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7番は退屈だ。唯が1番・全ての答えがわかると思う。


「兄弟、忠告なのだが、あまり月丘唯に依存するべきではない」


「なんだよ急に」


「今までの流れから見て、レオナルドも掟破りも、お前さんを()()()()()していた。全ては1番を倒すためだ。お前が1番を倒せるかも知れないというのは周知の事実になっているのだろう。

 だからお前さんは今まで散々利用されてきたのだ。

 そして、最も効率よくお前さんを怒らせ、力を引き出す方法、それは月丘唯を殺すことではないか? 

 もしかしたら、お前さんと月丘唯が惹かれあったのも敵の計画かも知れないな」

 

 鉄仮面はオレと唯の関係を否定するかのようにな言葉を言い放つ。自分だって美唯子を使って人を振り回しておいて、どの口が言うのだろうか。


「違う! オレと唯は作られた関係なんかじゃない。

 訂正しろ! 鉄仮面!!」


「感情的になるな、敵の思う壺だぞ」


 この期に及んで、まだ嗜めるように言う鉄仮面。

 段々と腹が立ってきた。

 これ以上はこの場に留まっていたくない。


「師匠? どうしたんすか? わけがわからない世界ですし、全員で一緒にいた方が安心ですよ」


 オレが突然立ち上がったのを見た仁義は戸惑いの声を漏らした。


「……少しの間、外に出てくる」


 それだけ言って店を出た。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 天は高く空は青い。

 ただ道を歩いているだけなのに、暖かな陽気と春風に包まれて気分が晴れやかになる。


「あの、もし? もしかしてエニグマさんですかい?」


 突然声をかけられ、振り返ると見覚えのない男が一人立っていた。上背があり、スーツを着ていて、春だというのにロングコートを羽織っている。

 オレがエニグマであることを知っているに、この男も人外か。


「最初からわかってるんだろ? あんたは?」


「ヘッヘ、一応は確認しないと気が済まない主義でしてね。

 アッシはデ・リト・レインスト。エニグマとは真逆の存在。

 この地球は()()()()()()()()もんなんで対処しにきたんでさ」


 レインは温かみのある笑みを浮かべる。

 オレと敵対するつもりはないらしい。


「へぇ、そうか。ところでさ、相談に乗ってくれないか?」


「……はぇ? 兄さん、変わったお人だな。

 普通のエニグマはアッシを見たらすぐに敵対行動を取るんですがね。失礼、ちょいと一服させてもらいますよ」


 レインは懐からタバコを取り出して口に咥え、オイルライターで火をつける。


「オレは普通じゃない。

 それとタバコはやめろよ、体に悪いだろ」


「……何をおっしゃる。お互いに死ねない身でしょうよ。

 それに、こうしていると人間みたいに見えませんかね。

 アッシは人間が好きなんで。理由はね、人間くらいなもんでしょうよ、自ら選んで滅びの道を選択をできるのは。

 そんなところが滑稽であると同時に、愛らしい」

 

 レインは口から煙を吐き出しながらニッと微笑む。

 面白い男だ。嫌いになれない。むしろ好感触かもしれない。


「わかったよ、好きにしろ。それで、聞くのか聞かないのか」


「……話しなさいよ。聞くくらいならアッシにもできます」


 オレは積もり積もっていた感情をぶち撒けた。

 聞いて欲しいというよりは、やり切れない思いを吐き出したかっただけかも知れない。鉄仮面への苛立ち、次々と理不尽な目に遭わさせられる境遇、自身の迷いについてさんざっぱら語ると気持ちがスッキリした。


「ヘッヘ。随分と溜め込んでいたご様子で。

 そりゃ兄さん、簡単な話だ。惚れた女と一緒になればいい。

 なんなら、アッシが仲を取り持ってやってもいいですぜ。

 生き物は自分の幸せだけを考える権利がありますからね」


「でもさ、世界がそれを許さない。次から次に問題がやってくる。オレに世界をひっくり返してほしい奴等がいるらしい」


「ヘッヘッへ。ならば死ぬ気で抗えばいいんでさ。

 邪魔なもんは全部ぶっ潰して二人だけの世界を作ればいい。 

 アッシならそうしますけどね」


 レインは優しく微笑みかけてくる。


「師匠! そいつは危険らしいですから離れて!」

2番(レオ)、そいつは我々の天敵だ! 俺がアンタを守ってやる」


 声の主は仁義と8番(神代永斗)だ。

 どうやらオレを心配して駆けつけてくれたらしい。


「あーらら。見つかっちまいましたか。

 ちょいと失礼、黙らせてきますんで」


 そう言ってレインは歩みを進める。

 結果を見なくてもわかる。仁義と8番では勝てない。


「エニグマ8番とレオナルドが作ったオモチャですかい。

 恨みはないが、邪魔立てするのなら、処分するだけのこと」


 レインは先程までの穏やかさが嘘のような酷薄な眼差しを仁義達に向けている。

 

 このままでは仁義と8番が殺されてしまう。

 やりたくはないが、オレがやるしかない。

 拳を構え、踏み込もうと足に力を入れたその時。


 突如としてレインの足元で爆発が起こった。

 何かが空から流星のような速度で降ってきたのだ。

 流星は大地を吹き飛ばし、濛々と土煙を噴き上げる。


「──へっへ、これはまた、懐かしい顔だ。姐さんが暴れると困るんですがね。この先の仕事に支障が出るんで……ね」

 

 土煙の向こう側でレインがボヤいている。


「ケケッ! あまりに退屈だったからな! 相手しろよ!」


 煙の中で女性が腕を振るい、巻き起こされた土煙を風圧で吹き飛ばした。


 オレとレインの戦闘を邪魔した人物、

 ──エニグマ7番、七欟梨華は不敵な笑みを浮かべている。


「……エニグマの中でも特に相手したくないのが姐さんなんですがね。アンタにはモノの道理が通用しないんでね」


「ケケケケケ! 随分とおセンチだな! 柄じゃないだろ!

