裏切りの鉄仮面。オレは死んじまったよ。
「普通の人間はね、神や全能にはなれないんだって。
脳や精神が耐えられなくて壊れてしまうらしいの。
だから私は一回だけ、時間的には5分か10分かな、1番を模倣する能力をもらった。今から発動するから、質問してね」
唯の説明を聞いても誰も言葉を発しない。
それぞれが様々な思考を巡らせているのだろう。
何を聞くべきか、何から知るべきか。
オレだってわからない。
自分自身のこと、この世界のこと、聞きたいことは山ほどある。
「──1st遡及推論」
あれこれ考えている間に、唯が能力を発動した。
見た目にはそこまで変化は見られない。
だが目は虚で、どこか遠く、というよりはオレ達とは違う別の世界を観ているように思える。
「唯、大丈夫か?」
「ちょっと、大変……かも。
何もかもが同時に観えるの。過去も未来も、人の心も。
頭が壊れてしまいそうだから、早く質問をして?」
やはり人間には神の真似事など不可能らしい。
重要な質問だけをして、早く唯を楽にしてやりたい。
とりあえずは地球からの脱出方法を聞くべきだろう。
「それじゃあ、この異世界地球からの脱出方法を……」
「掟破りの真の能力はなんだ」
「同胞達の序列を変えるべき時でしょうか?」
「死後覚醒をせずに強くなる方法を教えてくれ」
「俺に彼女はできるんすか? だとしたらいつくらいに?」
「可能な限り相手を苦しめる拷問方法を教えてくれ!」
「2番のパートナーになれるのだろうか」
「えっとぉ、ペル様と私の運命は絶対ですよねぇ?」
「2番がレオナルドと戦うと死ぬのは間違いないのか?」
全員が一斉に質問をする。
こうなることを想定していなかった。
何でも答えがわかるなら、誰だって質問したいに決まっている。
「えっと、出来れば一人ずつお願い……。
頭が痛くて……力が上手く制御できないから……」
ため息混じりに唯は言う。
「じゃあ、どうするよ」
「とりあえずはジャンケンすか?」
「バカ! 脱出方法が先に決まってるだろ?」
「でも一回こっきりってことは、このチャンスを逃したら二度と聞けないかも知れないんだよね?」
「やっぱりぃ、早い者勝ち?」
「わかりやすく、実力主義でいこう!」
「ふざけるな! 制限時間があるんだぞ? そんな暇はない」
場は騒然となっている。
このままでは収拾がつかなくなるだろう。
「唯! この地球はドコで、何がどうなっているのか、それが最優先事項だ! それさえわかれば能力を止めてもいいから!」
仲間を押し退けて可能な限りの大声で叫んでみた。
唯はオレの姿を確認して、パッと顔を明るくする。
「うん。この地球はね、小鳥遊心寧の生きたいという意志。
鉄仮面によって複製された二人目の心寧の能力が、地球消滅の瞬間に偶発的に覚醒してしまった。
住民も世界も、彼女の心象心理が大きく影響している。
脱出するには心寧を殺して能力を止めるしかない。
彼女自身、力に振り回されているから……」
なるほどわかりやすい。さすがは1番の能力だ。
つまり住民が着ぐるみ姿だったのも、子供心に大人は怖いと感じ、可愛らしく変えてしまったようなものだろう。
駆けっこ通りに、犬のお巡りさん。子供らしい素敵な発想だ。
問題なのは心寧を殺すことでしか脱出できないという点。
いくらこの世界にいるのが複製された心寧だとしても、少女を消してしまうというのは気が引ける。
何か他の方法を考える必要がある。
「ありがとう、平気か? もう能力を止めてもいいぞ」
「大丈……夫。あと、二つくらいなら、いける……かも」
「1番よ! オレの正体を言ってみろ! お前にできるか!」
鉄仮面が唯に向かって叫ぶ。突然どうしたというのか。
今この場で聞くべきこととも思えない。
「あなたは……えっ!?」
「やはりな、また会おう。──終の螺旋【零式】」
鉄仮面が唯に向かって終の螺旋を撃ち放った。
気がつけばオレは走りだしていた。
唯の前に立ち、両手を広げ、自らの体で終の螺旋を受け止める。
「レオ!?」
「師匠ォッ!?」
「鉄仮面! 貴様ァァッ!!」
皆んなの声がどこか遠くで聞こえる。
肉体が粒子になって消えていく。
──ああ、オレは死ぬのか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。