雷撃無双。閃光の瞬殺。
ノノに案内されてやってきた異世界の大地でオレは大きな溜め息を吐いた。
空は晴れ渡り、木々が生い茂り、花が咲き誇る。いたって普通の風景。だというのにオレの心は曇天模様。
それは自分が招かれざる客だと理解していたから。
現にオレの出現を待ち侘びていたかのようにして佇む男女が明白な殺意を向けてきている。
「初めまして、史上最強の言霊使い、10番街の天使ルナです」
純白の衣服を見に纏う、碧紅眼が特徴的な可憐な少女が礼儀正しく頭を下げる。
「今から殺す相手に挨拶なんかするなよ、バカが。ほんと、てめーは頭緩いよなゴミ天使」
隣で毒づく大柄な男性が少女の襟首を掴んでガクガクと揺すり、そのまま地面に叩きつけた。
「……申し訳ありません」
少女は反抗もせずに健気に立ち上がる。
誰がどうみても不愉快になるような光景だった。
「お前、ムカつくな。女の子はもっと優しく扱えよ」
「馬鹿がっ! 俺は悪魔だ、悪魔に優しさなんているかよ。ゴミ天使、クソ生意気な人間を殺せ」
「承知いたしました。お覚悟を……参ります。絶命しなさい」
「あぁ、そういうの、オレには効かないから」
天使のルナが死を暗示する言霊を放つも、オレは死なない。
本来なら死の暗示を浴びせかけることで相手を強制的に死に至らしめる能力なのであろう。
並大抵の存在なら天使が下す死の判決によって即死。
今まで数多の戦士や強者共を屠ってきた自慢の特技なのだろうが、この世に存在していないオレには意味がない。
ルナにとって驚天動地の出来事だったのであろう。
愕然とした表情がそれを物語っていた。
「えっ……そんな……凍てつきなさい」
オレの足元から寒気が広がる。絶対零度の冷気が身体を包むも、肉体を凍り付かせるには至らない。
「どうして……貴方は紙です、燃えなさい」
オレの肉体が炎に包まれる。しかし効果がない。
炎が激しく逆巻き蠢き、必死に焼き尽くすそうと努力はしているが、やがて行き場をなくして虚しく消えた。
「なんか、ごめんな。オレは存在してるけど、存在してないんだってさ。だから君の言霊も空気に向かって発砲するようなもので、意味がないらしい。ほんとに嫌になるよな、化け物すぎて」
「そんな……」
「やっぱ使えねー。何が史上最強の言霊使いだよ、最初からゴミだと思ってはいたが、ここまでゴミだとはな。耳が聞こえない相手でもないのにこのザマかよ。てめーが死ね、ゴミ」
悪魔が悪態を吐きながらルナを蹴り飛ばした。
「この、ゴミが、優勝出来なかったら、テメーの責任だ、ボケ」
勢いよく地面に倒れた少女を悪魔は執拗に蹴り続ける。
「申し訳ありません、生きていてごめんなさい、私はゴミです、存在していてすみません」
ルナは抵抗する素振りすらみせず、ただひたすらに謝罪を繰り返していた。
「君さ、何でこんなやつに従ってるの? オレが思うに君の能力って限りなく最強に近いと思うんだけど」
「おいっ、何勝手に俺様のオモチャに話しかけてんだよ、殺すぞ」
見かねてルナに話しかけたオレに悪魔が憤慨し怒鳴りつけてくる。
「黙ってろ」
オレが指先から雷の弾丸を飛ばすと悪魔は一撃で気絶した。
「オレが君の強さを証明してやるよ。自分でいうのもなんだけど、相手が悪かっただけかな。飛ぶからしっかり掴まって」
オレはルナを起き上がらせ抱え上げた。
電磁浮遊で高らかに飛翔し、そのまま上昇速度を上げ、一気に成層圏を突き抜ける。
「私達は宇宙空間でも生存できる」
オレの胸元でルナが呟くと二人の体を薄い膜が包み込む。
