暴かれた真実。悪が滅びる時。
「あまり調子に乗るなよ、8番」
「お前こそな。戦いの前に、いいものを見せてやる。
神乃軍勢、神聖領域、絆乃綱臨!!」
鉄仮面を睥睨しながら8番が呪文を紡ぐと床に魔法陣が刻まれる。
「バカの一つ覚えか。雑魚が雑魚を召喚してなんになる?
結局のところ、お前は自分の力では何もできないクズなんだよ。零の螺旋にしてもそうだよな? 猿真似だけは一級品。
人の力を利用し模倣して自分が強いと思い込むゴミ野朗が」
鉄仮面は8番に容赦なく罵詈雑言を浴びせる。
だが8番はおかまいなしに床へと手を着き、術式を完成させる。
「散々言ってくれるよな。
だが、これを見てもまだ強がっていられるか?
出てこい、真実の戦士達! 悪党の陰謀を打ち破れ!」
魔法陣から3つの人影が飛び出してくる。
「ふぅ……ヤレヤレェ、この歳になると転移も難儀じゃの」
「あの、大丈夫です……か? 無理はなさらないで?」
「んは! 平気だよ! 代わりに俺が守ってあげるからさ!」
飛び出してきた人物を見て度肝を抜かれる。
聖女に女神に青年剣士。
鉄仮面とオレで倒した連中だ。
驚く反面、安堵している自分もいる。
聖女ディナや女神様達が生きていて良かったと心から思う。
「グッ……まさか、そんな……。完全に始末したハズ……」
鉄仮面は肩を震わせて狼狽している。
「8番、どういうことなんだ?」
「よく聞いてくれよ2番。この男は鉄仮面ではなく零の器候補の一人、掟破り。女神も聖女も剣士も全てこの悪党に利用されていた。故郷を破壊すると脅され、地球を滅ぼせと指示されていた」
「やめ……ろ。それ以上は言うんじゃない……」
「聞きたくないか? なら続けてやる。
リイドラアを作ったジイさんの星を滅ぼしたのも3番に化けたお前なんだってな? 性根の腐った正真正銘の悪党が!」
8番の話が事実だとしたら、オレはコイツ以上のクズを見たことがない。絶対に許してはおけない。
「聖女さん、女神様、それに剣士さんよ。本当なのか?」
「私は……聖女ではありません。
自分の故郷を救いたくて地球を破壊しようとした悪女。
その男の口車に乗り、魂を売り、アナタを貶めた最低の女です……」
「ウム。わしも愚かであった。
お主の実力を計れと言われ実際に手を貸したのだからな。
悪と言われようが反論は出来ぬな! 許してくれぇ!」
「まぁ実際? 命令に従って故郷を救えるなら自分の命くらい投げ出すでしょって話だよ。俺にはその覚悟があるからね!」
ダメだ、泣きそうだ。
皆んな本当にいい人達じゃないか。
それをオレは言われるがままに悪だと信じて戦っていた。
「お、おい、兄弟? 本当に奴等の戯言を信じるのか!?
また同じことの繰り返しだぞ? 証拠もないのに信じるな。
8番はレオナルドの手下だったんだぞ?」
鉄仮面は必死に言葉を並べて弁明している。
オレの知っている鉄仮面はこんな子悪党ではない。
やはり、コイツが諸悪の根源だったのだと確信する。
「証拠が欲しい? なら追加オーダーだ!」
神代永斗の合図で魔法陣から次々と人影が飛び出してくる。
「遅くなってすまない、許してくれ、兄弟!」
「ケッ! 援軍登場ってなぁ!?」
「おらぁ! 胸くそ悪い悪党をアタイが倒しに来たぜぇ!」
「師匠! 助けに来ましたよ! ドロ船到来ってヤツです!」
「さて、全員集合したことだし、悪党のカラクリを暴露してやりますか!」
助けに来てくれたのは皆んなオレの大切な仲間達だ。
嬉しいので仁義のドロ船は大船に訂正しないで乗ってやろう。
「掟破りくん? 我々は君が地球で良からぬ事をしようと企だてていたのを事前に察知していた。
君が破壊したと思っている地球も人物も全て鉄仮面が創り出した偽物さ!」
10番が雄弁に語ると本物の鉄仮面が一歩前に出る。
「オレも3番の創造の力を使えるんでね。
悪党を懲らしめるために助力させてもらったよ。
それともう1組、紹介したい人物がいる。出てきてください」
鉄仮面の合図で前に出てきたのはリイドラアとドクターミラカウサだ。この人達も罪はない。
「青年よ、いや、2番さん。我々が浅はかだった。
エニグマを悪だと思い込み、そこにいる悪党の計画に加担した。本物の地球だったらと思うと悔やんでも悔やみきれない」
「……いいよ。オレはなんとも思っていないさ。
今から悪を滅ぼすからさ、そこで見ていてくれよ。
きっと嫌な気持ちもスカっとすると思う。アンタは悪くない」
ドクターミラカウサは俯いたまま何も言わない。
だが流した涙を悟られないように隠しているのをオレは知っている。
「グッ、グッ、長年の計画が、オレの夢が……。
聖女になれると罠に嵌め、剣士を追放させ、女神の国まで焼いたというのにぃ……もういい! 自分でやってやる!
