悟り、超然、無謬、神《オレ》。
「お前達、名前は? 神と戦うのが怖くないのか」
「逆上蓮。怖くないよ、世界のためだから」
「瑠璃園水。右に同じ、ですわ」
「萌葱翠。アンタこそ怖くないのか? 逃げてもいいぜ?」
少女達の身を案じたつもりが逆に心配されてしまい、しばし苦笑する。
「──運命って何なんだろうな?」
三人が名乗った時、強烈な既視感に襲われた。
オレの中からポツリと漏れた呟きは、自分自身でもなぜ口に出したのか分からない。
今から戦う相手はかつてのオレの仲間達だ。
なんの因果か、この言葉だけは使いたくなかったが、運命は皮肉だなと、理想と野望に殉じる決意と覚悟の代償はこうも大きいものかと歎きたくなる。
だがそれを知覚できているのはオレだけだ。
歎くことやボヤくことに意味はないし理解されない。
しかし考えようによってはそれほど悪い状況でもない。オレが絶対に諦めない限り、幾らでも好きにこの状況を変え続けることができるのだから。
考え方を変えよう。
これは試練だ。世界から与えられた課題。
宿業を糧に新たなる業となる。
悟り、超然、無謬、神。
──唯我独尊。
「──来る? 視えない? 皆んな、気をつ──ッ」
剣を引き抜き、仲間に注意を促す蓮。
拳で深く血肉を抉る。舞う花びら、飛沫と絶叫。
「蓮!? 今すぐに回復を……ヒッ──」
水は回復能力を有しているらしい。
無駄な事だ。治癒行動を取る前にはもう終わっている。
「ウソ……だよな? 蓮、水……?
あ、ア、ァァ──うわああああぁぁっ!!??」
仲間との絆で翠が覚醒した。
肉体に纏う翠色は強者の波動。
瞬間転移で世界から消える。
──時空断裂を確認・転移先特定──
「オレは1番を超える必要があるんだよ。
だからさ、ごめんな。オレはもう止まれない」
銀河支配の瞳からは逃れられない。
宇宙を統べる力の前に人は絶対に抗えない。
輝く闘気も、仲間との絆も、敵への憤怒も、全てを読み切り破壊するだけ。
輝く希望はそこで潰えた。
「……貴方、人をゴミのように消せるのね。
かつての優しさはどこに行ったの?
それともそれが貴方の本性かしら?
いえ、違うわね。今の貴方は別の誰かよ」
カミラは悠然と佇みながら、大地に倒れる三人娘を慈しむような目で見ている。
「オレはオレだ。始まりから今まで。
紆余曲折あったし、いくつもの心と迷いがある。
最初からオレは壊れている。いや、違う、宿命だ」
「ああ、そういうこと。
世界って残酷ね。貴方に幸せが訪れますように……」
優しい声音。カミラは得心したかのように、哀れみと敬意の表情でオレのことをただ眺めている。
「──いいわ、ワタクシの負けです。
ワタクシの命をこの子達に託しましょう。
それが無垢な少女を戦いに巻き込んだ者の責任ですものね。……貴方に少しでも慈悲の心があるのなら、今度は殺さないで守ってあげて。それがワタクシの望みです」
カミラの身体から闇が広がり、世界に拡大していく。
天までもが漆黒に染まり無数の星々が煌めく。
それは世界の規律を破ろうとしてい者への警鐘だとも感じられる。
「……やめときなよ、死人は生き返らない」
「いいえ、ワタクシにはできます。
零の器候補【掟破り】彼はついに1番を欺いた」
「掟破りならオレが消し……いや、まだ生きているな。まさか、掟破りは死者を蘇生できる?
そんなこと、できるはずがない」
1番が創った規律は絶対。
森羅万象を管理し、運命を操る。世界の全てが1番だと言っても過言ではない。
その1番が死者は蘇らないと決めたのだから、無理に決まっている。
「あら? 1番を倒そうという男が随分と弱気なのね?
いいから貴方はそこで見ていなさい。
──この世界に絶対なんてあってはいけないの!」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
光輝が楽しすぎて時間と脳が無限に溶けていく。