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神様vsクソガキ勇者。友を傷付ける奴は許さない。


 翠と共にやってきた森林地帯には人集りが出来ていた。

 

「なんだよ、祭り事か?」


「この世界の勇者様御一行らしいね。

 取り巻きと別に民間人まで集めて馬鹿騒ぎしてるよ。

 ほら、真ん中の派手な装備の女の側に水がいる。

 あの生意気そうなガキが勇者だ。とてつもなく強いよ」


 翠が指差す先に確かに水が倒れていた。

 手足を縛られて目隠しまでされている。

 どう考えても穏やかな状況ではなさそうだ。


「……わかった。翠はここで待っていろ。

 水を取り戻してすぐに戻る」


 翠に言ってから、ゆっくりと前へ足を踏み出す。

 歩みを進める途中、取り巻き達がオレの存在に気づいたらしく、警戒の色を出しながら様子を伺っている。


「やあ、こんにちは。

 君もレイア様を崇めに来たのかな?」


 まず手始めとばかりに声を掛けてきたのは、小柄な男性、ではなく亜人種(ドワーフ)のトッドだった。

 トッドには過去、ではなく未来でオレが世話になる。

 手荒な真似はせずに穏便に事を済ませたい。


「え? あ、ああ。これはなんの集まりかな」


「10番街の特別試練、勇者レイア様の必勝祈願さ。

 参加したいのなら歓迎するよ。こっちにおいで」


 トッドさんは昔のままの柔和な笑みでオレを迎え入れてくれる。


「待ちなさい。その男は敵。ったく、無能亜人種が……」

 

 突然の怒声に緊張したのか、トッドは身体を強張らせる。


「無能亜人種(ドワーフ)、この男の情報を出しなさい」


 不機嫌な顔で歩み寄ってくるのは翠が勇者だと指していた少女だ。少女は余程尊敬されているのか、周囲の群衆は一様に平伏している。


「……申し訳ありません。こちらの男性の情報はまだ入手しておりません勇者(レイア)様。どうかお許しを」


 トッドがそう言うと少女は人目も憚らず顔面に蹴りを入れた。地面に倒れ、狼狽しているトッドの頭部を足で踏みつけ、ゴミでも見るような視線を向ける。


「──っざけんなよ、ド底辺ドワーフが……。

 あんたさー、情報収集しか能がないのに何もわかりませんってマジで言ってんのかよ。もういいわ、あんたクビ。

 今すぐパーティ抜けて二度とツラ見せんな」


「そっ、そんな! 何故ですっ!

 私は今まで散々尽くしてきたではないですか!?

 いえ、私はどうなってもいい、ですが特別試練に優勝した暁には亞人族の森を保護していただけるという約束はどうなるのです? どうかその約束だけは……」


「はぁー……うっせぇなぁ……。

 いい? 私はアンタが一流の情報屋だって言うからお情けで使ってやってたんだよ! わかる? 

 力もない媚びるしか出来ないチビのキモ豚がよぉ……。

 臭いんだよ、目障りなんだよ、存在すらいらねぇよ。

 森を守って欲しいだぁ? 珍獣だらけのゴミ溜めをかよ? なんなら今すぐにでも焼き払ってやんぞオッサン」


「そんな……酷い……」


「わかったら今すぐにパーティをでなさい。

 それと装備と道具は置いていってね?

 あ、やっぱりいらないわ、臭いから!

 オッさんの使用済み防具なんて汚物以下だし」


 涙を流して懇願するトッドに唾を吐き、少女は満足したのか去っていく。


「トッドさん、久しぶりだな。元気だったか?」


「キミは……どうして私の名前を? どこかで会ったかな」


「ああ、未来でな。アンタはいい人だ、気にするな。

 あのクソガキ勇者にはオレが今からお仕置きしてやる。森はオレが責任もって保護してやるよ」


 オレの友人を嘲笑い、群衆の前で平然と傷付けた。

 絶対に許すわけにはいかない。


「──おい待てガキ。オレはお前を許さない」


「は? テメェ、何様のつもりだよ」


「……神様だよ、馬鹿野郎が」


「ほーん。口だけは達者のようね?

 でもアンタ、既に私に負けてるのよ?

 この女()が目当てなんだよな? 私が殺したこの女が」


「なんだと? 一体何を言っている」


「アハッ! やっぱりわからないんだ、ざーこ❤︎」


「違う、あの時三人を倒したのは……」


「だから、違うって言ってんだよ! ば〜か!

 間違いなく私が殺しましたー! でも不思議、生き返ったみたいだからもう一度殺すために拉致ってきたわけ。

 もちろん、蘇生方法を聞いた後でじっくりとね?」


「そうはさせない。水は返してもらうぞ」


「はい無理〜。自称神様はここで脱落でーす!」


 銀河支配(アンドロメダ)の瞳を最大(フル)稼働。

 両腕にエネルギーを集めて硬質化する。

 振り下ろされた剣での一撃を両腕で受け止めると世界に剣戟の音が響き渡った。


 勇者を名乗るだけはある。剣の冴えは素晴らしい。

 繰り出される剣閃はどれも速く、重く、鋭い。


「チィ、私の一撃を受け止めた。強さは本物だ。

 まさか神というのも……」


 相手の行動を常に先読み出来るため勇者の斬撃は当たらない。不意をつくように踏み込み、宿地からの熾烈な突きも難なく躱す。


「今のも避ける? あり得ない……」


 疾風怒濤の連撃、手にした得物が本当に剣なのか懐疑するほどの滑らかな太刀筋。銀閃が竜灯の如く妖しく揺らめく。並の人間ならこの時点で粉微塵になっているだろう。


 千変万化の剣嵐雅。

 刹那の業が琉ならば、レイアの剣はまさしく剛。

 無限に飛来する剣閃を際限なしに捌き切る。

 颶風に対するは暴風。出力勝負なら負けはしない。

 

 お前が相手にしているのは、紛れもない宇宙の全てだ。


「あっはは! なんだこれ! 楽しい、楽しいよ!」


「……だろうな。強さとは孤独だ。今まで全力で戦えたことなんてないのだろう。敵として会いたくなかったよ」


 衝撃の反動を利用して同時に跳躍。

 視線をぶつけて大地を駆ける。

 森の中を並走し互いに必殺のタイミングを伺う。

 その間も剣戟は止まらない。飛び交う華燐が大気を焦がし森を焼く。両者の進撃を止める手段は皆無。


 枝葉も木々も一切合切を薙ぎ払い、愚直に疾る。


 大地を刈って天を舞い、重力さえも切り裂いて、世界という概念を駆け回る。終わらない攻防。閃撃の連鎖。


 悔しいが、勇者の実力は本物だ。

 憎き相手ではあるが敬愛の念を抱いてしまう。

 それは相手(レイア)に取っても同じなようで、息をする間も惜しんで剣を振る表情は嬉々としている。


「……あーあ。終わりの時間か。アンタさ、いや、いい」

「そうだな。名残惜しいが、決着をつけよう」


 言葉は必要ない。図ったかのように足を止めて向かい合う。オレ達は笑った。繰り広げるのは推し量るまでもなく死闘。だというのに感情を殺すことなく口角を上げる。


 次の一撃で終わる。

 互いに全霊の力を集める。

 

「──(ツイ)の螺旋【零式】」


蒼天淵滅聖光波(アースガルド)──」


 互いの足元から波紋が広がる。

 歓喜を滲ませ、噛み締めるように、最後の言葉(ラストワード)を呟いた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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