ルナの言霊の加護により、宇宙空間でも呼吸ができるし、会話もできるようになっていた。
やはりルナの能力の柔軟性と彼女自身の適応力、判断力の高さは素晴らしいものだとオレは確信する。
あんなウジムシのような悪魔に付き従う必要などないのだ。
「やっぱり、君も、その能力もすごいな。このまま太陽に飛び込んでも平気だったりする? 聞くまでもないか」
ルナが控えめに頷く。
「戻ったらあの男に君の能力使ってみな? 君はもっと自分に自信を持つべきだ」
二人して地上に帰還すると、意識を取り戻した悪魔が詰め寄ってくる。
「てめー、どこいってやがったゴミが」
ルナは唇をキュッと噛み、少しだけ不満げな顔を見せた後、冷たい口調で言霊を放つ。
「潰れて」
「ガッ!?」
重量を無視して悪魔の体がひしゃげる。
まるで潰れたカエルのようになった悪魔に向けて、ルナが続け様に言霊を送る。
「耐えられない激痛に襲われるでしょう」
「がぁッ、いてぇ、やめろ、とめろ、死んじまうよぉぉ」
ペタンコの状態で悪魔がモガキ、喚いている。
その姿は滑稽であった。
「そのまま死んで」
死を察知した悪魔が最後の抵抗とばかりに必死に足掻くも、巨人に押さえつけられたかのように地面にへばりついたまま動けない。
「やめろ、それだけは、死にたくない! 軍勢、軍勢ぅぅぅ…………──ウッ」
不快な断末魔を残して悪魔は絶命した。
「ざまぁねえな。今、死ぬ間際、なんか言ってなかった?」
「彼が有する地獄の軍勢を呼び寄せたのでしょう。あと数秒できます」
ルナの発言通り、悪魔の軍勢が大挙して押し寄せてきた。
騎馬兵、歩兵、有翼飛翔兵、魔術師、魔導兵、多種多様な悪魔が大地を覆い隠すほどに密集し、醜悪な臭気と殺意を放ちながら、オレ達の周囲を一瞬にして取り囲む。
「すごい数だな。雷雲でもあれば、まとめて倒せるのにな」
五万といる悪魔の軍勢に圧倒されたオレが小さく呟くのを見て、ルナは言霊を発する。
「……雨が降りそうです。それに雷も」
まさに青天の霹靂。
晴れ渡っていた空に雷雲が立ち込め、稲光が悪魔を威嚇する。
オレの全身に雷のエネルギーが集まり、黄金の輝きを放つ。
「やっぱスゴイよ、キミは。神様もビックリの能力だ」
オレが腕を振るうと、それに呼応して天が揺れ雷雲が轟く。
激しい落雷が降り注ぎ、悪魔に抵抗すらさせず、肉体を焼き尽くし、次々と蒸発させていく。
「雷神獣麒麟」
雷が落ちた先で収束したエネルギーが馬のような姿を形取り、大地を劈くような嘶きをあげて疾駆する。
悪魔も魔導兵も、麒麟に触れる以前に迸る光に飲まれて消滅していく。あまりに一方的な蹂躙を目の前に、ルナは驚嘆の表情を浮かべていた。
雷雲がオレにエネルギーを送る。無尽蔵に近い雷のエネルギーを電磁波動にして一気に解き放ち、森羅万象一切合切、全てを壊す。
大地が裂け、山が消し飛び、海が割れる。
天と地を埋めるほどの数千、数万規模の大軍勢は、ものの数十秒で壊滅し、地上から完全に消失した。
「ありがとう、助かったよ。
君は強い。もう誰にも従う必要はないんだ。いいね?
じゃ、オレは行くから」
「あっ、あの……私、貴方についていきます。私を連れて行ってください」
「あぁ、いいよ。………………あれ?」
口が勝手に動いていた。
自分の意思とは無関係に口が動いたことにオレは不気味さを覚えてしまう。
「口が勝手に動いんたんだけど、もしかして君、本気出してなかった?」
オレが尋ねるとルナは愛らしく微笑む。
色々と疑問点はあったが少女が満足そうなのをみてオレは全て良しとすることにした。




