神と狼と神殺し。
──まず最初に結論から述べるとするならば、
結末は何をしても変わらない。
足掻いても藻搔いても同じ未来がやってくる。
絶対不可避の予定調和。
奇跡すらも仕組まれた決まり事。
世界は【運命】というただの言葉に縛られていた。
今まではな──
◇ ◇ ◇ ◇
空は快晴。
鳥が空を舞い、木々が生い茂り、魔法が飛び交う。
今日は絶好の戦闘日和。
「──つぅ、キャゃあァッ」
爆音と共に咲き乱れる色とりどりの熱閃、光球。
現在10番街は10番の特別試練の真っ最中。
特別試練を簡単に説明するならば優勝すれば願いが叶う武道大会。2人1組のチーム制バトルロイヤルだ。
人目を避けて山奥へと転移してきたハズが、何十人もの実力者がしのぎを削る激戦区に出てしまったらしい。
「お前、見ない顔だな。……途中参加者か。
悪いがここで消えてもらうとしよう」
肉眼で確認できる程の具現化した魔力を身に纏った魔術師が呟くと、周囲で戦っていた参加者もコチラを見やり、一斉に飛びかかってきた。
「レオ、どうする?」
「全員倒す。今のオレは無敵だから」
銀河支配の瞳が世界を照らす。
襲い掛かる敵対者に絶対の実力差を見せつけるが如く、迫る牙を砕き、躱し、叩き潰す。
尖兵を軽く全滅させると、遠巻きに様子を見ていた連中の表情が一変する。実力伯仲で戦っていた相手が突然現れた人物に完膚なきまでに倒されたのだから当然の反応だろう。
恐らく奴等の考えはこうだ、今オレに立ち向かえば間違いなく敗亡に向かっていくようなもの、だからと言って尻尾を巻いて逃げ出せば臆病者のレッテルを貼られる。
敗北は必至だが戦う以外に道はない。
だが散っていった者達の残影が足を動かさない。
飛び出すか逃げ出すかを歯を食いしばりながら考え続け、他の誰かが行動を起こすのを待っている。その行為そのものが自らを劣勢に追い込んでいることを奴等は理解もしていない。
──今度はこちらから攻め込むか……。
そんなことを考えていると、獣の咆哮が世界に響いた。
「へっ……どいつもこいつもだらしねェ!
臆病野朗はその場で見てな!」
人間の身体に狼の顔、ギラギラとした眼、刃物のような牙と爪に銀色の体毛。オレはコイツを知っている。
獣人族の暗殺者、ギリナス。
「よぅ、久しぶりだな。お前の心臓をぶっこ抜く技、便利だよな? 今のオレには心臓があるけど、やるか?」
「……テメェ、どうして俺の技を知ってやがる!」
「実はな、オレは神様なんだよ。
ほら、前回は失敗しただろ? 愚かで未熟な獣人ギリナスよ、チャンスをやるから当ててみろ」
隙を見せて胸をトントンと叩きながらギリナスを挑発する。当然、練達の暗殺者であるギリナスは有利な状況を見逃すことはしない。
「だったら死ねや! ──血塗られた手に握る物ゥ!」
「あの時のオレとは潜った修羅場が違うんだよ。
──終の螺旋」
「──根源の螺旋」
呪詛の線光に向けて終の螺旋を撃った時、別の何かが飛んできた。
異質な力同士の接触。爆風が巻き起こり、勢い余った火力の波濤が周囲一帯を焼き尽くす。
「ついに見つけたぞ! 神ィッ!」
「愚かで未熟? 完璧な生命なんて存在しませんわ!」
「身勝手に世界を巻き込んで、偉そうにモノを語るなぁ!」
三つの悪意、殺意、敵意。
啖呵を切り、煙の中を影が疾る。
目前まで迫った人影はそれぞれが手にした得物を一気に振りかざした。
「……誰だよ、お前ら」
「「「神殺し!!!」」」
振り下ろされた剣と釵を同時に受け止める。
腰が入っていないし力も弱い。
声も瑞々しく女性のようだ、だとしたらやりにくい。
「止められた!」
「クッソ! やっぱ強いか!」
違う。影は三つあった。
二撃は食い止めたが三撃目が残っている。
「──いえ、まだ私が!」
近接戦でも使えるように改造されたマスケット銃での打撃が肩に直撃する。軽すぎて痛みすら感じない。
その直後、オレが掴んでいた釵から手を放した人物が小柄な体躯を活かして浴びせ蹴りを放った。
蹴りが顔面に直撃するが、こちらも威力はまるでない。
煙が晴れたので周囲を見渡すと獣人は爆風に飲まれたのか地面に倒れていた。他の参加者も全員脱落だな。
オレを攻撃し、神殺しを名乗った人物は三人の少女。
力はないが素早いし連携が巧みなため手こずりそうだ。
「本当に倒せそうだね! 神様!」
「ええ、私達が力を合わせれば必ずや!」
「ふっふーん! ウチらならラクショーだよね〜」
少女のかしましい声が脳内に響く。
キャッキャとはしゃぐ少女達の友情劇を見せられている気分だ。これではまるでオレが悪役だ。
倒そうと思えば一瞬で殲滅できるがどうするべきか。
「ふふ、どうかしら? ワタクシの可愛い戦乙女達は」
思案していたところへ不意に声をかけてきたのはまたしても見知らぬ女性。
歳の頃は二十代後半か三十代くらいだろう。
転移してきた気配すら感じなかった。
この女も相当な実力者なのは間違いない。
「アンタ、誰だよ」
「ワタクシはカミラ。挑選者で貴方の敵よ」
カミラは口角を上げ、淫蕩な笑みを浮かべる。
挑選者とは零の器候補を選んでいる連中と記憶している。となると必然的に少女達は零の器候補でオレの敵だ。
「女性とは戦いたくないけど、オレを殺すつもりなら本気でやるからな……」
「それもいいけど、その前に少しお話ししましょう?」
少女達と違ってカミラの表情からは敵意を感じない。
さて、どうしたものか──
最後まで読んでいただきありがとうございました。