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オレの大切な仲間達。オレは絶対に死なないよ。


 神の居城で仁義にボクシングの稽古をつけている。

 オレと出会うまで我流で戦っていた仁義がエニグマを倒せるまでに成長したのも、ひとえに直向きな努力と才能の賜物だろう。


「っし! 当たっ……た!

 初めて師匠にパンチが当たりましたよ!」


 仁義の渾身の右ストレートが頬に直撃した。

 意識が飛びそうになる程の威力だ。

 本当に成長したと思う。オレの自慢の愛弟子だ。


「仁義、強くなったな。今日は終わりだ。

 ……お前さ、もし地球に帰ったら夢とかはあるのか」


 オレが話しかけると、グローブを外していた仁義が呆気にとられたような顔をする。


「なんも考えてないっすね。元からケンカしかしてなかったし。

 暇だったらプロになって世界でも狙いますか。

 その時は師匠がセコンドしてくださいよ。絶対にね!」


 仁義は人懐っこい笑みを浮かべる。

 トレーナーになる。そんな未来も面白いかも知れない。


「握手しよう。オレとお前の今までの努力の成果を祝って」

「なんすか、急に? 今日はヤケに優しいっすね」


 仁義とガッチリ握手を交わす。

 お前ならきっと世界チャンピオンになれる。頑張れよ。


「──ッ!? なんすか、何を……」


「オレの中の15番(ジェイド)の力をお前にやった。

 今までずっと一緒に戦ってきた体の一部のような雷の力だ。

 何よりも思い入れがある。新人類のお前なら使いこなせる。

 オレからの餞別だ。それと、頑張れよ」


 突然の出来事に仁義は目を白黒させている。

 軽く手を上げてトレーニングルームを出ようとすると仁義は不思議そうな顔をしながらも何度も頭を下げていた。


 早朝の神の居城は人々が慌ただしく動き回っている。

 掃除をするもの、朝食の準備に向かう者、それぞれの時間を懸命に生きている。


「──神よ」


 廊下を歩いているとドラゴンに声をかけられた。

 能力を持たず、人間として武を極めようとしている男だ。

 

「ああ、どうした」


「貴様、約束は覚えているな。

 俺とお前、武術大会の決勝で決着をつけると」


 律儀な男だ。だからこそ素直に尊敬できる。


「ちゃんと覚えているよ。安心しろって」


「いや、違う。お前は死ぬ気だな。バカな考えは捨てろ」


「大丈夫だ、オレは死んでも死なないから。

 ドラゴン、オレには大切な人がいるんだ。その人と一緒に生きたいと本気で思っている。そんな人間が死ぬと思うか?」


 ドラゴンの鋭い視線が肌に刺さるようだった。

 対峙しているだけで気圧される。圧倒的な闘気。


「──死に行く者の目……いや、考えを変えよう。

 俺がお前を生かしてやる。お前はまだ死ぬべき人間ではない」


 普段は口数の少ない男がオレを本気で心配してくれている。

 それだけでも十分に嬉しかった。

 言うだけ言うとドラゴンは踵を返した。


 廊下を歩いて刹那の部屋の前で立ち止まり深呼吸。

 ノックするだけなのに緊張してしまう。

 扉の前で右往左往していると、「入れ」と一言。

 気配だけでオレだと察知していたようだ。


「雷の力はどうした。私と訓練した思い出を捨てたのか」


 一目で全てを見抜かれる。

 さすがはオレのお師匠様だ。

 考えてみれば刹那には助けられてばかりだった。

 性格的にお礼がしたいと言ったとしても無意味だろう。


「オレの希望に渡した。刹那との思い出はずっと胸の中にある」


「お前、死ぬつもりか。そんなことは絶対に許さない」


「なんか、皆んなそう言うよな。今のオレってそんなに酷いか?」


「私と約束しろ。死ぬな。お前が死んだら私も自害する」


 刹那のことだ、恐らく本気で言っている。

 

「約束する。オレは絶対に死なないよ。刹那、他に希望は?」


「……抱いてくれ。今のお前は本当に消えてしまいそうだ。

 心配で不安でたまらない、お前が消えたら、私は……」


 刹那の体を強く抱きしめる。

 長い付き合いだから、その分想いも強いのだろう。

 今は刹那が満足するまで、オレという存在の全てをぶつけよう。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「レッド、なんだか久しぶりだな」


「神様は忙しいだろうからな。時間の経過が早く感じるのだろう」


 大衆食堂でレッドと待ち合わせ。

 年齢的にも近いし、一番気軽に会話できる存在。

 二人でカウンター席に座り木星丼を注文する。


「木星丼、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」


「レッドのおすすめだし、インパクトあるから忘れないよ。

 それよりさ、ヨセルと一緒に暮らして幸せか?」


 ストレートな質問をぶつけると、レッドの顔がほんのり朱に染まり、照れくさいのか頬をかく。


「そうだな。幸せだよ。好きな人と一緒にいるだけで毎日が満たされているのがわかる。全て神様のおかげだ。そっちはどうだ?

 唯さんだっけ? 本気で好きなんだよな?」


「レッドにだけは言うよ。好きだ。

 彼女と一緒にいる時間が何よりも大切だ。ずっと一緒にいたい。もっと早くに気づいていればよかった」


「だったら一緒に……神様、泣いているのか?」


 おかしな事を言われたので頬に手を当てると確かに濡れている。


「いや、花粉症で眠くて欠伸もしたし、目が疲れているだけだ」


「そう……か。月での戦い、俺達も参加するよ。

 なんだか今の神様は見ていられない。どうしてそんなに不安そうな顔をする必要がある。俺達がいるさ、何も心配ない」


 戦いが苦手なレッドにまで心配をかけてしまった。

 やはり今のオレはどうかしているらしい。


「……本気で想っているなら、言葉にしてやれよ。

 内に秘めていても仕方ない。後悔したくないなら唯さん本人に気持ちをぶつけるんだ、優しい人だ、必ず受け止めてくれるよ」


「いや、いいよ。言ったらきっと余計に辛くなると思うし」


「何故だ? 毎日でも言えばいいんだ、照れる必要はない」


「レッド、せめてキミだけは知っておいてくれ。

 オレの不安の元凶。オレがこの先どうなるかについて」


「全て吐き出せばいい。俺達の会話は永遠に残り続ける。

 何があっても絶対に忘れることはない」


 友として真剣に向き合ってくれるレッドに、オレは思いの丈を全て打ち明けることにした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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