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唯と愛生と結婚式。三人だけの秘密の誓い。


「私は美唯子という存在全てが信用なりません。

 それに今はどういう関係なんですか?」


 唯の自宅に帰り、状況を説明すると、やはり愛生が怒り出した。美唯子は念の為に神の居城に預けて来て良かったと心から思う。


 この場にいたら間違いなく修羅場になるのは目に見えている。


「告白してから、わりとすぐに振られたからノーカン?」


「告白自体も強制されたのなら完全にノーカンですよ!」


「レオ、結ばれる運命って話は1番さんから直接聞いたの?」


 今まで黙っていた唯が愛生との会話に割って入ってくる。

 穏やかな口調ではあるが目は笑っていない。


「美唯子の口から聞いただけで、1番に会ったことはない」


「だったら100%事実ってわけでもないんだね」


「多分……そうなるかな。でもどうして?」


「それなら、まだ私にもチャンスがあるんだなって思えるから。

 それだけでも頑張れるから。今はそれでいいのです」


 唯の顔にようやく笑顔が戻る。

 今までオレのために真剣な眼差しをさせていたのだと考えると、申し訳ない気分でいっぱいになった。


「2番さん、アナタは本当に罪深い。

 こんなに健気で純粋な唯さんを秤にかけて……。

 私が男なら速攻で結婚を申し込みますよ! バチ当たり者!」


「だから! 別にまだ何も決まってないし、唯を守るって約束は絶対だし、オレはここで生活するし、今までと何も変わらないよ。

 ただレオナルドを倒すためにしばらく忙しいってだけだ」


「ふーん? 2番さん、もうぶっちゃけてくださいよ。

 唯さんのこと、どう思っているのですか、どーですか!?」


 愛生が肘で小突いてくる。

 オレが美唯子と唯の二択で悩んでいるのだと本気で心配しているようだ。


「唯は大切だよ。心寧の前でもスピラノンノのファンだって明言したし、あれは嘘偽りのない、心からの言葉だと思う。

 昨日一緒に映画を見たときも、ずっとこんな時間が続けばいいと本気で思った。今の生活を気に入っているから城にも戻らない。

 ハッキリ言うよ、オレは唯を女性として意識してると思う」


 思う、などと未だに逃げの意識が言葉尻に出るあたりのオレの女々しさが愛生は許せないのだろう。

 だが少なくとも本心からの言葉を述べたのだ、許して欲しい。


「はぁ……だとしたら美唯子の存在が本当に煩わしい……。

 私個人の意見としては2番さんと唯さんはお似合いです。

 結婚して一生幸せになってほしいですよ、ほんとにもぅ……。

 ああモドカシイ、神はどうしてこのような試練を……」


 その神がオレなんだけどな。いや今は10番(アリシア)か。


「レオ? 何も気にしないで。今まで通り、仲良くしよ?」


「唯、あのさ、しばらく配信とかはお休みできないかな。

 オレはあちこち動き回らないといけないし、そばにいて欲しいんだ。やっぱりまだ人は苦手か?」


「レオのお願い? 本気でそう思ってくれてる?」


「ああ、本気だよ。唯がそばにいてくれると安心するから」


「うん。じゃあスピラノンノはしばらくお休みします。

 私をちゃんと守ってね? よろしくお願いします」


 配信という行為の中に自分の居場所を見出したはずの唯が、オレの一言で素直に従ってくれた。

 それだけ信じてくれているのだと思うと目頭が熱くなる。

 

「ホントにお似合いだなぁ……。運命なんてあるのかなぁ……。

 私は断然オレスピ推しなんですけどねぇ……。

 この恋の結末がどうなるのか最後まで見届けなければ……」


「愛生もそばにいてくれよ。オレの大切な仲間だからな」


「それはもちろん! むしろ美唯子を寄せ付けません!

 今までは運命って素敵……とか思っていましたが、これからは運命なんてクソ喰らえ! スタイルに切り替えます!」


「仲間なんだから平等にな」


「イヤです! 唯さんだけを支持しますから!

 ということで唯さんとデートしてください、今すぐに!」


「なんだよそれ。じゃあとりあえず公園でも行こうか」


 愛生はデートで公園を選ぶなんて風情も浪漫のカケラもないと文句を言うが、突然決まったのだから仕方ない。


 唯と愛生の三人で近場の公園に向かうことにした。


 ◇ ◇ ◇


 暖かな日差しの中、唯と二人手を繋いでゆっくりと歩く。

 その後ろを愛生はコソコソとついてくる。

 堂々と一緒に歩けばいいのに、お二人の様子を遠巻きに眺めていたいとのことらしい。


「オレさ、なんとなくわかった事があるんだ」


 ベンチに座る唯に自販機で買ってきた飲み物を手渡す。

 唯は嬉しそうに飲み物を受け取り、首を傾げる。


「わかったこと? レオも一緒に座ろうよ」

 

