世界の頂点。私が1番に会ってくる。
「さて、ここからが大変だね。
なにせ元の宇宙に帰る方法がないのだから」
10番はさも当然のように言い切った。
「「「「帰る方法がないッ!?」」」」
オレを助けるために駆け付けてくれた仲間達は誰もその事実を聞いていなかったのか、全員が動揺を隠さずに声を合わせて叫んでいる。
そんな中ただ一人、鉄仮面だけは例外で、腕を組みながら何かを思案するように中空を眺めていた。
「あの? エニグマの皆さん?
私としても巻き込まれた側として聞きたいことがあります。
先程アナタ方は地球も人物も【紛い物】と言いましたね?
しかし、私には記憶がありますし、現に我々が今いる場所は地球でしょう? 何がどうなっているのか説明していただきたい」
要の意見はもっともだ。
とにかく疑問点が多すぎる。ウサギの着ぐるみに占拠された街があるのもおかしいし、倒したハズの聖女や女神様の記憶を本体が共有しているのも謎だ。
答えを求める者達の視線が10番に向けて注がれる。
「うん、そうだよね。順番に一つずつ説明しようか。
まず2番くんや唯くんが住んでいた本来の地球、地球Aと呼ぼうか、これは5番によって今もどこかに隠されている。
今回のように簡単に破壊されたら困るからね。
そして鉄仮面氏が掟破りを誘き出すために創り出した地球Bは終の螺旋によって完全に消滅した。ここまではいいね?」
「ちょ、ちょ、地球がそんなに? 一体いくつあるんだよ!?
この時点でお手上げだ! 意味わかんねぇ!」
声を荒げながら仁義が真っ直ぐに両手を上げる。
「今この宇宙で創造の力を使えるのは鉄仮面氏に2番くん、レオナルド・オムニ・エンドと月光院輝夜かな。
その気になればいくらでも量産できることになる。
問題なのは数の話ではないのだけど、理解できるかな?」
「おいコラ低脳ヤンキー! それくらい全員わかってんだよ、話を止めんじゃねぇ! バカは黙ってやがれ!」
12番が仁義に毒づく。
仁義は周囲を見渡し、自分が見当違いな発言をしたことに気がついたのか、顔を赤く染めてそのまま押し黙ってしまう。
「話を続けるよ。お察しの通り、ここは地球C。
地球Bが消滅する瞬間に生まれた世界らしい。
面白いことに宇宙のどこにも存在していない。
当然、暗黒の運河も使用できないから探すのに苦労したよ」
「だとしたら、どうやってここまで来たんだ?」
「8番だよ。彼がキミのために宇宙中を駆けずり回り、最果ての銀河にあるほんの小さな次元の裂け目を見つけて命を惜しまず飛び込んだらしい。その裂け目も今は完全に塞がっているから、彼の即断即決は正しかった。
8番の召喚能力は次元や時空の影響を受けないから我々もここまで辿り着けたというわけさ。
一歩通行で帰れなくはなったけどね」
8番がオレのためにそこまでしてれるなんて嬉しくてたまらない。お礼を言おうと視線を向けると8番は恥ずかしそうに顔を背けてしまう。
「ちなみに言うと地球Cを創ったのはオレではない。
女神や聖女が事情を知っているのはオレ達が最初から掟破りのもとから連れ出して事の顛末までを一緒に見ていたからだ。
自分自身が消されるのを見るのは、いい気分ではなかっただろうがな」
鉄仮面が言うと女神様もディナも剣士も苦い顔をする。
本来なら自分達はアアなっていたのだと想像し、生きた心地がしないのだろう。
「それで、だ。結論を言おう。
今地球Cがあるのは、それ単体が完全に独立した宇宙だ。
つまり、どこかの誰かが宇宙ごと世界を創ってしまったのさ。
次元の裏側か、並行世界かどうかまではわからないけどな。
正規の宇宙に戻る方法はいまのところ、わからない。このままではオレ達は一生、着ぐるみと一緒に暮らすことになる」
「なんだよそれ、冗談じゃない! ……待てよ、1番は?
1番ならなんとかできるんじゃないか?」
「確かに1番なら可能だろうな。だが会う方法がないよな?」
鉄仮面は肩をすくめる。
「いや、待てよ。美唯子くんならあるいは……」
顎に手を当てながら10番がポツリと呟いた。
聡明な10番ではあるが、今回は的外れだ。
オレは既に美唯子からこの世界には1番はいないと聞いている。
「10番、その美唯子が1番は存在していないと言っていたよ。今回は完全に手詰まりのようだな」
「いや、違う……。その美唯子は掟破りの手下の偽物では?
だとしたら、1番と繋がらないのでなく、1番と繋がれない。
1番が存在しない世界なんて物理的にあり得ないんだ。
8番! 本物の美唯子を呼んでくれないかな?」
「了解だ。おい鉄仮面、美唯子の居場所は?」
「レオナルドの軍事拠点跡地。3-A教室」
「よし、掴んだぞ。出て来いや! 陽神美唯子!」
8番が展開した魔法陣から美唯子が飛び出してくる。
突然見知らぬ顔に囲まれる状況となり困惑しているのか、目を見開きながら視線を右へ左へと振っている。
「美唯子、説明は後でする。1番と連絡を取るんだ。
出来れば直接会って話したいと言ってみてくれ。頼むぞ」
「え? は、はい? 1番さん1番さん! 美唯子ですよ〜!」
鉄仮面に頼まれた美唯子はエニグマ1番と繋がることができる反則能力、1stコンタクトを発動した。
本当に便利な能力だと思う。何せどんな難問でも一瞬で答えがわかってしまうのだから。
「へ? あぁ、はい、はい、わかりました!
あのぉ? 1番さんは月丘唯さんになら会ってもいいと言ってますけど?」
1番と会話していた美唯子がとんでもない事を言い放った。
宇宙最強の1番様はオレの唯をご指名らしい。
「ふざけんなよ! 絶対にダメだ! オレが行く、そう伝えろ」
「……レオ、大丈夫だよ。私が1番に会ってくる。
ずっと美唯子さんの能力が羨ましかったから。
私もレオの役に立ちたいの。だから、任せて?」
「いや、唯の頼みでもさすがに……」
唯を一人で行かせたくない。
というより他の男と二人にさせたくない。
1番が男かどうかもわからないけどな。嫌なものは嫌だ。
だけども会わなければ地球から脱出できない。
どうしたらいいかわからない。頭が混乱している。
とりあえず深呼吸してみる。
「2番くん、安心しなよ。1番より清廉潔白な存在はいないよ」
「それにな兄弟、わざわざ月丘唯を指名したからには何か理由があるのだと思うぞ。ここは自分の彼女を信じてやれ」
「ケケッ! 確かに1番は信用できるぞ、この世の頂点だしな」
全員がオレを説得しようと必死だ。
1番の助けがなければ脱出できないのだから当然か。
「唯、あの、本当に大丈夫か?」
「大丈夫。私はレオのことしか考えてないよ」
唯の言葉で口元が緩む。
コホンと軽く咳払い。
「それで〜? どうしますか〜?」
「わかったよ、美唯子、1番には唯が会いに行く」
「は〜い! それでは唯さん! いってらっしゃ〜い!」
「レオ、行ってくるね?」
「ああ、待ってるから、すぐに帰ってきてくれ」
美唯子が手を上げた途端、唯の肉体は地上から消えた。
本当に大丈夫なのだろうか。
もしも唯に何かあったら、オレは1番を絶対に許さないからな。
最後まで読んでいただきありがとうございました。