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暗殺氷液《スノーリキッド》。光を操るだけでは弱すぎる。


 モールの中はパニック状態になっている。

 完全武装した人間が銃火器を構えているのだから当然だ。

 コチラとしては都合がいい。民間人が逃げてくれないと戦闘に巻き込むことになってしまう。


 要が大きく手を挙げる。

 あの手を振り下ろせば銃撃が始まるのだろう。

 いつでも攻撃できるよう紅蓮に目配せをする。


「──氷結殺……」


 モール内に凍てつくような冷気が吹き荒ぶ。

 銃を構えた男達が一人を除いて瞬く間に氷漬けとなる。

 絶対零度の凍気を放ったのはオレを殴りつけた戌亥という男だ。いや、こんな力を使える存在は一人しかいない。


「ふぅ……。暑い……何が進化だよ。

 猿は所詮、猿だろうに。身の程を知らないね」


 戌亥がガスマスクを取ると、予想通り、キッドが立っていた。

 力を継承した影響からか言葉遣いや雰囲気まで18番(氷駕)に似ている。

 

「キッド、助けに来てくれたんだな」


「そんなつもりはなかったんだ。

 だけど僕の心の声が叫ぶのさ、キミの力になってやれって。

 いい迷惑なんだよね。僕にも仕事があるんだし」


 キッドは小さく嘆息をする。

 氷駕に何度も助けられたことを思い出し、胸が熱くなる。

 

「おやおや、私の可愛い部下の中に異物が紛れていましたか」


 絶対零度の世界の中でも要は凍りついていない。

 やはり副隊長なだけあって強さは別格らしい。


「──天誅・光矢刑(ライトサージ)


 要が呟くと天から終の螺旋を掻き消した光の矢が降ってくる。避けられる速度ではない、文字通りの光速だ。


 光の矢がキッドの頭上から降り注ぎ、溢れた光が天まで伸びる柱となった。


「私の能力はエントロピーの操作や光の支配、集約。いえ、小難しい話はこの際ナシにしましょうか。

 EriSが開発した衛星兵器が宇宙から撃ち出した特別な光子エネルギー群を、私は収束させて任意の対象にピンポイントで直撃させることが出来るのです。つまり、逃げ場はありません」


 聞いてもいないのに能力の説明を始める要。

 宇宙から光線を放ち、地上の目標に自由自在に命中させることができるのだろう。光より早く反応しなければ対処できないため、かなり厄介だ。


「へぇ、そうなんだ。それなら大したことないね。

 自分の能力をペラペラと説明する奴は雑魚。戦いの掟だよ。

 もう一度撃ってみなよ。今度こそ僕を倒せるといいね」


 光の矢が直撃したはずのキッドが平然と立っている。

 回避する余裕は間違いなく無かった。単純に耐えたのか、それとも他に何か仕掛けがあるのだろうか。


「小賢しいですねぇ。ならばご要望に……ふむ?」


 指を鳴らして怪訝な顔を浮かべる要。

 天から2撃目の矢が降ってくることはない。

 キッドが何かしたのだろう。素晴らしい戦闘センスと判断力だ。

 

「光を操る? それだけでは弱すぎる。話にならない。

 そんなのは宇宙中にゴロゴロいるよ。今度はこっちの番。

 僕の異名は暗殺氷液(スノー・リキッド)。覚悟しなよね」

 

 キッドの肉体が液状化する。

 雪の結晶を撒き散らし、蒼白の閃光が宙を舞う。

 

 キッド()()()液体が要の耳、口、鼻から体内に侵入し、その数秒後、要は身体中から冷気を放ち、足元から徐々に凍りついていく。


「これは……どうやら今回は私の負けですね。

 エニグマの力を侮っていたようです。まだまだデータ不足。

 ですが人類を甘く見ないことだ、次は必ず我々が勝ちます」


 恨み節を言って要の身体が完全に凍りついた時、キッドは既に要の隣で肉体を取り戻していた。


 死後覚醒を果たした18番の力と、暗殺者としての能力を掛け合わせたキッドの複合技。大したものだ。


「氷も結構やるんだな。

 まぁ、アタシも人間くらい楽に倒せたし、調子に乗るなよな」


 対抗意識があるのか、紅蓮がキッドに噛み付く。

 キッドはそんな紅蓮を相手にする気もないのか、冷めた目つきでオレを見据えている。


「どうして本気を出さなかったの?」


「本気? 何を言っている」


()()()()()アマちゃんだね。

 終の螺旋は防御不可。相手が人間だから意識的に手加減したんだろ? でなければ最初の一撃であの男は死んでいた」


 そうかもしれない。

 最近少しずつではあるが戦闘に対する考えが方が変わってきたように思う。オレはもう戦う必要がないのかも知れないと。


「周りの仲間が強いからな。心はどこか悠長に構えている。

 キッド(氷駕)は相変わらず手厳しいな。昔を思い出すよ。

 また仲間になってくれないか、悪いようにはしない」


「……正規の雇い主がいるから個人的には拒否したい。

 だけど心の声に従おうかな。僕の仕事料は高いよ?」


「望むところだ。戻ってくれて嬉しいよ、18番(キッド)


 これで17番と18番が戻ってきた。

 3番の娘を探しに来たというのに何という僥倖だろうか。


「あのさ、18番って何? もしかしてアタシも関係してる?」


 状況が飲み込めていないのか、紅蓮がわたつく。

  

「紅蓮、キミは17番だ。オレの大切な仲間だよ。

 それよりキッド、どうやって要のレーザーを止めたんだ?」


「……企業秘密。さっきも言ったけど、暗殺者は無闇に手の内を明かさない。他人に能力を話すのは論外、三流以下だ。

 だけどキミにはいつか教えてあげるよ。単純な能力(トリック)だからね」


 キッドは目を細めながら笑う。

 

「そうか、期待しているよ。

 二人は先に10番街に帰ってくれ。場所はわかるか?」


「10番街って、何でもありの闇鍋惑星でしょ?」

「僕も聞いたことあるよ、宇宙一混沌としているらしい」


 事実なだけに反論できない。

 魔王も戦隊ヒーローも、新人類もエニグマも、この世の全てが混在している。だからこそ面白いのだが。


「ああ、そうだよ。今日から君達の故郷になる。

 オレは3番の娘と会ってから行く、先に帰ってくれ」


 二人は軽く頭を下げてから10番街へと向かっていった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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