 春の日差しを受け、オレにとびきりの笑顔を見せる唯はまるで宝石のように輝いて見えた。その陽光よりも眩い笑顔を見て、やはり唯は綺麗だなと確信する。


「皆んなが期待して持て囃しているエニグマとしてのオレは美唯子と何か深い結び付きがあるのかも知れない。

 でも冴えなくてパッとしない人間としての月丘レオは多分、唯に心惹かれているんだと思う。

 あの時、カードショップで唯と出会う、そのために生まれたんじゃないかとまで考えた。つまり、唯がさ、オレの……」


 運命の人。その言葉を言いかけて飲み込む。

 今までの経験でわかった。運命なんてただの言葉でしかない。

 言い訳のための逃げ道。本当に大切なら態度で示すべきだろう。


「私も……レオがずっと……。

 あの時、助けてくれて、カッコよくて。

 美唯子さんに振られたって聞いて、良かったって思ってた。

 私なんて、たまたま配信が上手くいっただけの引きこもり女だから、そんなズルい事を考える女だから、ずっと言えなくて……」


 初めて聞いた本心の言葉に驚きよりも幸福の感情が勝っているのを認識した時、唯のことが今までも、より一層愛おしく感じた。


「じゃあやっぱりオレ達は相性がいいのかもな。

 オレもずっと友達がいなかったし、家にいてばかりだった。

 誰とでも仲良くなれる美唯子とは正反対でさ、ずっとおかしいなとは思ってたんだよ。唯と一緒に遊んでいるときが何よりも幸せだったから」


「おーいおいおいオイ……愛生さん、感動しました。わーん!

 見てください、人生で一番泣いています。グスン。

 とても見ていられなくて飛び出して来ました。メソメソ」


 両手に木の枝を持って変装したつもりでいる愛生は、言葉通り本気で号泣していた。

 愛生も今ではオレ達にとって欠かせない存在だと思う。

 彼女がいたからこそ救われた場面が何度もあった。


「覗きは趣味が悪いぞ、ちゃんとそばにいろよ」


「あの、ウソでもいいのでお二人、結婚してくれませんか?

 私のためにも、ね?」


「嘘で結婚ってなんだよ」


「私はしたいよ。レオはイヤ?」


「唯がいいなら、オレもいいけどさ……」


 その言葉を聞いた途端に愛生の涙がピタっと止まり、オレ達を半ば強引に立ち上がらせ、互いの手を握らせる。確信犯だ。


「それでは! 僭越ながらこの大地愛生が誓いの言葉をば!

 えー! 月丘レオは月丘唯を命ある限り、その生涯を懸けて守り抜くと誓いますか?」


 本当に結婚式のようだ。

 神父役が愛生なのは納得いかないが。


「ち、誓います」


「でゅふふふふ! ついに誓ったのぉ! たまらんわい!

 そして月丘唯は月丘レオと一生死ぬまでイチャツイテ、イチャツイテ幸せな家庭を築くことを誓いなさい。ちなみに強制です」


「誓います」


 唯が即答してくれた。

 形だけの誓いだろうが、心は幸福に満たされていた。


「アッハッハ! ざまぁみろ! 陽神美唯子め!

 二人の愛は永遠なのです! それでは新郎、新婦に指輪を」


「指輪? 指輪なんて……あ、あるな?

 クリアから貰った指輪があるけど……」


 胸ポケットに大切にしまっていた真紅に輝く指輪。

 8番の侵攻を受けたスカーレット王国でクリアから譲り受けた、オレの大事な宝物。


「それです! 早くつけてしまいなさい!

 もちろん左手の薬指ですよ!? 早くしろ、間に合わなくなっても知らんぞー!」


「なんか滅茶苦茶だけど、これからもよろしく。

 唯を守るって約束は死んでも忘れないから」


 愛生に促されるまま唯の左手薬指に指輪を着ける。


「レオ、私、幸せだよ。だから死ぬなんて言わないで?」


 唯の目には薄っすらと涙の膜が張っていた。

 その顔を見て幸せを噛み締めると同時にもらい泣きしそうになる。


「……唯にだけは言っておくよ。愛生もよく聞いてくれ。

 オレは多分、今回の戦いで死ぬと思う。

 別に諦めているわけではない、ただ、なんとなくわかるんだ」


 オレは月光院輝夜との戦いで死ぬ。

 レオナルドとの決着を決心した時、頭の中に浮かんだ一つの光景(ビジョン)


「縁起でもない! アナタは一生唯さんを守るべきです!」

「私も戦いに参加するから、死ぬだなんて言わないで?」


「だからまだ決まったわけじゃないって。

 ほんとになんとなくさ、そんな気がするだけなんだ。

 それと指輪だけじゃなくてさ、もう一つやらないか?

 三人だけの秘密の誓い。オレ達が永遠となる約束」


 オレは死んでも唯を守る。もう決めたことだ。

 そしてそばには必ず愛生もいてほしい。

 だからといって別に死にたいわけじゃない。

 むしろそうならないための保険が欲しい。

 オレと唯と愛生がいつまでも仲良くやっていけますように……。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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