は神様の特別試練に参加していただけですけど、貴方もそうだったのではないのですか?」
「神様……特別試練。もしかして、その神ってのが10番のことなのか」
繋がりそうで繋がらない。オレがヤキモキした気持ちで思案していると、二人のいる場所目掛けて一つの影が飛来する。
「コラー!」
「あっ、案内人さんが来ましたね」
ルナに案内人と呼ばれた、小柄な少女は怒りの表情を浮かべている。
「君達! あれだけの力を行使するなら、事前に申請しないとダメじゃないですか! 地形損壊罪で失格にしますよ!」
少女の全貌を眺めたオレは不思議な感覚に陥いっていた。
この子は自分と同類だ。なぜかそんなことが頭の中に浮かんでいた。
「ルナ、例の言霊を使ってみてくれ、強烈な奴だ、多分すり抜ける」
「え!? それは重大な違反行為では……でも貴方の望みなら、やります。案内人さん、破裂してください」
ルナが言霊を少女に送る。
「ギャー!? 爆ぜるー! 死ぬー! ……って効きません! コラー! そんなに失格になりたいのですか! 君達は!」
オレの思惑通り少女は死ななかった。
言霊も完全に体をすり抜けていた。
「やっぱりそうだよな! 予感が当たってよかった、君はもしかして10番かな。オレのことを見て何か感じないか」
少女が目を細めてオレの体を上から下までじっくりと眺める。
「ん……貴方は、私達と同種の臭いがしますね。でも残念、私は29番。10番さんに頼まれて仕事をしているだけです」
少女はオレの側に近寄り、匂いを嗅いだり、腕を引っ張ったりしている。
「んー、実に興味深い。まだ半分以上、人間の臭いがします。私のことは29番かナビとでも呼んでください。失礼ですが、お名前は?」
「名前はない。というか、わからない。オレと呼んでくれ」
「なるほどぉ、訳ありですか。オレさんねぇ。ちなみに先程の雷、見覚えがあるのですが、もしかして、もう一人来ていますか?」
少女は試すように言うが、その言葉は白衣の男のこと暗に示していた。オレはしっかりと理解していた。
「あぁ、違う。白衣の男なら死んだ。オレはアイツから貰ったんだ、この雷の力を」
「ギョエエェェッ! ジェイドが、ししっ、死んだ!?
そんなまさか! 私達は死なないでしょう!?」
オレが指先から紫電を放つとナビが大袈裟にリアクションをする。あまりにオーバーアクションだったので、ルナが堪えられずにクスクスと笑いだしていた。
「ナビさん、不可能殺しって聞いたことないかな」
「知ってますとも! 確か1番がいい出した事で、一時期その話で持ちきりでしたから」
「その不可能殺しに殺された。まだ、誰かは分かっていないけど。実はそのことで10番と話がしたい。合わせてくれないかな」
「うーん……いくら同士の頼みだとしても、今は特別試練中ですし……困りましたねぇ」
ナビは顔を顰めながら何度も唸っている。
ルナはオレとナビの顔を見比べてあと、小さく手を挙げた。
「あの、案内人さん。
それでしたら、私が彼と一緒に再チャレンジをして、正規の手段で神様と会うというのはどうでしょうか」
ルナの提案を聞いたナビは手を叩いて満面の笑顔を見せた。
「なるほど! それは賢い判断! この世界に存在することが参加条件なので、それでしたら全く問題ありませんね。
でしたら、今この場で参加登録してあげましょう。特別ですよ!」
「あのさ、その特別試練って何かな」
「そうですよね、知らなくて当然です。では私が話して差し上げましょう! 昔々、この世界が出来たばかりの頃、偽物の神様が天使と悪魔に凄惨な殺し合いをさせました。
まぁ、犯人は分かっています。3番のクソッタレです」
「3番ってエドのことだな。確かにあいつはクソッタレだ」
「えぇ。思い出すだけでも吐き気を催します。話を戻します。
勇気ある悪魔が当時人間だった今の10番と協力して、3番を打ち破りました。その後、新たにこの惑星、10番街を作り出し、神となりました。
