適合。削除。私は1番。
鉄仮面が何かを話そうとしている。
それはきっと重要なことで、大切な話。
「レオ、私、何かおかしい?
あれ、なんだか楽しくなってきちゃった。あは!」
上機嫌な声で唯は語る。
そういえば、唯は1番の能力を解除したのだろうか。
制限時間の10分はとっくに過ぎている。
「いいか、兄弟、今までお前の精神を操っていた黒ま──」
「消えて!」
話している途中で鉄仮面は唯に消された。
というか、鉄仮面って誰だ。わからない。
「唯、今、何があった?」
「え? 別に何もないよ? 次に行こうか! ふふ……」
唯はオレの腕を取ると転移を開始する。
やはり何かがおかしい。この地球は脱出不可能なはずだ。
次元も空間も、ルールも法則も関係なしに唯は力を行使した。
◇ ◇ ◇ ◇
転移した先は見知らぬ小部屋。
大きな机と豪奢な椅子。
それと本棚がいくつかあるだけの簡素な部屋だ。
窓の外には宇宙が広がっている。
「レオ、好きだよ。今から私達だけの世界を創ろうね」
甘ったるい眼光に情熱的な台詞。
唯がオレの体に触れると肉体が完全に回復する。
「──やってしまったね。
完全な選択ミスだよ。それはいけない。
君達はあの場で鉄仮面と協力して黒幕を倒すべきだった」
椅子に座って背を向けていた人物が、こちらに振り返りもせずに言葉を紡ぐ。背が高く、軍服を着ている。
オレはこの男を知っている。レオナルド・オムニ・エンド。
「……私に命令して? 頭を撫でて、消してしまえと言って?」
艶やかでサラサラの髪にそっと触れる。
彼女のご要望通りに頭頂部から首筋までを撫でる。
唯は体をビクンと震わせながら淡い嬌声を漏らした。
そしてそのまま右手を突き出す。
「さよなら、レニー」
唯が呟くとレオナルド・オムニ・エンドは消滅した。
というか、レオナルドって誰だっけ。
何をしても、どうやっても思い出せない。
「レオは私が好き?」
「聞くなよ。オレは唯が大切だよ」
「そっか……えへへ」
唯は口元を蕩けさせると、そのまま抱きついてきた。
オレの胸に頬擦りをし、手を握り、指先を丹念に触る。
「大きな手だね。大好きだよ。レオは私だけのもの」
唯はこんなにも愛情をストレートに表現するタイプだっただろうか。むしろ真逆で、奥ゆかしい女性だと思っていた。
「あのさ、変なことを聞くかと思うかも知れないけど、キミは本当に月丘唯なんだよな?」
唯は何も答えない。
当然だ。質問自体が馬鹿げているのだから。
「そんなに私のことが気になる?
じゃあ、キスしてくれたら教えてあげる……」
焦らすようないじらしい目線でオレを見据える唯。
体が熱くなってくる。
心臓の鼓動が耳まで届くかと思うほどに鳴っている。
「してくれないの?」
動揺は隠せないが、他でもない唯の頼みだ、実行するしかない。前髪を手で上げて、額に口づけする。
「とりあえず、これでいいかな?」
オレの問いかけに唯は満足そうにコクリと頷き、抱擁をやめて少しだけ距離を取った。
「あのね? 驚かないでね? 自分でもビックリしたの。
私は1番。1番……に、なっちゃった?」
ガツンと頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。
このままではいけない気がする。
どうにかして唯を元に戻さなければならないと感じる。
だがどうやって?
相手は宇宙を創り出し、秩序を生み出した究極の存在だというのに。
最後まで読んでいただきありがとうございました。