アレが地球を消した理由・エニグマ敗北の未来。人類は進化したのです。
──都心、大型施設、コスモスモール。
時刻は午後1時を過ぎた頃。
3番の娘は学校からの帰宅途中、必ずこの施設のゲームコーナーに立ち寄るらしい。
顔も名前もわからない少女を探して学校に直接乗り込み、不審者扱いされるよりも、確実に姿を現す場所に待機していた方がリスクが低いと考えた。
予定よりも早くモールに到着したため、紅蓮と昼食を取っている。
「お兄さんさ、着てる服のセンスはいいし、金払いも豪快だし、ひょっとして億万長者か何か?」
パスタを食べていた紅蓮がフォークとスプーンをテーブルに置いて質問してくる。つい先程まで敵同士だったわけだし、突然仲良く食事をするというのも不自然でばつが悪かったのだろう。
「服は唯が選んで買ってくれたモノをそのまま着てる。
それまでは毎日同じシャツとジーパンを洗って着ていた」
「唯って奥さんか彼女?」
「いや、仲間というかパートナーというか、難しいな」
「ふーん。なーんか、ワケありって感じ。趣味とかはある?」
曖昧な答えに興味をそそられたのか、紅蓮は矢継ぎ早に質問を飛ばしてくる。
「ない。最近は唯と一緒にゲームをしたり、アニメを見たり、カードで対戦したりするけど、それまでは完全に無趣味だった」
「じゃあ職業は? アタシの手配者によると、叛逆者って書いてあるけど、何これ、どういう意味?」
「知らない。レオナルドが勝手に決めたんだろ?」
「レオナルド……? あっ! もしかしてお兄さん、異次元にある軍事拠点で傭兵を薙ぎ払った人? 傭兵仲間の間で伝説になってるよ! 300百人殺しとか、処刑人とか、その叛逆者さんか!」
過去の苦い記憶がフラッシュバックする。
恐らくは10番を助けに行った際、亜空間で傭兵や怪物を蹂躙に近い形で屠った時の事を言っているのだろう。
あの時はほぼ無我夢中で戦っていたから、伝説として語り継がれるまでになるなんて予想だにしていなかった。
「やめてくれ、黒歴史なんだ。まだ精神的にも未熟だった。
怒りの感情に飲まれて好き勝手暴れただけだ。反省してるよ」
「いや、別に咎めてないし。戦いってそんなもんだしさ。
生きるか死ぬか、強いか弱いか、誰も恨んでなんかないって」
「気休めでも助かるよ。それで職業だったな。
神様……は休業中だし、唯のプロデューサー? いや、アシスタントか」
「お兄さん、二言目には唯、唯って、よっぽど好きなんだな」
紅蓮は口元を緩ませ、コチラを見てニヤつきながら言う。
「好き? どうだろうか、よくわからない。
また誰かの策略か陰謀かも知れないし」
「まった! その感じ、すっごい気になる!
絶対ワケありでしょ! 話してよ、アタシも一応は女だしさ!」
嬉々として話す今の紅蓮は戦闘中に見せたオラついた傭兵の姿ではなく、会話を楽しむ普通の女の子だ。ギャップがあり過ぎて同一人物かを疑ってしまいそうになる。
とりあえずは親身になって聞いてくれるようだし、真実を述べる。精神操作のような状態で何度か恋愛ごっこをさせられた事、その呪縛を解き、心に安寧をもたらしてくれたのが唯である事。
どこまでが敵の思惑かはわからないが、大体はそんなところだろう。少なくとも美唯子本人はそうなるように能力で誘導したと言っていた。
「はぁ〜? 何それ、ヒッドイ!!
好きでもないのに無理矢理に告白させられたってこと?
そりゃ恋に臆病にもなるわ。でも聞いた感じだと、その唯さんって人は純粋に信用してるんじゃない? わからんけどさ!
というわけで、相談料の三千円をいただきます!!」
言いながら紅蓮は右手を伸ばして金を要求してくる。
「自分から話せと催促しといてよく言うよ。
金なら全てキミにやった。どうしてそこまで金に執着する?」
「……お兄さんはいい人そうだから話そうかな。
実はさ、あるものを買いたいんだよね。そのためにお金をたくさん集める必要があるの。何が何でも、絶対……」
今までにない真剣な表情、声音。
「聞いてもいいかな? その欲しいも──」
紅蓮に質問しかけた時だった。
頭にコツンと硬い感触の物体がぶつかる。
視線だけ向けると、スーツ姿の男がオレの頭部に拳銃を突き付けていた。
「ようやく、見つけましたよぉ? エニグマさぁん?
私、以前からアナタ方に大変な興味を抱いておりました。
お会いできて光栄です。地球人として歓迎します」
男が言った直後、バタバタと足音が聞こえ、周囲を完全武装した男達に取り囲まれる。
ガスマスクに防弾チョッキ、手には機関銃、映画でよく見る特殊部隊のような格好をした男達がざっと見でも10人以上はいる。
「人の頭に銃を突き付けながら言うセリフかよ。
名前くらい名乗ったらどうなんだ」
「これは失礼をいたしました。私の名は無情要。
エニグマを殲滅するための組織、EriSの実戦部隊、副隊長を勤めております。以後、お見知り置きを」
地球人がエニグマを知っている。ワケがわからない。
本当にオレが化け物である事を知っていて取り囲んだのか。
本来なら自殺行為だが、何か勝算があるのだろうか。
「エニグマを殲滅? 人間には不可能だ」
「おや? それはどうでしょうかねぇ? 戌亥くん」
要から指示を受けた部下の一人が機関銃のストック部分で頭部を殴りつけてくる。衝撃と共に視界が揺れる。
額から血が流れ出し、頬を伝っていく。
傷口が塞がらない。普段なら瞬間的に治癒している。
だが今は肉体が全く再生しない。
「──く、なんだ、ダメージが……」
要が冷笑を浮かべる。
部下の男達が一斉に銃を構えた。
「さぞ、驚いたでしょうねぇ。肉体が再生しないでしょう?
アナタが知らぬ間に、人類は進化したのです。
さて、今から本気でアナタを殺しますから。
あらゆる手を尽くしてくれて構いませんが、無駄です」
アレスティラが地球を消した理由がわかった。
人類は進化してしまった。
化け物を倒せるほどに強く。
化け物がただの人間に負ける未来がやってくる。
「──終の螺旋【唯我】」
宇宙最強の攻撃手段、終の螺旋を撃ち放つ。
それと同じタイミングで天から光が降ってくる。
終の螺旋は天から降り注ぐ光の雨に包まれ、敵を貫くことなく消滅した。
「だから言ったでしょう? 無駄です」
要がクツクツと笑い出す。
立場が最も下だった人類に何があったのか。
宇宙はどうなってしまうのか。
これ以上は考えても仕方がない。
今はただ目の前にいる人類を倒すだけだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。