再会運命の人。全て手に入れろ、お前にはその資格がある。
「2番さん、お客さんですよ!」
「ヤァ。こんちわ」
愛生が連れてきた人物はキッドであった。
どおりで春に雪が降るわけだ。全てを凍らせる氷の化身がそばにいたら、太陽だって逃げてしまう。
「どうしたんだよ、何か用事か? 寒いから雪、止めてくれないかな」
「ああ、うん。結構大事な用事かな。
キミは確か零の器候補とかの争いに巻き込まれているんだよね」
「そうらしい。いまだに詳細は不明だけどな」
「だったらさ、零の器候補を皆殺しにすればいいんだよね?」
キッドは本当に発言が18番に似ている。
以前から敵は皆殺しにすべきだと言っていた。
「極論だけど、争いの種は間違いなく消えるだろうな」
「よし、じゃあ行こうか。終の螺旋を準備しておいて」
キッドは有無を言わせない勢いでオレの腕を取り、転移を開始する。
一瞬でどこか別の世界に連れて来られた。
周囲を見渡してみると、学校の教室の中のようだが。
「よう! 久しぶり」
ポンと肩を叩かれて振り返ると鉄仮面が立っていた。
展開が急すぎて理解が追いつかない。
「鉄仮面が僕の雇い主。零の器候補らしいから終の螺旋を当てれば終わりだよ。殺したら、次に行くから」
キッドは鉄仮面を顎で指してニコニコと微笑んでいる。
ああ、そうですか、なら今から殺します。
なんて言うわけがない。鉄仮面には借りがある。
「相変わらず忙しないヤツだ。
だがちょうどいい、兄弟に話があるんだ。
お前、美唯子に会いたくないか?」
鉄仮面は基本的に突飛な発言しかしない。
だが今回のはその中でも群を抜いている。
「別に会いたくない。こっぴどく振られたんだ」
アナタを利用しました。別れましょう。さようなら。
今でも頭の中にこびりついて離れない美唯子の言葉。
あれ以来軽く女性不審になっている。ようはトラウマだ。
「いいや違うね。美唯子はお前を愛している。
お前には別ベクトルの呪縛をかけたんだ。
つまり、お前さんに嫌われるようにな」
わからない。理解できない。
美唯子がオレにかけた暗示は偽物? なんの意味がある。
「いや、もう待てよ! 意味がわからん!
結局何がどうなっているんだよ!」
「簡単な話だよ。美唯子はお前の運命の人。
だが嫌われるように自分から仕向けた。
涙を流して命を懸けて取り戻した、お前も美唯子を愛している。お前は現実逃避のために別の女を選んだだけだ」
オレは精神的に弱すぎる。
簡単に心が乱される。
鉄仮面が嘘をつくメリットはなんだろうか。
この世界で唯と同じレベルで信用はしている。
だとしたら嘘ではない? それとも罠だろうか。
「お前さ、以前にオレがしたアドバイスを覚えているか?」
鉄仮面は深く嘆息し、やれやれと肩をすくめる。
「全て……手に入れろ?」
「そう! 何も考えずに全て手に入れればいいんだよ。
お前にはその資格がある。なんせお前はオレの──ッと。
悩んでないで会ってやれ。そして全てを許すんだ。
それがオレの最後の忠告だから、潔く受け入れろ」
鉄仮面が指を鳴らす。
ドスン。
天から美唯子が降ってきた。
二人して教室の床に崩れ落ちる。なんとも無様だ。
立ち上がってお前は手品師か! と文句の一つでも言おとしたが、鉄仮面は消えていた。
「……美唯子?」
美唯子は無言で起き上がり、黙ったままオレを見つめている。
言葉が何も出て来ない。
鉄仮面は許してやれと言っていた。
一体何をだろう。オレを振ったこと、説明もなしに消えたこと、それとも了承もなしに暗示をかけたことだろうか。
「僕の雇い主ってさ、一度も嘘を言ったことがないんだよね。
だから、全て真実だと思う。アンタの目の前にいるのは運命の人なんだろうね。生きてりゃ色々あるからさ、許してやりなよ」
いやもう何がなんだか。
キッドも鉄仮面とグルなのだろうか。
「美唯子、会いたかった」
と思う。それ以外、言葉にならなかった。
彷徨っていた視線が絡み合う。
美唯子の目から涙が溢れた。
「──ペル様ッ……」
美唯子が駆け寄り抱きつき、声をあげて泣き出した。
オレの胸の中で泣きじゃくる美唯子の顔を見ていたら、なんだか全てがどうでも良くなってきた。
怒りも不安も焦燥も、心の蟠りが全て溶けてなくなっていく。
疑心も、嫌悪もない、透き通ったガラスのようなクリアな感情。
「……おかえり、美唯子。今までごめん」
何の考えもなしに自然と謝罪していた。
運命の人を蔑ろにした罪悪感に対する贖罪だろうか。
それとも自分自身に対する戒めだろうか。
「私も……ごめんな、……さい……ペル様、だい……すき」
もう怒ってもいないのに、嗚咽をもらして泣く美唯子。
オレは何もできない。ただ黙って肩を抱き、背中をさするだけ。
困ったことになった。
美唯子が帰ってきたのはいいとして、オレは今からどうしたらいいのだろうか。
唯と愛生が待っている家に帰るしかない。
オレは殺されてしまうかもしれない。主に愛生に。
その状況を察したのかキッドは手を合わせて拝んでいる。
真の意味で、ここからが本当の地獄だ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。