鉄仮面の秘密。零の器・オレ達の記憶。
「ナイスパンチでしたよ! さすがです師匠ッ!!」
「二人の動きが速すぎて何もわからなかった。すごい……」
男の誇りを懸けた魂の殴り合いの末に鉄仮面を撃破したオレに仲間達が次々と賛辞を送ってくれる。
部屋の隅へと視線を流すと、鉄仮面を倒された美唯子達が居心地が悪そうにして身を縮めていた。
サラも美唯子もアレスティラも、かつてはオレの大切な仲間だった。それが今では鉄仮面の取り巻きのようになってしまっている。
何もせずに野放しにするわけにはいかない。
「いい加減に事情を説明してくれないかな?
敵なら敵でハッキリしてくれないと対応に困る」
美唯子達は口を噤んだまま動かない。
一番簡単なのは床で寝ている男の仮面を外すことだ。
今までの動向やペル様と呼ばれていたのから察するに、十中八九、オレに関わりがある、もしくはオレ自身だと考えられる。
……全てを明らかにする時がきた。
「仁義、その男の仮面を外してくれ」
「了解っす!」
仁義が小走りで鉄仮面のそばまで近寄る。
怖気付いたのか靴のつま先で体を揺すっている。
鉄仮面が動かないのを確認すると、仁義は大きく息を吐いてから仮面へと手を伸ばす。
「──やめなさいっ!!」
「無駄だ……」
アレスティラが最後の抵抗とばかりに時を止めようとする。
それと同時にオレも時空支配能力を発動し、時間の流れを正常に機能させる。時間操作はしないと唯と約束したが、今回ばかりはそうも言っていられない。
「2番さん、冷静に、その仮面を外してはいけません……」
サラがオレの手を握りながら静かな声で懇願する。
やはり仮面の中には重要な秘密が隠されているようだ。
「サラ、わかってくれ……オレは自分という存在を理解したい。
零の器とは何か、どうして巻き込まれたのか理由を知りたい」
気持ちを汲んでくれたのか、サラは諦めたように手を放す。
「……29番、平気だ。オレが自分で話そう。
お前はな、1番を倒せる可能性なんだよ」
いつの間に意識を取り戻したのか、鉄仮面は立ち上がっていた。
すぐそばで狼狽している仁義を押し退けてから前へ出る。
「1番はこの宇宙も神すらも創り出した。倒すことは不可能。
何万年も何億年もそう考えられていた。
だがな、何百兆、何千兆と生命が生まれる中で、1にも満たない確率で1番を倒せるかも知れない存在が現れることがわかった。
1番を倒してその先の0になるかも知れない存在、それがオレ達、零の器候補だ」
零の器とはその名の通り、1番を倒してその上の0番になる者ということなのだろう。そこまでは理解できる。
「他にも聞きたいことがある。お前は何故ここに来た。
美唯子とサラ、それにアレスティラとの関係は」
「まず最初に言っておこうか、あの日、お前の家にやってきたアレスティラに会ったのは鉄仮面だ。
ちなみに言うとサラと恋仲になったのも鉄仮面だ、わかるか?」
ここに来て一気にわからなくなる。
何故ならそれらは全てオレ自身の体験だと思っているから。
「よく考えろよ。お前の脳みそはなんのためにあるんだ?
常に答えだけを提示される人生は幸福か? オレはそう思わない」
黙り込んで思考を巡らすオレを揶揄うように鉄仮面は言う。
「いやしかし、だとしたらあの時の体験は……。
オレは実際に自分の目で見て心で感じた……どうなっている」
「やはりわからんか、簡単な話だよ、オレとお前の記憶や意思は連動している。
ついさっきもオレと美唯子の会話が聞こえただろう?
