蒼天の決着。宇宙に落ちる。
「──終の螺旋【零式】」
解き放つは必殺の一撃。
全てを滅する光の螺旋。
「蒼天淵滅聖光波──」
轟くは天穿つ蒼聖。
終焉を誘う裁きの極光。
己が正義。力こそが全て。
相容れぬ対者に鉄槌を。
全てを賭けた一撃が衝突し、力の波濤を広げた刹那。
逆巻く光の奔流が全てを飲み込み世界を裂いた。
攻防も趨勢も関係ない。結果が先にやってきた。
天地が逆転し強烈な浮遊感に身体が包まれる。
次の瞬間には眼前に広がる鮮烈な白と青。
反転した世界の中、オレ達は空に落ちていく。
翼のない人間には空を制する手段はない。
手持ち無沙汰の中、共に空を落下していく勇者が不機嫌な表情で話しかけてくる。
「……あんたさ、手、抜いたでしょ。屈辱なんだけど」
「お前を殺すことは世界の損失だと思ったんでね」
「何その余裕。神様だから? ムカつくんですけど」
「お褒めの言葉をどうも。それより見ろよ、綺麗な空だ」
「言われなくてもわかってる! 空しかないんだから。
……私、あんたが気に入ったかも。これって変?」
「ああ、ドン引きだね」
「ほんとムカつく。でも楽しかった、あんたとの勝負」
──宙を彷徨い数分が過ぎた。
もう間もなく宇宙へと飛び出すだろう。
そんな事を考えていると、勇者が胸の中に身体ごと飛び込んできた。
「なんだよ」
「宇宙に落ちたら死ぬんでしょ? 少しだけ怖いから」
「無敵の勇者様も死が怖いのか。ほんとにお子様だな」
「うっさい! 少しは優しくしろ」
「お前が反省したらな。トッドにちゃんと謝れよ」
「…………ごめん、なさい」
「オレじゃない、トッドに謝るんだ」
「うるさいうるさい! 生意気な口を聞いてごめんなさいって言ってんの! 私が謝ってんのよ? 感謝しろ!」
「あーはいはい。ホントにガキだな。ありがとよ」
「ふん。あのドワーフにもちゃんと謝るわよ……バカ。
それとガキはやめて。レアでいいから」
最後まで強がりを言いながら、勇者はオレの胸にしがみついたまま子猫のように丸くなる。死を覚悟したのか頬には一筋の雫が伝っていた。
『キミさぁ……。世界の物理法則を捻じ曲げるような真似はよして欲しいな。今回は秩序の修復が手間だったよ?』
10番が同調会話で脳内に語りかけてくる。
『すまない。勇者との戦闘が楽しすぎてやり過ぎた』
『今後は気をつけてよ? 地上まで送ろうか?』
『いや、気分がいいからこのまま落ちる。
レアのお仕置きにもなるしな』
『レア? いつの間にか親密になってない?
了解だよ。それじゃあ10番街の空を存分に楽しんで』
10番との同調を解除して勇者を見やる。
「おいレア。最後に大事な質問をする。
水を殺したのは本当か? だとしたら目的はなんだ」
「……正確に言うと私達かな。
実際に手を出したのは相棒の魔王よ」
「そういえば翠も二人組だと言っていたな。
その魔王は一体何者か、オレに教えてくれ」
「ある日突然現れて私に力をくれたのよ。
挑選者がどうとか、零の器とか……言っていた。
確か名前は……極致……模倣?」
ついに見つけたパズルのピース。
12番に固執する理由。挑選者。
本物の極致模倣がこの世に存在する。
その男を見つければ世界の真相にグッと近づくだろう。
「極致模倣、叛逆者、逆説王。
あと少しだ。あと少しで何かがわかる……」
最後まで読んでいただきありがとうございました。