そしてまたパラドクス。オレは自分を救いたい。
「貴方、別の時間軸から来たのね?」
「……別に隠す必要もないか。あぁ、そうだよ」
カミラの質問に端的に答える。
「素直ね、可愛いわ。目的は?
それがどれだけ愚かな行為か理解しているの?」
「オレは今まで散々苦労してきた、だから過去のオレには楽をさせてやりたい。オレは自分を救いたいんだ。
それと、唯を普通の人間に戻し、運命をぶっ壊す」
愚かな行為。確かに否定はできないな。
たった一つの生命にとって、宇宙の存在はでかすぎる。自分の生き方を変えようが、人類の未来を変えるような謀反を企てようが、宇宙は絶対で厳然と存在し続ける。
何があっても変わることのない永遠、それが宇宙と運命だ。
その永遠をオレは終わらせようとしている。
人には運命を変える力はない、しかしオレだけは違う。
オレと 擬い物の1番の力を使えば、生命全ての存続を賭けた生存戦争だって起こせるし、時空と次元を捻じ曲げ世界そのものを変えてしまうことも出来るだろう。
カミラはその事実を理解し、危惧している。
もはや宇宙は絶対ではない、オレというイレギュラーの存在が登場した事により、誰かが率先して守らなければならない砂状の楼閣と化したのだから。
「自分のため……まるで駄々をこねる子供ね。
当然だけれども、1番はそれすら容認しているのよ?」
カミラは憂いを帯びた表情で嘆息する。
「──それも理解しているさ」
挑選者が歴史の裏で暗躍するのも、平和を望む人々が安らかに日々を過ごすのも、そしてオレのように力を持ったバカが無茶をできるのも、全て究極絶対の原点がいるからこそ成り立っている。
「……そう。理解しているのなら、いいわ。
でもね、貴方のやっていることは全て無駄よ。
だって世界には絶対の規律があって、これ以上の干渉は受け付ける余地がないもの。
1番はそれを知っているから、貴方の無茶に何もしないのよ? 本当に憎らしいわよね? 壊してやりたいのに、その強さに惹かれてしまう……」
諦めと恍惚の入り混じった表情。
カミラという女、1番を貶したいのか讃えたいのかわからない。
オレの計画の最大の障害はやはり1番か。
世界は運命によって支配されている。
だからこそ神は全てを肯定する。
目にも見えない小虫が跳ねようが喚こうが関係ない。
──あるがまま、やりたいように生き、そして最後は散って行くがいい。それを最後まで1番は見ている。運命とは1番。だから全てを受け入れる。
1番の主張はこんなとこだろうな。
その絶対の余裕をオレは揺るがしてやりたい。
「これが最後の質問よ。貴方にとっての理想の世界をワタクシに教えて下さるかしら?」
「全ての生命が自らの意思で行動し、選択し、時には反発しながらも手を取り合って、未来永劫、存続し続ける世界の実現。
今の世界は全てが嘘だろ? オレ達の全て、過去未来、別離邂逅、何もかもが1番の筋書き通りなんて地獄だろ。人は真の意味で自由になるべきだ。オレが解放する」
カミラは無言でオレの顔を眺めていた。
しばらくすると乾いた笑いをあげ、何を思ったのか目には涙を浮かべている。
「フフ……もしかすると貴方のその叛逆心すらも1番の筋書き通りかも知れないのにね。でも少しだけ素敵。
矛盾のない完璧な規律によって作られた不条理が道理な人の道、自分の将来を不安に思うことさえ定められた世界、そんなものはワタクシも大嫌いよ」
「安心しなよ、オレが運命そのものを変えてやるから」
「──そう、ね。貴方なら出来るかもしれない。
でも世界を変えたいのは貴方だけではないの。
だからワタクシ達は戦うのよ?
貴女達、能力解放。全力でやりなさい」
カミラの言葉に少女達は笑顔で頷いて見せる。
「なんとなく1番が理不尽なのはわかりました、でもそのために過去も未来も変えるのは間違っていると思います! 魔剣解放!」
「その通りです! 結局は神同士のくだらない権力闘争ではないですか! 人の未来を決めるのは人間ですのよ! 魔砲解放!」
「よっしゃあ! 鉄火場だぁ! オレが運命を変えるって? 大きなお世話だ! 自分でやるぜ! 魔闘解放!」
少女達が力を解放すると、先程までとは別人と言えるまでに戦闘レベルが激変した。
推測にはなるが、一人一人が星を破壊できるエニグマ7番クラスの力を有しているだろう。
「上出来ね。何か最後に言いたいことはあるかしら?」
既に意見は主張した。もうこれ以上、自分の置かれた状況を嘆いたり、無駄に弁明する必要もない。
人類を解放すると言えば聞こえはいいが、そのために好き勝手をする。確かに他人から見たら不快かも知れない。
結局はオレも世界を好きに作り変えると言っているようなものだから。
気に入らないモノを排除し、自分が理想とする歴史に換装したら、最終的にその姿は己が追い求めていた真実の世界と呼べるのだろうか。……テセウスの船か。
またしても逆説。パラ──ドクス……?
──ふっと頭に美唯子の姿が過った。
『ペル様、全てを手に入れましょう!
真実は必ず、その先にありますから!』
わかったよ、美唯子。
これが終わったらスグに会いにいくからな。
違う。この意識はなんだ、今の言葉はなんだ?
自我をしっかりと保ち、正常な思考を取り戻せ。
「……カミラ、言ったよな? オレも本気でやるって」
「ふふふ……口だけならなんとでも言えるわよね?
男なら行動で示しなさいな」
──ご希望通りに見せてやる。
完全な戦闘モードに入った銀河支配の瞳を。
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