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オレはどこまでも強くなる。ちょっと地球に行ってくる。


「報告します。過去、現在含めて10番街にルナ及びルナティクルという名の天使は存在していなかったことが判明しました」


 愛生から先日の一件についての調査報告を受ける。

 やはりただの襲撃事件ではなかったようだ。


「待ってくれよ、だとしたらオレが会ったルナは誰なんだよ」


「恐らくは零の器候補、あるいはその関係者が偽名で暗躍していたのだと思います、というか、間違いありません」


 愛生は手に持った手帳をパタンと閉じて、事務的な口調で続ける。


「そもそも、わざわざ2番さんの目の前で私が全ての元凶だ。

 などと宣言するメリットがありません。怒りを買うだけですから。やはり、陽神美唯子の死を深く刻み込むための印象操作だと思われます。なんて、全て10番(アリシア)さんの受け売りですけどね!」


 言葉尻でようやく本来の愛生らしくなり安心する。

 ムードメーカー的な存在で、真面目より不真面目な方が似合うタイプなのだから。


「目的は? オレを殺そうとしていたとか?」


「これも10番(アリシア)さんの意見にはなるのですが、2番さんはその時期、目覚めたら突然に3番の力を継承していた事があったと言っていたそうですね?」


 言われて過去を振り返る。

 間違いのない事実だ。3番を撃破した翌朝には体の中に破壊と創造の力が宿っていたのを覚えている。


「そうだ、間違いない。ずっと不思議に思っていた」


「となるとやはり正体不明の天使ルナの目的は、2番さんの体に3番の力を植え付けること、それが任務だったのでしょう。

 任務達成後、速やかに姿を消し、暗躍を続けていた」


 そうなるとルナはレオナルドの配下である可能性が高い。

 レオナルドと接点があるということは、その配下である新人類の美唯子と繋がっていても不自然ではないからだ。


 自らを逆説王(パラドクス)だと名乗ったり、美唯子の死を強調したり、今回の一件は美唯子という存在をオレの頭の中から排除しようとしたのが主目的であると考えれば全てにおいて納得がいく。


「もう一つ、面白い事実が判明しました。2番さん、アナタは我々と同調(シンクロ)する、或いは力を取り込む度に、際限なくどこまでも強くなる事ができるようです。

 多分、最終的には1番と並ぶか倒せるまでになるのかも?」


 オレはどこまでも強くなる。確かにそれが事実なら面白い。

 

 個人的にも覚えはあった。エニグマ達と心を繋げる事により、常軌を逸した力を行使できたからだ。

 そのおかげでルナを撃破できたと言っても過言ではない。


 反面、反省点や弱点もわかっている。

 それは心を一つにまとめることが非常に困難である事。


 好戦的な6番(素零)12番()の影響で、必要以上に攻撃的になりすぎてしまった。

 他者を一方的に痛め付けたり、消し去ってしまうのは好ましくないと思っている。同調(シンクロ)合体の力の制御が今後の課題点である事は明白な事実だ。


「並の存在が我々の力を取り込もうとしたら、力の強さに耐えられず存在が消え去ります。過去に何度かそのような事例がありましたが、能力吸収系の敵対者は全て力を制御できずに消滅しています。ですがアナタは一度に複数の同胞の力を従えた。

 驚天動地だと10番(アリシア)さんも言っていました」


 愛生は淡々と語る。

 要するに化け物の力を人が扱うのは難しいということだろう。

 

 しかしオレだけは例外のようで、際限なくエニグマの力を取り込める。だから零の器候補という、ワケのわからない存在に選ばれてしまったのかも知れない。


「だとしたらルナはオレを強くしたかったという事になるのか? そう考えると敵というよりは味方側だった?」


「分かりません。何度も言いますが、この宇宙には様々な思惑が存在し、常に変動を続けています。

 あの時、あの状況では味方でも、今現在は敵、という事も普通にあり得ますから、敵味方の判別はより慎重にするべきですね」


 零の器候補の争いは、オレが思っている以上に熾烈で、長い年月をかけて続けられているらしい。

 

