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作戦会議


 青年(オレ)が話し出すのを全員が静かに待っていた。

 場に沈黙が流れ、室内を静寂が支配する。

 オレは手の平を開いては閉じてを繰り返し、その度に稲光が生まれ、即座に消える。

 何かを考え込むような表情で沈黙を続け、やがて結論に至ったのか静かに口を開く。


「皆んなのこと、仲間だと思っているからこそ話すよ。今、この瞬間にもオレは中から変わっていっているのが自分でわかる。もしかするとオレはオレでなくなるかもしれない。だから、自分の意思があるうちにアレスティラともう一度話がしたい。協力してほしい」


 自分自身が未知の化け物に変貌しつつある事実をオレが悲しげな表情で吐露したのを見て、刹那が動く。

 鞘から刀を抜き、目にも映らぬ速さで剣閃一閃に刀を薙ぐと、斬撃が飛び、意思を持っているかの如くオレに向かって襲いかかる。

 オレは指先から紫電を撃ち出し、刹那が放った斬撃を迎撃した。

 空中で紫電と真空刃がぶつかり合い、消滅していく様を見つめ、刹那は納得したような、諦めたかのような複雑な表情を浮かべる。


「もとより、そのつもりだ。()()を放置していたら、また罪もない人々や世界が消されてしまう。これ以上、犠牲は出したくない。是非もない」


 刹那が刀を納め、その場に座り込むのをオレは黙って見つめている。ミカもノノも、一連のやりとりに一切口出しをすることなく、静観していた。


「ノノ、アレスティラがどこにいるのか、居場所はわかるかな」


 オレに問われたノノは首を静かに左右に振り、わからないと合図を送る。


「ありがとう。それと、もう一つ聞きたい。アレスティラが集めようとしている仲間の力ってのは具体的な人数とかはわかるかな」


「えっと、ここにくる前にアレスティラが言っていたのは計画を実行するには上位10人の力が必要だって言っていたの。だから、オレ君の中にいた2番と、3番のエド、5番のアレスティラ、ソレが6番だから、今の時点で4人分の力は集まっていることになるね!」


 屈託のない笑顔でノノが言い切ると、オレは唇に手を当て思案する。


「だとしたら、オレ達で先回りして残り6人、倒すか味方にしよう。アレスティラの計画を阻止すれば、むこうもオレ達を放っておけないはずだから」


「ノノは9番で今ここにいるから、正確には5人だよー!」


 ノノが明るい声で補足すると、オレは黙って頷く。


「アタシも一つ、言っておきたいことがある」


 扇子をパチンと閉じて、ミカが呟いた。

 刹那はミカをチラリと見やり、すぐに視線を前へと向ける。


「アタシの世界が消えてから、神としての力が弱くなっているのを感じていた。そしてノノとの戦闘で力の大半を吐き出して、今のアタシは普通の人間とそう変わらないレベルまで落ちている」


 ミカが言うのを聞いて刹那が目を瞑り、腕を組む。


「神とは信仰によって成り立っている。信奉者がいないとなれば、それは必然だろう。戦力にはならないが、仕方ないことだ。気にするな」


 刹那がいい切るとミカが思わず苦笑する。

 人間に憐れみ、或いは慈悲の言葉を投げかけられるのは神としてもどかしかったのだろうが、的確に事実を突き付けられ、反論も否定もできなかった。結果として再度、事実を受け入れる結果となったミカは口元に笑みを浮かべて開き直って話し始める。


「言うじゃないか、セツ。だがアタシも元、神として黙っているわけにはいかない。だからアタシはこの場に残って、神としての力を取り戻すことに専念する。もし、事がうまく運べば、奴らを葬る秘策もある。神として、最後はお前らの希望になってやるよ」


 ミカの言葉に神としての威厳が滲み出ていた。思わず頼りたくなるような威光を放っていた。

 自信満々に話すミカを見て、心が震えたオレは思わず身震いする。


「わかった。じゃあ神様の判断に任せるよ。それでノノ、他の仲間の居場所がわかるなら、オレと刹那を運んでくれるかな」


「任せて! 8番はお友達だから簡単に居場所がわかるし、10番も自分の世界にいるはずだから、すぐにでもいけるよー!」


 元気よく手をあげてノノが言うと、ミカが満足気に微笑む。


「やっぱり、ノノ、アンタは役に立つよ。二人のこと、頼むよ」


「えへへ…………惚れ直しちゃった?」


「あぁ、かもな」


 二人がまたイチャつき出しそうな気配を察知して、刹那が力強くテーブルを叩いた。ミカとノノの体が同時にビクンと跳ね、その様子がおかしかったのか、オレが小さく微笑む。

 