10番は過去の忌まわしき歴史を忘れないように、数百年に一度、この世界に住む全ての種族を対象に、力比べをする大会を開催するようになったのです」
「……ちょっと待ってくれよ、今の10番は昔、人間だったって? それじゃあまるで今のオレと同じじゃないか」
「そうなりますね。私も聞いた話なので、詳細はわかりませんが、腑に落ちない点もあります。本物の10番はどこにいったのか、とか。考えるとゾッとしますね」
オレがナビの話を真剣に聞いていると隣にいたルナが神妙な表情で、静かに口を開いた。
「そんな話、はじめて聞きました。天使と悪魔が抗争を起こしたというのは知っていましたけど」
「知らないほうが幸せなこともありますから。表向きは健全な武闘大会にしたのでしょう」
「健全って、オレかなりの数の悪魔を殺しちゃったけど」
「参加は自由意思なので、対戦相手を殺しても罪にはなりません。参加するなら命を張れよ、ってことです!」
「そっか、じゃあ参加するよ。是が非でも、10番と話したいし。他に細かいルールとかあるかな」
「はい! 基本は2人1組チームで、武器も能力も使い放題ですが、平和に暮らしている住民もいるので、先程のように周囲一帯を吹き飛ばすような真似はしないでください!」
ナビに言われてオレは反省した。
だが納得いかない点もあった。悪魔が呼び出した軍勢についてだ。多勢に無勢が許されるなら、2人1組チームのルールは成立しないことになる。
「地形を吹き飛ばしたのは悪いけど、さっきの悪魔も仲間を大勢呼んだわけだし、同罪じゃないかな」
ナビは眼鏡をかけて、どこからか取り出した百科事典並みに分厚い本のページをペラペラとめくりはじめる。
「えーと、お待ちください。『友達がいないから適当に組んだチーム』の、悪魔のバリゼルさんは、なになに……独自領域を展開し、契約悪魔を即時召喚と。これは特殊能力なので、ルール違反に当てはまりません。というか、もっと癖の強い能力もあるので、全く問題ないです」
「ルナ、なんだそのチーム名は……」
「ごめんなさい、大会に参加できるなら、ほんとにどうでもよくて……締切まで時間もなくて、うぅ……本当にお友達もいないし」
ルナは顔を耳まで真っ赤にして、羞恥から逃れるためかオレの背後に回り込む。
若気の至りだとオレは小さく嘆息した。
「大会優勝者には神との謁見と、願いを一つ叶えられる権利が与えられます。期間は無制限で、最後の1組が決まるまで続きます。相方不在で、まだ闘う意思がある場合、一度だけ再チャレンジ可能です。それでは、オレさんの能力とチーム名を登録しますので、自己申告をお願いします」
「オレの能力は、雷の操作と、死ねないことかな。チーム名ってなんか意味があるのか?」
「チーム名は『オレ×ルナ=ラブラブチーム』でお願いします!」
オレの背後で、ルナが挙手をしながら大声で言う。
「──やめろぉぉっ!」
オレは全力で否定したかった。
よりにもよって酷過ぎるチーム名になろうとしている。
末代までの恥とならんことを祈りつつオレはナビのもとへと全力で走った。
「了解でーす。これで登録は完了ですので、頑張ってくださーい」
一歩及ばず。無情にも登録は完了した。
参加登録を完了すると、ナビはどこかに飛び去っていった。
「──ちょっ、お前、マジで!」
【再チャレンジチームの紹介です! 人間のオレさんと、天使のルナさん、オレ×ルナ=ラブラブチームの活躍に期待しましょ〜】
10番街全てに響き渡るほどの大音量がスピーカーから流れ出し、オレ×ルナ=ラブラブチームの大会正式参加が決定した。
意識が遠くなってきたオレは絶望を胸に地面に倒れ込んだ。
「頑張りましょうね。あれ、どうかしましたか?」
「いっそ殺してくれ」
「嫌です。生きてくださいね」
倒れるオレの耳元でルナが色っぽく言霊を囁いた。




