異世界からの侵略者。地球人の絆・欲望の果てに。
まるで世界全体がふざけているかのような光景だった。
灰色の空を魔女が駆け、マントで空飛ぶヒーロー軍団が高笑いを上げながら我が者顔で飛び回っている。
地上にはゾンビや異形の怪物、剣士、魔法使い、その他諸々。
ハロウィンの仮装行列かよとツッコミたくなる。
「巨人に怪獣までいるぞ……。架空人物、夢の大集合だな」
「こんなことができるやつはただ一人、零の器候補【掟破り】」
漫画がびっしりと詰まった本棚をひっくり返して、全てを現実に引き起こしたかのような異常事態。
なんでもありの10番街では普段から見慣れた光景ではあるものの、ここが本当に地球であるならば絶対にあってはならない現象だ。
ただ不思議なことに夢の軍団は何も行動を起こしていない。
ただひたすらに空中を旋回し、街中を闊歩するだけで人に危害を加えるような行為は今のところしていない。
だがもしそれらが暴れ出したら人類に抗う術はないだろう。
魔法の力が飛び交おうが、超常現象が起ころうが、全てを受け入れ静観する以外に方法はない。
何かのキッカケで全てが終わる。
地球が危機的状況にあるのは間違いない。
「とりあえず、どうしたらいい」
「少し静かにしろ。──あのビルの屋上だ、転移するぞ」
鉄仮面の転移術で高層ビルの屋上まで瞬間的に移動する。
そこには見覚えのある武装集団、エニグマ殲滅組織、EriSの面々が銃器を手に天を見上げていた。
他にもざっと見ただけでも警察官や自衛官が立ち並び、地球の防衛力そのものが集結しているかのようだった。
地上や空の様子を偵察し、仮設のテントに設置された仰々しい無線機でしきりに連絡を取り合っている。
物々しい雰囲気。地球の終わりのような事態だし仕方ないか。
「無情要、また会ったな。オレのこと、覚えてる?」
「おやおや、異星人とは別にエニグマまで現れましたか」
オレの姿を一瞥し、要は冷笑する。
異星人、確かに平和に暮らしている地球人からしたら、漫画の世界から飛び出してきたような輩は異星人と呼べるかも知れない。
「キッドにやられて凍って死ななかったんだな。
人類が進化したとは満更嘘でもないらしい」
「進化、と言っても真価というべきですかねぇ。
人類は古来より知恵の力で生き延びてきた。
ですから今回も智の発展、簡単に言えば科学技術の力です」
「お前の光を操る力も地球の科学力ってことか」
「はい。人間は都合よく覚醒なんてしたりしませんからね。
私の能力も全て、科学の粋を集めたハッタリです。
貴方のお仲間が私の収束光線を止めた方法も科学の力で解明いたしましたよ、実に原始的な手段でした。教えてさしあげましょうか?」
「いや、キッドとは大会で直接戦ってみたい。
自力で破るつもりだから知る必要はない。
それよりもお前は何故エニグマについて知っている?」
「神の啓示、いえ、タレコミ……ですか。
エニグマは地球を滅ぼし人類を絶滅させる。
そんなことを聞いて黙っているわけにはいかないでしょう?」
「その神とはレオナルドではないだろうな?
2番のオレが保証するがエニグマは地球に手を出さない。
なんならこの事件の解決にも協力する。地球人としてな」
「……いやはや、これは面白い展開ですねぇ。
確かに貴方が元人間だということも調査しております。
エニグマと共闘……。いえ、地球人ならば同士ですかね。
いいでしょう。異世界からの侵入者を共に排除しましょうか」
組織の副隊長クラスにもなるとさすがに話がわかる。
周囲にいる兵隊達は動揺している。要の独断だろう。
柔軟な対応で歩み寄ってくれたからにはコチラとしても誠意を持って応えるべきだ。地球のためにも全力を尽くす。
「零の器候補相手では人間には荷が重いだろうしな。
オレも協力しよう。地球には思い入れがあるんでね」
鉄仮面が意味深に呟く。今に始まったことではないか。
オレは地球人として異世界からの侵入者を撃退する。唯も美唯子もいるし、余程のことがない限り負けはないだろう。
「それで? 状況はどうなっているんだ」
「数時間程前、都心部上空に次元の歪みを確認。
その数分後、神を名乗る異星人連中が空を引き裂き襲来。
彼等の要求はエニグマ3番の娘、小鳥遊心寧の身柄を引き渡せとのこと。既に周辺住民の避難は完了しております」
「副隊長殿! 使者が来ます! 指示を願います!」
要の部下が声高に叫んだ。
空から漆黒の翼を有する翼人が優雅に飛来してくる。
大きな翼を羽ばたかせながら要の前へと着陸すると、猛禽類のような鋭い眼光で周囲の人間達を威嚇する。
「──時間だ、人類側の答えを聞こう。
本来ならば待つ必要すらなかったのだが、主人の慈悲だ。
服を着た猿など滅殺すればいいと我は考えている」
鳥人間のくせに偉そうな物言いだ。
どうやら要が人類の代弁者になっているらしい。
要は鳥人間の威圧にも一切、動じずに指を鳴らす。
「残念ですねぇ、人類の答えは最初から決まっています。
地球を守るのは地球人の使命ですから。死になさい。
──天誅・光矢刑」
閃光一閃。
鳥人間の頭上から光の柱が降り注ぐ。
「ぐぁぁああああ!? 貴様、何のつもりだ!!?
