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10番《アリシア》の天稟。世界を見通す天命球《セズスフィア》。


 ──星の中枢、最奥。

 

 自分自身の心臓を奪うために向かわせた暗殺者ギリナスの動向を把握するため、10番街立ち入り禁止区域にある地下施設へとやって来た。


「予期せぬ人物が現れたね。代行者……厄介だな」


「確かに意外な展開だが、それよりもオレは10番街にこんな施設があるなんて知らなかったよ」


「この場所は星の命と直結している。だから隠していたんだよ」


 目の前に聳えている巨大な光の塊を見据えながら10番(アリシア)は淡々と語る。


 煌々と光彩を放つ神秘的な球体には、常に懊悩している情け無い男、紛れもない過去のオレ自身の姿が映し出されている。


 球体の正体は星の命を生み出し惑星全体を円滑に機能させるために必要不可欠なエネルギー集合体、天命球(セズスフィア)というモノらしい。


 10番(アリシア)は公平かつ合理的に物事を推量するために惑星一つ分の熱量を利用し、誰の目にも理解できるようありのままの世界を投影する手段()を即座に生み出した。


 天命球に銀河支配(アンドロメダ)の瞳の力と同調特性を付加することにより、世界の全てと観察対象者の心情までも覗き見ることができる神の眼を完成させたのだ。


 神の眼に晒された哀れな青年は自ずと内心を吐露し、憐憫を隠すことなく告白した。いずれ神へと至る男は人間として、自らの可能性と気概だけに活路を見出し未知の存在へと挑戦する。


「──10番(アリシア)、もういい。同調(シンクロ)解除だ」


「……ここからが面白いのにかい?

 人間と獣が代行者にどう抗うか見ものじゃないか」


「オレが今ここにこうして生きているということは、ただの人間であるオレ君はこのピンチをなんとかするんだろうさ。ギリナスは失敗した、今はそれが全てだ」


 無鉄砲で若く、省みることを知らない自分自身を見ていられない。それに何をするかは皆目予想できないが、結果だけは分かっている。それが運命というヤツなのだから。


「あっ!? ちょっと! いいとこだったのに!」


 天命球の信号を強制的に遮断すると、玉座の間から出て行ったハズの蓮が憤りを隠さずに声を荒げていた。


「少しは静かにしないか、ここは神域だぞ」


「ねぇ、今の男の子は貴方なんだよね?

 どうして黙って見ていられるの?

 必死に神様助けてって言ってたじゃないか!」


 神を相手にも怯む事なく想いをぶつけてくる。

 

「──オレはオレが嫌いだからだ。

 常に悩み、些細なことで取り乱す。

 そんなことだからいいように利用される」


「だから何? それが生きるって事だよね?

 嫌いでも憎くても、手を差し伸べるのが神じゃないの?

 貴方は神様になって人の心を無くしてしまったみたいだね。神を名乗るなら、もっと真剣に人の幸せを考えてよ」


 正義感と博愛精神の塊のような少女はさも当然のように綺麗事を並べる。汚れを知らない若さ故の清廉さに厭悪を抱きそうになる。


「お前はその神を殺そうとしているのだろう?

 だったら余計なお節介は迷惑なだけだ。

 お前は何もわかっちゃいない。

 何も知らないクセに偉そうに講釈を垂れるな」


 蓮はオレの言葉を反芻しているのか、黙ったまま熱を帯びた眼差しを向けてくる。


「……わかった。もういいよ。彼は私が助けに行く。

 強いんだよね、代行者って──」


 苛立ちに満ちた呟きには、不安の色が混じっている。

 たった数分の映像でも分かるレインストの異様に気圧されてしまったのだろう。


「レインストは以前、星を砕けるエニグマ7番と互角に渡り合っていた。人間と獣に倒せる相手ではない。

 死にたくないなら放っておけ。拘る必要はない筈だ」


「あるよ、理由。

 私は彼が気に入ったから。

 理不尽に閉じ込められてもめげないで、ただひたすらに自分を信じて格上相手にも立ち向かう。強い心が眩しくてカッコいい。少なくとも貴方なんかより何倍も……ね」


 小娘如きが嗤わせる。

 ならば再度見せてみろ。

 奇跡を起こす人間の可能性を。


「……そうか。だったら好きにしろ。

 29番(サラ)、そのジャジャ馬を望み通り送ってやれ」


 一片の思念すら込めず、そこで会話は打ち切った。

 

「えっ? ですが代行者は本当に……。

 承知しました。私も微力ながら協力して参ります」


 29番(サラ)は蓮を連れて暗黒の運河に去っていく。


「本当に良かったのかい?

 彼女、君に助けて欲しかったんだと思うけど」


「分かっているよ、10番(アリシア)、分かっている。

 だけどな、そんな単純ではないんだ、人間はな」


「神と人、両方やるのも考え物だね」


「そうだな。特に今のオレはオレでもない。

 嫌になるよ、実際にさ」


 感情ほど不確かで計算できないモノはない。

 あの場でなんと声をかけようが、蓮の決意を止めるには至らなかっただろし、止める必要もなかった。


「おい、神様よ、感傷に浸ってるところを悪いがな、水が攫われた。敵は勇者と魔王を名乗った二人組だ。

 ()()()()。だが水は精神的に不安定だ。

 ()()()()()?」


「ミカか。……そうだな。水を助けに行く」


 守ってやりたい。共に世界を広げたかった。

 だが(オレ)の助力は人の可能性の発現を阻害する。

 蓮の成長を促すためなら是非もない。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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