夢か現か頂上決戦。オレvsオレ。
「ご、ごめ……無礼な態度を……。
あー! やっぱムリ! キモいんだよ、オッサン!
マジ無理マジ無理、同じ空間にもいたくないし」
「貴女! 無礼にも程がありましてよ!
こちらのトッドさんは中年の割には、こざっぱりしている方です。無礼を働いたなら謝罪するのが礼儀でしょう」
「うっさい! 宣教師かよ、ざこ女ぁ!
虫が嫌いな人間がゴキブリを愛でると思う?
私はね、自分の信念は曲げたくない。
好きなものは好きだし、嫌いなものは嫌い。
私の取り巻きもお零れを狙うカスばかり、好きでもない人間に媚びへつらう奴等が嫌い。嘘にまみれた世界も嫌い。大体、本心でもない謝罪の言葉を聞いて嬉しいわけ? 自分を捨ててまで頭を下げて悲しくないのかよっ!」
「あっはっは! 違いねぇな!
滅茶苦茶言ってるようで一本筋は通ってる。
あたしは気に入ったぜ、勇者さんよ!」
喝破と同時に浮かぶ嘆息はオレのものだ。
空気は最悪。勇者が謝罪をしようとしない。
黙っていた翠まで同調し状況は悪化の一途を辿る。
確かに勇者の言っている事は理解できる。
しかしそれでは世界が回らない。
生きていれば自分を殺してでも何かを通さなければならない事は多分にある。問題は子供の勇者にそれをどう理解させるかだ。
「でしたら! この場をどう収めるか、拝聴させてくださる? 大体、貴女は私にも謝る必要がありますのよ!?」
「うっさいなー! そんなにオッサンが好きならテメェが謝ってやれよ! 中年はお前みたいなエセお嬢様が一番好きだろ! ですわー! で存在感出そうとすんなや!」
ホントは思ってないと思うが、簡単に拉致されて今まで呑気に寝ていたクセに、どの面下げて説教垂れてるのかと言いたいだけだと思います。
「へぇ、そうかよ。久しぶりに……キレちまったよ。
誰もやらないと言うのなら、アタイが粛正してやるぜ」
「キレる? 弱者がキレてどうすんだよ、ざーこ❤︎
ザコが最強の私と戦うの? また殺されたぁい?
急にイキリ出してマジで小物だな、瑠璃園水ぅ〜」
「……“さん”を付けろやメスガキがァァッ!!!」
瑠璃園水は憤怒の衣を纏い迅雷のような俊敏さで飛び出す。獣のような唸りを漏らし、怨嗟の牙を鳴らして地を駆ける様は勇猛であり悲痛であった。
迫り来る敵を前に勇者は剣を捨てて拳を構える。
指先で挑発し、水を煽ると、拳と拳を中空で炸裂させた。
「──っツゥ……押し、負け……」
弾けた拳を睨み水は苦悶の表情を浮かべる。
「あら? それが精一杯? やっぱり、ざーこ❤︎」
伊達に勇者を名乗っていない。
勇者は剣技だけでなく肉弾戦にも長けている。
客観的に見ても水は勇者より戦闘能力が数段劣る。それでもなお喰らいつく様は、それだけで赫怒の凄まじさを示していた。
個人的恨みではない、蓮と翠も殺されている。
怨敵を前に大人でいるのにも限界があったのだろう。
腕力のない拳を振るい、無念と信念を叩きつける。
何度仲裁に入ろうと思ったかわからない。
しかしその度に水の想いがオレを引き止める。
「介入は無粋だな。こんな時、痛感するよ。他者の痛みに対してオレはあまりに無力だ。神が聞いて呆れる」
「それでいいんだよ。偶像は拠り所なだけでいい。
理不尽に頼られて恨まれて、だがそれが神だ。
……待て、何かくるな? 全員伏せろっ!」
翠が叫んだその直後だった。
咄嗟の警告に水も勇者も反応できるワケもなく。
「──雷撃弾」
「──黒の弾丸」
無防備なまま、天から降り注ぐ白と黒の弾丸の嵐に身を包まれた。
「……ようやく見つけた。やっと、やっとだ……。
もうこれ以上、絶対に貴様の好きにはさせないぞ!
行くぞ、刹那! ──雷命延尽!」
間違いない、目の前で息巻いている人物はオレだ。
何かがおかしい。本来の時間軸のオレは隔離空間でレインストと交戦中。それに隣にいる刹那の存在。
どう順序立てて考えても矛盾が発生してしまう。
幻覚か現実か、応じるべきか退くべきか。
逡巡する間に刹那の黒刀が首筋に迫っていた。
「──ッラァ!
あんた、何ボサっとしてんのよ、死にたいの?
やる気がないなら私が倒してあげるわよ!」
黒刀を蹴り飛ばして勇者が気炎を上げる。
「すまない。油断していた。
ならば刹那を頼む。漆黒の勇者だ、強いぞ?」
「勇者は私! 最強も私……とあんた。
簡単に死なないでよね? 助けてくれたお礼とかしたいしさ」
「改めて言われるまでもない。
自分の敵は自分か。現実に起きると笑えないな」
分からないのなら解明するだけのこと。
今はただ、目の前の敵を倒すだけだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。