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206/236

適合。削除。私は1番。


 鉄仮面が何かを話そうとしている。

 それはきっと重要なことで、大切な話。


「レオ、私、何かおかしい?

 あれ、なんだか楽しくなってきちゃった。あは!」


 上機嫌な声で唯は語る。

 そういえば、唯は1番の能力を解除したのだろうか。

 制限時間の10分はとっくに過ぎている。

 

「いいか、兄弟、今までお前の精神を操っていた黒ま──」

「消えて!」


 話している途中で鉄仮面は唯に消された。

 というか、鉄仮面って誰だ。わからない。


「唯、今、()()()()()?」

「え? 別に何もないよ? 次に行こうか! ふふ……」


 唯はオレの腕を取ると転移を開始する。

 やはり何かがおかしい。この地球は脱出不可能なはずだ。

 次元も空間も、ルールも法則も関係なしに唯は力を行使した。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇

 

 転移した先は見知らぬ小部屋。

 大きな机と豪奢な椅子。

 それと本棚がいくつかあるだけの簡素な部屋だ。

 窓の外には宇宙が広がっている。


「レオ、好きだよ。今から私達だけの世界を創ろうね」


 甘ったるい眼光に情熱的な台詞。

 唯がオレの体に触れると肉体が完全に回復する。

 

「──やってしまったね。

 完全な選択ミスだよ。それはいけない。

 君達はあの場で鉄仮面と協力して黒幕を倒すべきだった」


 椅子に座って背を向けていた人物が、こちらに振り返りもせずに言葉を紡ぐ。背が高く、軍服を着ている。

 オレはこの男を知っている。レオナルド・オムニ・エンド。

 

「……私に命令して? 頭を撫でて、消してしまえと言って?」


 艶やかでサラサラの髪にそっと触れる。

 彼女のご要望通りに頭頂部から首筋までを撫でる。

 唯は体をビクンと震わせながら淡い嬌声を漏らした。

 そしてそのまま右手を突き出す。


「さよなら、レニー」


 唯が呟くとレオナルド・オムニ・エンドは消滅した。

 というか、レオナルドって誰だっけ。

 何をしても、どうやっても思い出せない。


「レオは私が好き?」

「聞くなよ。オレは唯が大切だよ」

「そっか……えへへ」


 唯は口元を蕩けさせると、そのまま抱きついてきた。

 オレの胸に頬擦りをし、手を握り、指先を丹念に触る。


「大きな手だね。大好きだよ。レオは私だけのもの」


 唯はこんなにも愛情をストレートに表現するタイプだっただろうか。むしろ真逆で、奥ゆかしい女性だと思っていた。


「あのさ、変なことを聞くかと思うかも知れないけど、キミは本当に月丘唯なんだよな?」


 唯は何も答えない。

 当然だ。質問自体が馬鹿げているのだから。

 

「そんなに私のことが気になる?

 じゃあ、キスしてくれたら教えてあげる……」


 焦らすようないじらしい目線でオレを見据える唯。

 体が熱くなってくる。

 心臓の鼓動が耳まで届くかと思うほどに鳴っている。


「してくれないの?」


 動揺は隠せないが、他でもない唯の頼みだ、実行するしかない。前髪を手で上げて、額に口づけする。


「とりあえず、これでいいかな?」


 オレの問いかけに唯は満足そうにコクリと頷き、抱擁をやめて少しだけ距離を取った。


「あのね? 驚かないでね? 自分でもビックリしたの。

 私は1番。1番……に、なっちゃった?」


 ガツンと頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。

 このままではいけない気がする。

 どうにかして唯を元に戻さなければならないと感じる。


 だがどうやって?

 相手は宇宙を創り出し、秩序を生み出した究極の存在だというのに。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

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