神《オレ》と神《アリシア》。暗殺依頼はオレ殺し。
──10番街、神の居城、星の中枢、玉座の間。
10番は神として有能である。
同調能力で世界情勢を常に把握し、従者の29番から伝達された情報と合わせて惑星を完璧に管理する。
有事への対処が早く、的確で、一分の隙もない。
事実、オレという異質な存在の登場をいち早く察知し、惑星の心臓部である星の中枢まで自ら招き入れていた。
悠然と玉座に腰掛ける10番の周囲には彼の身を案じる近衛兵や信徒、従者や下位層エニグマが轡を並べて立っている。
「……あんたなら全てお見通しだろうけどさ、とりあえずは状況を説明するべきだよな?」
神に対する横柄な態度。
本来なら不敬だと取られて槍の一本でも飛んできておかしくはない。異を唱える者がいないのは、貴方を信頼していますと牽制し、主に対して蛮行を働かせないためだ。
配下の質を見れば頭目の器量まで見えてくる。
さすがは10番の取り巻きだなと思う。
全員が賢く、お行儀がいい。
「──つまり、君は未来の世界の2番で、世界を壊そうと暗躍している犯人を探しに来たわけだ。
そしてその行為が許されているのは5番の許可を得たから。そんなところかな?
なるほど、面白いね。世界の真相……か。
君達、全員下がっていいよ。大切な話をしたいから」
事情の説明を終えると10番は玉座に腰掛けたまま呟き、僅かに顔を綻ばせ、側近の兵達を下がらせる。
「まるで小説のようなお話しですわね。
未来の世界では私がエニグマという化け物の12番になっている? そんなことは絶対にあり得ません」
「神様より凄いエニグマの秘密? すっごい気になる!」
「アタシは逆に納得したよ。こうなったらトコトンまでやりたくなってきた。神殺しに運命殺し、ご機嫌だね」
隣で聞いていた少女達の反応は三者三様だ。
嫌悪感を顕にする水にポジティブな蓮、翠は状況を楽しんでいるのか瞳の中に妖しい光を帯びている。
「そう邪険にするなよ、水。
色々あったけど、仲良くやってきただろ?」
揶揄うように言うと、水は大きな目を細めて蓮を見やり翠を見やり、そして最後にオレを睨みつける。
「わ・た・し・は! 貴方が嫌いです!
いえ違いますね。神という存在そのものを憎んでいます。これ以上、私に話しかけないでください!」
声を張り上げてから控えめに舌打ち。
随分と嫌われたものだなと含み笑う。
「いいや、オレはお前達から離れない。
カミラと約束したんだよ、責任を取るってな。
オレはキミが好きだし、何があっても守ってやる」
「なっ、ななななな! す、す、すき、好き?
人のことを殺しておいて何を言うのですか!
勝手に好意をもたれても迷惑なだけですわ!」
冗談を言ったつもりだったのだが、水は顔を真っ赤に染め上げて、そのまま玉座の間を出て行った。
「あっ、水! 待ってよー!」
「水は男に免疫がないんだ。面白いよな?」
水の後を追っていく翠と蓮。
三人娘の姿が消えると玉座は一瞬にして静寂に包まれた。少しだけ寂しい気もするが、これでようやく真剣な話しができる。
「10番様。私は彼が嘘を言っているように思えません。
それどころか協力してあげたいと感じています」
「そうだね29番。ボクも同感だよ。
彼がこの場に存在しているのも1番の思し召しだ。
全ての事柄には意味がある。受け入れるべきかな」
サラの問いかけに10番は玉座に腰掛けたまま鷹揚に頷く。
「それで、犯人の目星や今後の計画はあるのかな。
まさか闇雲に宇宙を駆け回るつもりではないよね?」
「そうだな。いくつか計画もあるし、試したいこともある。そのために協力が必要だからここに来たんだ」
銀河支配の瞳で人智を超えた力を持っていたとしても、星々を巡り見敵滅殺していたら何年かかるか分からない。今までの経験を活かし、世界を壊しつつ守る方法は考えてある。
「──ところでさ、さっきから闇に紛れてコチラの様子を伺っている彼は何者なのかな?」
言うまでもなく獣人のことだ。
10番は最初から気付いているし、目的も把握しているだろう。
もし仮に獣一匹が謀反を起こし、神に弓を引いたところで鎮圧するのは造作もない事だから敢えて黙っていたのだ。
これは協力関係を築き相互理解を深めるための儀式。
オレが手の内を明かした時、全てが成立する。
「……ギリナス、出てこい。お前は暗殺者だったな」
「だったらどうした!
さっきから聞いてりゃあ、未来だのなんだの理解できねぇよ! 用がないのなら俺は帰るぜ。あばよ!」
反応が過剰。警戒している。
神二人に囲まれているのだから無理もない。
「待てよ。お前はオレが雇う。仕事を依頼したい。
悪いようにはしない。金も払うし、安心しろ」
「ほぅ? それは分かりやすいな。
で? 誰を消して欲しいんだよ、神様よ」
「──オレだよ。
今からオレの心臓を奪って来てほしい。頼めるか?」
「テメェ……正気か」
依頼内容があまりに突飛だったので困惑したのだろう。ギリナスはオレの顔を凝視しながら両の眉を寄せた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。