 もしかするとオレとアレスティラが出会うのも、今までのほぼ全ての出来事が最初から全て計算されていた可能性もある。


「だとしたら、オレは見えない力に対抗するためにも、エニグマを可能な限り仲間にした方がいいわけだ」


「そうなりますね。既に大勢の同胞達が殺されていますけど」


 エニグマを殺そうとしている勢力、エニグマを生かしてオレの力にしようとする勢力があるのだろう。


 前者は素零を利用してエニグマを狩り続けていた者達、後者はルナやレオナルド、その他と考えるのが自然だろうか。


「そうなると……8番は今何をしている?」


 神代永斗(8番)神風風雅(14番)を捕らえていた事を思い出す。

 味方にするのであれば、まずはそこからだ。


「8番は連日連夜、12番()さんの拷も……いえ、取り調べを受けているようです」


 最低の野朗ではあるが、無事に生きていたようで安堵する。

 12番のオモチャにされてはいるようだが、自業自得だし、死なれてしまうよりはマシだと考えるべきだろうか。


「そうか、なら一度会ってみる。 

 話し合いの余地があるなら仲間にするかもしれない。

 14番も同じだ、面会の予定を立てておいてくれ」


「承知しました。ではそのように話を進めて参ります」


 愛生は手帳を取り出し、事細かにオレの指示を書き込んでいく。

 まるで従者のようだ。普段の振る舞いが嘘のように思える。


「何か他に情報はあるかな?」


「……そういえば、3番には娘さんがいたような……」


「3番って……待てよ、エニグマにも子持ちがいるのか?」


「はい? 愛があれば普通に結婚もできますよ?

 不死身で規格外なだけで、生命としての機能も備わっていますから。だから見た目も人間に似ているでしょう?

 私も一度はフツーに恋愛してみたいですよ」


 言われてみればサラもアレスティラも子持ちだった。


「愛生は黙っていれば美人だから余裕だよ」


「それはよく言われます! でも性格は一生変わらないので!

 こんな私を愛してくれる方、募集中ですよー!!」


 愛生は空に向かって叫んでいる。

 一体誰に向けて発信しているのだろうか。


「それで、3番の娘さんは今どこに?」


「えっと、どこだったかな……地球の小学校に通っているとか、いないとかを噂で聞いたような、いないような……?」


 愛生は腕を組んで、考え込むような素振りを見せる。

 3番は現在欠員している。エドの娘であれば実力は確かだろう。味方にすれば将来的に十分戦力となり得る。


「地球? 今、地球はどうなってんだよ。

 確かアレスティラが隠してるんだよな?」


「あー! 思い出しました! アレスティラが消えてしまったので、太陽系に復帰したみたいですね、噂で聞きました!」


 噂というのが気になる点ではあるが、確認する価値はある。


「そうだったのか。今から行こうかな」


「いや、行動力!! でもいいんじゃないですか?

 暗黒の運河を使えばスグですし」


「暗黒の運河は唯が嫌がるから封印する。

 唯に買ってもらったバイクで行ってくる」


 地球には存在しない異常性能な宇宙式バイク。

 光速で移動でき時空間転移(ワープ)もできるので、暗黒の運河とそれほど変わらないのだが、気分の問題もある。

 単純に唯が嫌がる行為はあまりしたくなかった。


 まさかこんな形で地球に戻ることになるとは思ってもみなかったが、消えてしまったサラやアレスティラを探す手掛かりがあるかも知れない。


「レオ? 話は終わった?」


 寝室から唯が出てくる。

 昨晩もアニメを見てゲームをして夜更かししていたので、まだ眠たそうにしている。


「唯、ちょっと地球に行ってくる。

 一緒に行かないか?」


「地球? 私はパス。嫌な思い出が多すぎるから。

 それよりお金は? 1千万円くらいあればいい?」


 寝ぼけ眼の唯が異常な厚みのある財布を取り出し、札束を手渡そうとしてくる。

 宇宙一の人気ストリーマーだからか金銭感覚がおかしい。

 こんなことばかりしていたら完全にヒモになってしまう。


「いや、いらないよ。すぐに帰るつもりだし」


「ダメ! 何かあったら困るでしょ?

 私の言う事、ちゃんと聞いて?」


「……わかったよ。でも借りるだけだからな。

 ヒモとかは嫌だし、唯とは対等でいたいから」


「私はお金よりレオが心配だから言ってるの。

 じゃあ今は対等じゃないの? 同情や打算で一緒にいる?」


「違うよ。オレは唯に救われたから、守りたいからそばにいる」


「うん。私もレオの力になりたいからそばにいるの。ね? 一緒だよ」


 優しい声音で囁くように唯は呟く。

 オレの手を握り、小首を傾げる。

 その直後、ぎゅっと抱き寄せられる。

 恥ずかしさや驚きを通り越し、心はただ純粋な優しさと幸福を享受していた。


「かあぁぁっ! サイコーかよぉ! まるで夫婦!

 素晴らしい、猛る、猛るぜぇ! ……でゅふふふふ!」


 下世話な愛生の言葉を無視して、唯の優しさに身を委ねる。


「愛生、唯の護衛を頼む。

 必要なら助っ人も呼んでくれ」


「言われなくてもお守りしますとも!

 スピラノンノは私の命! 何があっても守り抜きます!」


「愛生、ありがとう。唯、行ってくる」

「気をつけて、いってらっしゃい。できるだけ早く帰ってきてね?」


 ただ挨拶をしただけなのに、愛生は「でゅふふ」と笑っていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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