エニグマは人類にとっても脅威のはず……。
それを……ぐ、ガアア! おのれ、宇宙の猿どもが……ッ」
光の柱に包まれ、高熱で体が溶けていく。
鳥人間は目を白黒させ、手足をバタつかせながら光の渦から脱出を試みているようだ。
「なに、簡単なことですよ。小鳥遊心寧が人間として地球で平和に暮らしている限り、我々は彼女を同族である人類として認識します。
つまり? 人類を守るべき立場の我々が守護対象を差し出すわけがないでしょう? 伝達は不用、狼煙は私が上げますので」
「後悔するなよ人間……全面、戦争だ……グッ、──アッ!?」
宇宙から光速で飛来する2本目の柱に包まれて、鳥人間は完全に消滅した。
「あんた、いい人だな。オレも人間として嬉しく思う」
エニグマの血を引く心寧を人間として扱ってくれている。
そのことが嬉しくてたまらない。
「私は自分の仕事をしたまで。
胸クソの悪い地球の敵を排除しただけです。
それに、助け合い、協力するのが人間、違いますか?」
「ああ! そうだな!」
「和んでいるところを悪いが、早速来たぞ」
鉄仮面の言葉通りに灰色の空から敵が降ってくる。
女性が2、男性が1。全員が人間型。
「ふっ! 主様に背く愚か者が! わしの力を思い知るのじゃ!」
「はじめまして。私は聖女ディナ。地球を滅ぼしに参りました」
「っハッ! 君達可愛いね? 俺のハーレムに入らない?」
やたら濃い三人組。幼女に聖女にナンパ男。
終の螺旋で消し飛びそうだが、強いのだろうか。
「兄弟、どうせ女とは戦いたくないとか言うんだろ?
オレはノジャガキと聖女を潰す。
お前はハーレム男をわからせろ」
仮面の中から冷徹な声で指示を出す鉄仮面。
言葉があまりに真っ直ぐすぎて警官隊が苦笑いを浮かべている。
だが確かに女性に手を出したくはない。
ナンパ男の相手はオレがするとしよう。
「ねぇね、女の悦び、知りたいだろう?
二人とも俺の女にして毎晩抱いてやるよ? ん?」
周囲の人間に目もくれずに必死に幼女と聖女を口説いている。
見た目からして剣士だろうが闘気は感じられない。雑魚だ。
「お前さ、何しに地球に来たんだよ」
「は? 決まっているだろ? 地球の全ての女を俺のものにする」
ナンパ男はハッキリと言い切った。
自分の欲望に忠実な男だ。別に否定する気はない。
「自分のものにして、どうする?」
「さっきからシツコイぞ。そんなもん、好き勝手して、ガキでも仕込んで、また別の女を探すのさ」
野生動物かコイツは。戦う気も失せるんだが。
唯も美唯子もドン引きしている。今時ここまで潔い男も珍しい。
「耳が痛いよな? 鉄仮面?」
たまには鉄仮面に嫌味を言ってみる。
全て手に入れろだとか言ってみたり、そのくせサラやアレに手を出していたりとか、色々と思うところがある。
「オレは美唯子一筋だ。そこのクズ野朗とは違う。
サラにもアレにも手は出していない。お前こそどうなんだ」
「オレだって唯一筋だ! お前に言われて色々考えたが、結局向いてないと気づいた。全ての女性を愛するなんて無理がある」
「は? お前らバカ? ヤルダケやって捨てちまえばいいんだよ! 女なんて男の欲望を満たすために存在するんだぜ? ──ッた!?」
ナンパ男の頭に石が飛んできた。それも複数。
「貴様! ふざけるなよ! おいこれを見ろ!」
石を投げた警察官が胸ポケットから手帳を取り出し、剣士に近づいていく。
「可愛いだろ? 娘だ。お前は仮に子供ができて母親を聞かれたら、手を出しすぎてわかりませんとでも言うのかよ」
「俺も一言、言いたいね。誰かれ構わず抱く? ふざけるな。
同じ男として許せん。欲望を制御できないガキが、地球から出ていけよ」
ポツポツと始まった非難の声はやがて誹謗中傷の嵐となり、警官隊もEriSの隊員も多くの男性陣がナンパ男を相手に取っ組み合いの喧嘩をしている。
さすがに止めないとまずいだろうか。
「はい、ストーップ! さすがに反省したよな?」
「クソ、だから男は嫌いなんだ! 俺以外の男は皆んな死ね!」
まるで反省していない。
「はい、再開」
オレが戦うまでもなかった。
異世界から来たナンパ男は地球の頼れる男達に懲らしめられましとさ。めでたしめでたし。
最後まで読んでいただきありがとうございました。