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生配信で生告白でオレ終了。責任とって結婚しろよ。


「ついに決まりましたー!!!

 10番街最強を決める大会ですよーッ!!!!」


 扉をぶち破るような勢いで愛生がリビングへと入ってくる。

 手には分厚い茶封筒を持ち、興奮しているのか、やたらとテンションが高い。

 

「ああ、そうか。愛生は参加するのか?」


「反応薄ゥイッ!? 私は進行役に選ばれたので参戦しません! まぁ元から戦いは嫌いですし? 何より最強だらけですからねぇ……。勝てる気がしませんよ。同胞も全員出場するらしいです」


 エニグマが全員参戦するとは悪夢のようだ。

 ほぼ全員が軽く惑星を消し去れるレベルの実力者なのだから。


 何よりも他の参加者が不憫すぎる気がする。

 全ての攻撃がすり抜けて、一方的に痛めつけられる事になるのが目に見えている。


「こちらがエントリーシートです。

 2人1組が出場条件なので、()()唯さんとエントリーしますよね?」


 茶封筒の中から書類を取り出し、テーブルの上に置く。

 愛生はオレの返事も聞かずに名前を記入しようとしている。


「待ってくれ、オレは今、唯と喧嘩している。

 もしかしたらこの家を出るかもしれない」


「……は? アンタ、なんばしよっと!?

 スピラノンノ捨てる言うなら、ウチは絶対に許さんが?」


 愛生は鋭い目つきでオレを睨みつけ、手にしたペンを折る。

 珍しく本気でキレているようだ。

 それだけ唯のことを思っているのだろう。


 ケンカの理由は単純で、オレは携帯電話を持っていない。

 心寧に連絡を入れるためには電話を借りようとしたら、唯は口を聞いてくれなくなった。

 それからかれこれ半日は自室にこもって出てきていない。


「3番の娘さんに連絡する約束をしていたから、電話を借りようとしただけだ。何か怒るようなことしたかな?」


「はぁ、本当に救いようのないバカチンが……。

 簡単に遠距離恋愛を受け入れたアンタが許せんの!

 それでも男か! そがんこともわからんとね?」


 以前から思っていたが、愛生は感情が昂ると方言を織り交ぜて話すようになる。

 ニュアンスでなんとなくわかるが、頭が混乱するのでやめていただきたい。

 

「相手は小学生だぞ? ムキになるようなことかよ。

 それに心寧は3番の力を受け継いでいる。

 破壊の力が覚醒したら地球なんて簡単に消し飛んでしまう。

 冷静に慎重に対処するべきじゃないか?」


 論理的に話したつもりだが、愛生の怒りは収まらない。

 テーブルを両手でバンと叩き、唯の寝室を指差す。


「年齢なんて関係なか! 女はいつだって自分だけを見て欲しいけん、モテるからって誰彼構わず相手したらイカン!

 今すぐに部屋に行って抱きしめて、謝ってきんしゃい!」


 これ以上はとても反論できる雰囲気ではない。

 サラと違って愛生は従者という立場を弁えず、ストレートに意見をぶつけてくる。別に悪いことではないのだが、主従関係としてはどうなのだろうか。


「わかった、謝るよ。……ちなみになんて言えばいいかな?」


「簡単です! 唯、全てオレが悪かった……。

 オレにはキミしかいないんだ、結婚しよう……。

 そして最後にブチューッと! あれ? 2番(レオ)さーん!?」


 愛生に聞いたオレがバカだった。

 どうして仲直りで求婚しなければいけないのか理解に苦しむ。


 寝室のドアを開けると、唯は灯りもつけずに椅子に座り、モニターを見つめている。


 声をかけたがヘッドセットをつけているので反応がない。

 唯はまだ怒っているのだろうか。

 愛生のアドバイスに従うのは癪だが参考にはしよう。


 忍び足で近寄り、ヘッドセットを外す。


「唯、ごめんな。もう他の女性には連絡しないから、許してほしい。……オレが悪かった、唯がいてくれないと困るんだ、だから怒らないでくれ」


 謝罪をしてから唯の体を軽く抱きしめる。

 言われたことはほぼやった。あとは唯の反応次第。


2番(レオ)さーん! (モニター)(モニター)!」


 背後から声がしたので振り返ると、愛生が必死の形相でモニターを指差していた。


【寝落ちからの神展開キター!!!】

【ズタ袋の中身ですね。やはり付き合っていたか】

【相手がイケメンすぎてむしろ納得する。これが自然の摂理】

【※現在の視聴者数は112兆717億人です】

【悲報・スピラノンノ彼氏持ち確定】

【スレ民だが、火消しできるレベルではない。炎上かと思ったらビッグバンだったでござるの巻。南無阿弥陀仏】

【スピラノンノの名前は唯か。本名までクッソ可愛いの草】


 画面を見て一瞬で血の気が引く。頭の中が真っ白になる。

 オレはとんでもないことをしてしまったのではないだろうか。


 謝っただけならまだいい、問題なのは告白まがいのことをして唯を抱きしめた。

 その一部始終を顔を隠していない状態で見られていた。


 愛生のアドバイスを聞いたオレが、いや、言い訳はしない。

 オレは終了だ。スピラノンノファンを敵に回してしまった。


「ん……? ふぇ? いつの間に寝落ち……ってワーッ!? 

 ちょ、ちょい待ち、皆の衆、どういうことだー!?

 え、ええっ、同接最高……! じゃなくて、また次回ー!!」


 寝起きのスピラノンノはモニターを見た途端、椅子から立ち上がり、よほど慌てていたのか配信装置の電源を直接引っこ抜いた。


「唯、すまん、ごめん、灯りがついてないからスピラノンノになっているのに気がつかなかった。オレはただ、謝りたくて……」


 こうなったら平謝りするしかない。

 唯の前で土下座をして謝る。

 唯は無言のまま携帯端末で配信履歴(アーカイブ)を確認している。

 

 絶望的な状況を打ち破るために全力で思考を巡らせる。


「──そうだ! オレは時間を巻き戻せるんだよ! 今すぐにでも……」


「レオ、それはインチキだから、したらダメ。

 私に謝った言葉も無しにするの?」


 無理矢理に絞り出した解答(こたえ)は一瞬で却下された。


 またしても唯とのお約束条項が増えてしまった。

 暗黒の運河使用禁止、時間操作使用禁止。

 ひたすらオレが弱体化していくが、唯が嫌なら絶対にやらない。


「大丈夫だよ、今までこんなピンチは何度も乗り越えてきたから。これくらいの事では負けないよ。気にしないで?」


「ほんとに、ごめんな……。心寧との事も嫌な思いをさせてごめん。唯を怒らせてばかりで、ごめん」


「別に怒ってはないよ。ただ、悔しかった……だけ。

 年下に嫉妬するとか、私の方が子供みたいだから……」


 ボソボソと囁くように言う唯の発言がうまく聞き取れない。

 怒ってないよ、とまでは聞こえたのだが、果たして素直に安心してもいいのだろうか。


「え? 最後の方がよく……唯、なんて言った?」


「……なんでもないよ。──レオのばか」


「でゅふふ! ラブラブでええでんな! もう責任とって結婚しろよ! 宇宙一のバカップル! 爆発しろ! あー尊い、最高かよ」


 真剣な場だというのに愛生だけは最後までおちゃらけていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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