お前が心臓を取り戻し、真の意味で自我を取り戻してからは幾分かマシにはなったが、オレ達の心は繋がっているんだ」
「つまり、オレが今まで見たり感じたりしていたものは……」
「そう、オレの体験とお前の体験と美唯子の世界を見通す能力の複合した意思記憶を共有していた。現にお前さんが心臓を取り戻すまでの記憶はどこか他人事のように、非現実と実体感が混ざっているように感じていただろう?」
ルナティクルに言われた時も考えていたことだ。
確かにオレは自身を俯瞰で見ていた気がする。
本来なら知り得ない情報、情景も把握していた。
それらをオレは全て夢だと捉えていたが、そうでもないらしい。
「待ってくれ、突然すぎて意味がわからない。
結局のところ、お前は誰なんだよ」
「お前さんは月丘レオを名乗っているんだよな?
ならばオレは陽神レオ。とりあえずはそれでいい」
陽神は美唯子の苗字だ。
オレが唯と仲が良いことに対する対抗意識か。
やはり美唯子と鉄仮面が運命で結ばれているのは間違いなさそうだ。その上で敢えてオレを試していたのか。
「美唯子をオレに送りつけた理由は?」
「今、お前さんが考えていた通りさ。
やはり運命は絶対のようだ。
お前はどれだけの誘惑があっても、密室空間に二人でいても決して美唯子には手を出さなかった。感謝しているよ、兄弟」
思考まで完全に読まれている。だが全て納得できる。
どんな事があっても、能力で強制されるまでオレは美唯子には惹かれなかった。
「ではここに来た目的は」
「お前さんがレオナルドと戦えば間違いなく死ぬ。
そうなると困るから協力に来たんだよ」
「ほら、お二人ってよく似ていますよね?
精神的に弱くてすぐ挑発に乗るところとか!
だから素直になれずに子供のようなケンカを!
それがさっきの殴り合いに発展した理由ですねー!」
嬉々とした表情で美唯子が横槍を入れる。
オレの事などお見通しだとでも言いたいのだろう。
「オレは本当に美唯子が宇宙一だと今でも思っている」
「だから唯だって言ってるよな? また白黒つけるかよ」
「──いい加減にしろッ!」
反射的に鉄仮面に噛み付いたオレの頭に刹那が拳骨を入れる。
やはり鉄仮面にはどうしてもムキになってしまう。
「それとすぐに泣くというのと、人によく抱きつく、仮面の男をライバル視しているというのも付け加えておけ」
刹那の分析は的確だった。
反論の余地もないので黙っているしかない。
「大変ですよー! 心寧さんの偵察をしていた同胞から連絡が入りました! 地球が何者かに攻めこまれています!」
オレが黙ることによって静寂が訪れた第三取調室に愛生が息せき切って走って来た。
「タイミングがよすぎる……。これもお前の策略か?」
「そんなはずがない。策略陰謀はレオナルドの担当だ。
なんなら地球を救いにいくのにも同行しよう。
レオナルドを倒すなら人類の協力が必要だ。
EriSとかいう組織の連中を全員仲間にしよう」
オレが尋ねると鉄仮面は即答した。
「おっ、いいな、それ! 要はレーザーが使えて強いんだよ」
「知っているさ、見ていたからな」
鉄仮面様は全てお見通しのようだ。
「今回は唯も一緒に地球へ行こう、オレが一緒だからさ」
「地球は嫌だけど、レオが一緒なら頑張る……」
唯は眉を寄せるが最終的には地球行きを了承する。
「見せつけてくれるな。美唯子、オレ達も一緒だ!」
「はーい! ペル様のためなら地獄であろうとついて行きます!」
鉄仮面は鉄仮面でオレに対してライバル意識があるのだろう。
美唯子との仲をオレ達に見せつけるようにしている。
地球を侵略しに現れた連中が何者かは知らないが、今回ばかりは同情せざるを得ない。悔しいがオレと鉄仮面が組めば無敵だ。
何があっても絶対に負ける気がしない。
オレと唯、鉄仮面と美唯子で地球に向けて転移を開始する。
最後まで読んでいただきありがとうございました。