「時間が惜しい、二手に別れて行動しよう。ノノと刹那は8番を頼む。オレは10番を担当するよ」


 オレを気遣い、刹那が尋ねる。


「一人で大丈夫なのか? いくらお前が現状無敵だろうと、奴らを倒せる確証はないだろう。それにまだ自身の能力を把握しきれていないだろうし、いきなり単独行動は無理がある」


「……大丈夫だ。任せてくれ。もうオレは負けないし、油断もしない。皆のお荷物は嫌なんだ。それに仲間がいると、多分どうしても甘えてしまうから、オレは自分の力を信じてみたい」


 オレが珍しく強い口調でいい、真剣な表情で刹那をみつめた。


「わかった。これから私は()()を信じることにする。裏切るなよ」


 オレは刹那が認めてくれた事が余程嬉しかったのか、思わず笑みが溢れた顔を見せないように背けて、そのまま強く頷く。


「どちらにしても、今日はもう遅い、行動するなら明日からだな。本日は解散だ、散りな」


 ミカの発言により、第一回不可能殺し作戦会議は終了した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 行動開始の時刻を明朝七時と定め、各々が自室へと散っていった後、オレは刹那の部屋へと足を運ぶ。


「刹那、少しいいかな」


 控えめなノックをすると中から返事があり、オレはオズオズと刹那の自室へと入っていく。

 部屋の中は非常に簡素なものだった。真っ白な壁、真っ白な天井、あるのは本棚と机とベッドのみ。女性らしさなど微塵も感じない部屋だというのに、オレは緊張して普段通りに話しかけることができないでいた。

 

「眠れないのか」


 刹那が読んでいた現代小説に栞をはさみ、パタンと閉じて本棚へと戻すと、呆然と立ち尽くしているオレに声をかけ、二人してベッドに腰掛ける。


「ミカとノノがイチャついてる声がやかましくてさ」


「アレスティラと対峙していた極限状態でも馬鹿をやっていたのだから、あいつらの阿呆は筋金入りだ。放っておけ」


 呆れなど通り越して何も感じないといった様子で刹那が言うと、オレも同感して僅かに笑う。

 他愛もない会話で緊張がほぐれたところで、オレは自身が聞こうとしていた本題へと話題を移すことにした。


「……刹那はオレの事、やっぱり化け物だと思うかな?」


「それは他人に聞くべき質問ではないな。お前は自分自身をどう思っている」


 優しく諭すように語りかける刹那の横顔を眺めながら、オレはゆっくりと口を開く。


「オレは人間だと思いたいし、ずっと人間のままでいたいよ」


 刹那はオレの膝の上に手を置いて小さく嘆息すると、ほんの少しの笑みを浮かべて囁くように言う。


「ならそれが全てだ。自分自身を否定しなければ、お前はいつまでも人間だし、誰にもそれを否定する権利はない。これからも胸を張って自分は人間だと名乗ればいい」


「そっか……だよな。ありがとう、スッキリしたよ」


 オレが心からの謝辞を述べる。

 今まで常に異常な状態に身を置かれ、まともに平凡な会話すら出来なかったオレにとって、人間という対等な立場で言葉を交わせる刹那という存在は、何よりも大切であり、心の拠り所でもあった。

 その刹那に否定されたとしたら、今のオレにとって致命的だったのかもしれない。

 だがそれは刹那にとっても同じだった。

 いつの間にか、オレと刹那はお互いの心の安寧のために必要不可欠な存在となっていた。

 だからこそ、刹那はオレに人間でいてほしいと本気で思っているし、だからこそ、必要以上に言葉を選び、慎重に発言していた。

 

「待て、私も……お前に話さなければならないことがある」


 立ち上がり、部屋を出ようとしていたオレの腕を刹那が掴む。


「なんだよ、改まってさ」


「……どうにも、お前の顔を見ていると判断が鈍ってしまうな」


 憂いているのか、悩んでいるのか、判断のつかない表情で刹那が語る。

 オレは初めてみる刹那の表情に若干戸惑いつつも、優しい声音で言葉を返す。


「何を聞いても驚いたりなんかしないよ。世界を消し去る不滅の化け物と戦ってるわけだしさ」


「…………そうだな。では話そう。私の秘密を」


 刹那は誰にも話すまいと内に秘めていた思いを、吐き出すように語り出した。

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