貴様を覚醒させ1番を倒させる計画は破棄だ!
オレが世界の頂点に立つ! オレが零になるんだよぉぉっ!」
掟破りも吹っ切れたようだ。
これで心置きなく戦える。
だがまだだ、今回の最大の功労者を労わないといけない。
「8番、オレのためにありがとう。
一緒に戦おう。神代永斗は強いって皆んなに見せつけてやろうぜ?」
「2番……ああ! 俺だって皆んなに負けないくらいに強い!」
「よく言った! いくぞ! 同調合体!」
8番と心を一つにする。
覚悟しろよ、掟破り。今回のオレは容赦しないからな。
「『オッシャア! イクゼェ!』」
オレ達は足に力を込めて一気に飛び出す。
そのまま掟破り目掛けて一直線に突っ走る。
「──ッラァ!! あの時の聖女さんの痛みを思い知れ!」
──跳び膝蹴り一閃。
「……がッ!? ハァァァ──ァ?!??!」
掟破りの顔面に膝がメリ込む。
偽りの鉄仮面をぶち破り、中から出てきた冴えない男の顔を粉砕する。
掟破りは地面をゴム鞠のようにバウンドしながら転がっていく。
「───?!? クソが! 速すぎる? まさか、ハッ?」
「『……そうだよなぁ! お前は自分が聖女さんに何をシタカわかってるよなぁ!』」
掟破りの首根っこを掴み、そのまま壁面に叩きつける。
顔面を壁に押し付けたままバーの店内を走り回る。
「いガ、フバ、顔、顔が……やめでぇ……ガバらぁっ……?」
「『8番だって改心したんだ。今度はお前も人に尽くせる立場になれよ!』」
掟破りの腹部を蹴り飛ばし、終の螺旋を構える。
「お、おい! 待ってくれ! オレは器候補なんだぞ!?
今倒すのは酷じゃないか!? バカな真似はよせ!
そ、そうだ! オレの知恵を貸すよ、協力しよう? な!」
「『いらねえよ! オレの大切なもんに手を出す奴は、誰であろうとぶっ潰す。大人しく消えとけ。──終の螺旋【捌式】』」
「や、やめ──、こんな終わりって……死にたくないぃイィッ!? ──ぎゃあああ亞アアア嗚呼あゝー〜!?!?」
迷いも、情も、哀れみもない、無慈悲な一撃。
ただ正義を行なうための真実の一撃。
──勝ったぞ。ありがとうな、皆んな。
「レオ! さいっこうにかっこよかったよ!」
「師匠! さすがですよぉ!!?」
「よくやったな! 兄弟!」
全員がオレ達を祝福してくれている。
『良いことをするって気持ちいいだろ? 8番?』
『ああ、絶対に忘れないよ。最高に幸せな気分だ。
今までの事、許して欲しい。本当に反省しているよ』
『だからもういいって、今度クリアにも謝りにいこうな?』
『あぁ、俺がバカだったよ。土下座して謝るさ』
『よし! 今日からオレ達は本当の意味で仲間だな!』
卑劣な掟破りを打ち倒したオレ達はいつまでも勝利の余韻を噛み締めていた。
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