 ほらこいよ、お前の()()はわかってんだ、遊ぼうぜ?」


 7番は笑う。屈託のない、子供のような笑顔だ。


「わかりやした。そこまで言うのなら、やりましょう。

 本気で行きますぜ、後悔しなさんなよ!」

 

 レインは懐から棒状の武器を取り出す。

 今までに見たことがないような得物だ。


「──粒融(グルーオン)溶剣(グルーブ)


 レインが手にした武器の表面に無数の光彩が走る。

 棒状の武器が剣のように形成されていく。


「姐さんもコイツの威力は知っているでしょうよ。

 エニグマだろうと簡単に斬り裂きますぜ」


「ケ? 知ってるよ! だからどうした?」


「やっぱ、退かねえよなぁ。久方ぶりに燃えてきましたぜ」


 レインと7番、両者の顔を見て息を呑む。

 二人とも笑っている。

 爛々と目を輝かせ、身体からは燃えたぎるマグマのような烈々たる闘気を放っている。

 まるでケンカがしたくてたまらない子供のようだ。


「ケケ! さぁ、戦おうぜ!」


 先に仕掛けたのは7番。拳を握り込んで地を馳せる。


「──銀河(ギャラクティカ)烈光拳(ナックル)

 

 駆け込みざま、7番が繰り出した謎の必殺技、拳が光り輝いているが、パッと見は勢いのある右ストレート。


 対するレインは7番の右拳に宿る威光に一切の躊躇も見せず、懐に飛び込んできたタイミングで剣を袈裟斬りに振るう。


「──ケ! 遅いね」


 7番は振り下ろされた剣をぶん殴った。

 レインの剣が大きく弾かれる。


「──姐さん、ただのパンチでは粒融(グルーオン)溶剣(グルーブ)は……な、んだぁ?」


 瞬間、爆発が起きる。

 周囲は眩い閃光に包まれ、大地が吹き飛び、地面に大穴が開く。穴の底が見えない。地球の(コア)の近くまで届いているかも知れない。


「……相変わらずめちゃくちゃな女だ。この世で最も純粋な力。

こと力比べに関しては姐さん以上の存在はいないでしょう。

 加減しないと太陽系ごと消え去りますぜ」


「褒めてくれてありがとよ!」


 7番はそのまま半歩踏み出し、左ストレートをレインの顔面にお見舞いする。続けざま、溜めを効かせた右ボディを打ち込み、頭部に渾身の左フックを叩き込む。


「──ヘッ、ヘッヘ……だから脳筋の相手は嫌なんだ、よ!」


 レインも殴られっ放しではない。7番の腹部を蹴り上げ、右手を開いてバッと突き出す。


「──粒漣弾」


 掌から無数の光条が飛び出した。

 7番は最小限の動きで光の線の間をすり抜ける。

 光はそのまま直進し、後方に聳える山に衝突、爆発を起こし、山脈もろとも吹き飛んだ。

 

 これでも互いに威力はかなり抑えているだろう。でなければ地球はとっくに消滅している。宇宙規模の戦いを地上でやるなよ。

 

「──粒融(グルーオン)溶剣(グループ)


 レインは再度、剣を構成する。

 姿勢を正し、疾風のような連撃を繰り出す。

 7番はその全てを拳で撥ね除ける。


「アーア、何が足りない。純度か、いや、違う。

 配列、これも違うな。アプローチの仕方を変えてみるか」


 レインの全身から放射状に光が広がる。

 広がった光は一気に剣へと収束し、そのまま両手持ちで振り上げる。


「これならどうかね? 姐さんよ!」


 レインの剣線が宙に流麗な弧を描く。

 7番は斬撃を──


「……おいっ! 聞いているのか! 月丘唯が戻ったぞ!」


 レインと7番の戦闘に集中していた意識を無理矢理、引き剥がされる。

 オレの肩を揺すっていたのは鉄仮面だ。

 もっと見ていたい。できればオレも二人と戦ってみたい。

 そんな思いが胸に渦巻いている。


「待てよ鉄仮面、今いいとこなんだよ!」

「7番とは大会で直接戦えばいい。彼女が待っているぞ?」

「彼女? 唯? そうだ! 唯! 鉄仮面、早くしろよ!」

「ヤレヤレ、だがこれで全てがわかる……」


 ◇ ◇ ◇ ◇


「唯!」

「レオ、ただいま……わっ!」

 

 慌てて店内に駆け込み、勢い余って唯に抱きついてしまった。

 無事に再会できた嬉しさもあり、そのまま強く抱きしめる。


「大丈夫だったか? 1番に何もされてないよな?」

「うん。すごくいい人だったよ」

「1番の姿を見たのか?」

「うん。見たよ」


 聞きたいことがありすぎて困る。

 そもそも1番なんて神様のようなもので、実在はしていないのだろうと考えていたから、脳が余計に混乱する。


「何を話した? 地球のこととか、オレ達のこと?」

「あのね、エニグマのことも、終の螺旋のことも、今の私なら全ての謎が何もかもわかると思う。今、準備するね?」


 唯は周囲の人物を集めて椅子に腰掛ける。


「準備って……? 一体何があったんだよ」

「……えっと、多分、今の私は……1番、なのかな?」


 意味がわからない。

 唯が1番になってしまったのだろうか。

 それとも他に何か解釈の仕方があるのだろうか。

 とりあえずは唯が話し出すのを待つしかない。


「──それじゃあ、始めるね」


 唯が次の言葉を放つのを、全員が固唾を呑んで待っている。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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