死にたくなければ生きればいい。生きるための賭け。
「ダメ、消えちゃ……ヤダよ」
今にも泣きだしそうな顔をしながら唯が近づいてくる。
こちらに縋ろうとする腕を取り、抱き締める。
オレが消えないように、世界に繋ぎ止めるように、腕に力を入れている姿を見て罪悪感が湧いてくる。
「大丈夫だよ。オレは消えないから」
なんの根拠もない言葉。
現に今も肉体が徐々に世界から消えていっている。
この世界では死者は蘇らない。変わることのない絶対の掟。
このまま全てを諦めて、潔く消えてしまうのは簡単だ。
諦めが肝心という言葉もある。
無駄な努力をやめて視点を変えることで転機が訪れたという話も、枚挙には暇がない。だがオレは絶対に諦めない。
唯のおかげでようやく自分を取り戻し、世界と向き合うことができたのだから。
オレは生きていたい。これからも、その先もずっと。
「……唯、オレはキミを絶対に一人にしない。何よりも大切な人だから」
そのためにも生きなければならない。
平和を求める世界のために、頼ってくれる仲間のために。
「──やはり、消えたくはないよな?
ならば簡単だ。死にたくないのなら生きればいい。
レオナルドは零の螺旋を受けても生きていた。わかるな?」
ああ、わかっているよ鉄仮面。
今からそれをするのだから。
オレは生きるために今から少しだけ無茶をする。
これはオレが生きるための賭けだ。
「──終の螺旋【唯我独尊】……」
自分自身の体に終の螺旋を流し込む。
鉄仮面の【零式】を終の螺旋で相殺し、破壊されていくオレの肉体を復元させる。消えてしまった肉体を取り戻し、穴埋めし、免疫を作る。
やっていることはめちゃくちゃだ、それはわかっている。
終の螺旋は宇宙を破壊するためのエネルギー。
それを自身の肉体修復のために使用しているのだから。
正直に言えば、これ以外の方法は考え付かなかった。
かつてレオナルドは素零の零の螺旋に撃たれた際、『感謝しているよ』と言っていた。
つまりはレオナルドは零の螺旋を取り込み、仕組みを分析し、自分自身の力にしたのではないかと推測した。
だとしたら8番に零の螺旋を譲渡したことも、耐性をつけたことについても全てにおいて納得できる。
終の螺旋のエネルギーを自らを活かす術へと変える。
この実験が上手くいけば今後の戦いにも役に立つ。
足元がおぼつかなくなり、目がかすむ。
気を抜けば一瞬で意識をもっていかれそうだ。
だが回復は順調に進んでいる。肉体の消滅をなんとか食い止めることに成功した。オレの考えは間違っていなかった。
心配そうにこちらを見つめている唯に笑顔を送る。
彼女はオレに応えるように優しく微笑んでくれた。
「あの一瞬でよく気がついたな? 零の螺旋はもともと攻撃手段ではない。その本質を理解したとき、お前は更に強くなる。
兄弟は上手くやったようだし、次の段階に移るとしよう」
余裕はないが突然話し出した鉄仮面に視線を流す。
「オレが何故、1番の予言を止めたのか、その理由が知りたいだろ? 今からオレが面白いものを見せてやる」
最後まで読んでいただきありがとうございました。