少女を助けたら告白されたので。とりあえず遠距離でお友達から始めます。
モールの最上階にあるゲームコーナー。大型筐体の前で黒髪ツインテールの女の子が一心不乱にボタンを叩いてる。
女の子のボタン操作で画面の中の少女が軽快に踊っている。
唯から教わったのでなんとなく分かる。
これはリズムゲームというやつだ。
「ん? あ! もしかして、お兄さんもやりたい?」
オレの気配を察知したのか少女が振り返る。
気遣いのできる優しい子だ。
「いや、ただ見てるだけだよ」
「ヘェ〜! ピリラパ興味あるの?」
全く興味ないのだが、会話をするために合わせることにする。
「日曜の朝やってるようなやつだよな?
ヒーローなら友達だけど、そっちも見てみようかな」
「あは! そうなんだ! 男子で興味ある人初めて見た!
いいよ、教えてあげる! あっち座ろ?」
女の子に促されてベンチに腰掛ける。
少女はカバンからバインダーを取り出して中を見せてくれる。
キラキラ光る可愛らしいカードが綺麗に並んでいて圧倒される。
唯と遊んでいる対戦型カードとはまた違う種類だ。
「みて〜! これがSSRにSキラリだよ!
お金めっちゃ使った〜。お兄さんは誰が好き?
あたしはこの東雲ユカリちゃん。性格が超ラブィ!」
正直言ってどの女の子も同じに見えてしまう。
目が大きくて顔が小さくて、着ている服が違うだけのような。
パラパラとページをめくると一際輝いているカードを発見する。見覚えがある、これは唯だ。
「あのさ、このカードは……」
「あ! 気づいた? これはあたしがもってる中で一番レア!
コラボ限定のスピラノンノちゃん! 可愛いでしょ?」
女児が遊ぶカードにまでなっているとは唯の人気には恐れ入る。
「そうか、じゃあ、オレはスピラノンノのファンかな」
「わかるー! すっごい、可愛いよねー!!
お兄さん、これ欲しい? あげようか?」
スピラノンノをバインダーから取り出し、手渡そうとしてくれる。3番の娘とは思えない、心の優しい女の子だ。
「いや、本物がいるから大丈夫。大切なんだろ?」
「うん。だけどあたし、お兄さんを知ってる気がする。
優しくしないとダメって、思う。ほんのー? 的にかな?」
エニグマとして心が通じ合っているのか、それともまだ自分でも気づいていない力があるのか。
仲間になって欲しいですと、どう切り出すべきか。この子が地球で家族と共に幸せに暮らしているのなら、無理矢理連れ出すことはできない。
かといってキミはエニグマの血を引いている、なんて事も絶対に言えない。難しい局面だ。
「オイ、ネコ!」
怒鳴りつけるように話しかけてきたのは小学生くらいの男子児童の三人組。なぜか不満そうにオレを睨みつけている。
「知ってる? 学校の友達とかかな?」
「知らないっ!」
少女はベンチから立ち上がり、歩き出した。
先程までのにこやかな表情が嘘のように消えている。
「おまえ、なんで逃げるんだよ!」
男子が少女に追い縋り、やや乱暴に腕を引く。
止めるべきだろうかと判断に迷う。
少女は嫌がっている様子だし、やはり止めるべきか。
「おい、君達!」
「なんだよ、オッさん!」
せめてお兄さんと呼んで欲しい。
「女の子をいじめて楽しいか? 正直言ってダサいぞ」
この年頃の子共をなんと注意するべきかはわからない。
だが年齢関係なしにダサいと言われるのは嫌だろう。
パッと言葉が出ないオレも小学生並みの感性しかないらしい。
「うるせぇ! ネコは俺のカノジョだぞ! 口出しすんな!」
彼女。最近の子はマセているとは聞くが、まさか小学生で彼氏彼女の関係が存在するとは思いもしなかった。
「違うから! 廊下ですれ違うとき、手触ったり、頭を撫でたりしてくる……。サけてるのリカイしないし、ホントやだ!」
つまりは男子君の片想いのような状況だろうか。
「よし、ガキ共、いいか、オレはこの少女に呼び出された神様だ! 大人しく帰らないと天罰がくだるぞよ!」
男子達が一斉に笑い出す。ウケを狙ったつもりはない。
「ひっ、ふひひ! 聞いたか? 神様だってさ!」
「今時サンタも信じてるやついないよな!」
「ほんとに神様ならショーコみせろよ! ショーコ!」
よしわかった、見せてやるよ。
「神の怒りじゃ! ──雷撃弾!」
「「「ギャ────ッ!!??」」」
天に向かって雷撃弾を撃ち放つと、ガキ共は一目散に逃げていった。所詮子供よの、たわいも無い。無駄に神様らしくしてみる。
「──神様っ!!」
「おわっ!?」
少女に思い切りタックルされる。
バランスを崩しそうになるがなんとか堪える。
「本当のホントに神様ですか!?」
「あっ、あぁ、一応ね」
「あの、あたしは心寧といいます!
あたしのカレシになってください!」
3番の娘さん、心寧になぜか告白された。
「いや、あのね? オレは遠い、遠い星の神様だからさ」
「だったら! エンキョリれんあいしませんか!?
これ、あたしの連絡先ですから!」
心寧はやたら押しが強い。負けてしまいそうになる。
「あの、おなか空きませんか? あたしのお家きますか?」
それは犯罪にならないのだろうか。
地球では神様権限が発動できないし、捕まったら一発アウトだ。
「心寧さん、落ち着きなさい。物事には順序があってだね……」
「心寧って呼び捨てにしてください。それかネコってあだ名があるので、そちらでもいいです」
「そ、そう? なら心寧、キミも敬語は無しでいいよ」
「わかり……ハーイ! 神様の名前は?」
「オレは月丘レオ、よろしくな」
「うん! よろしくね、レオ」
仲間にするつもりが、とんでもないことになってしまった。
学校に通い普通に生活しているようだし、今すぐに連れて帰るのは無理だろう。
心寧の言う遠距離恋愛で、しばらく様子見することにする。
「よし、今日はもう遅いから、家まで送るよ。
親御さんが心配するからね」
「やさし〜! なんで? なんで優しくしてくれるの?」
心寧は何を期待しているのだろうか。
彼氏だから、などと言って欲しいのだろうか。
そんなわけがない。まだ小学生だぞ。
「オレ達は仲間だからさ、助け合わなきゃだろ?」
「ぶ〜! そこはカレシだからって言わなきゃダメ!」
恐るべき現代女児。だがあくまで仲間で、友人だ。
それだけは絶対に譲れない。
バイクに乗せて心寧を家まで送る。
どういう手を使ったのかはわからないが、立派な邸宅に住み、家族仲良く暮らしているようだ。
「ねぇ?」
少女を家の前におろして、10番街に帰還しようかと考えていると、家の中に入っていったはずの心寧に話しかけられる。
「どうかした?」
「おウチに帰ったら電話してくれる?」
「別にいいけど、どうして?」
「寝る前にレオの声、聞きたいから」
あまりに真剣な眼差しで言われて一瞬、言葉を失くす。
「──あ、ああ、保証はできないけど、覚えておくよ」
「電話くれるまで待ってるから! あんまり遅いと明日遅刻しちゃうよ? そうなったら、あたし、終わる。普段は優等生だし……」
本当に、どうしてこんなことになったのか。
とりあえずは遠距離で、焦らずゆっくり、心寧とは友達としてやっていこうと思う。
最後まで読んでいただきありがとうございました。