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倒せない敵をどう倒す。同調合体code同胞《エニグマ》。


 オレの意識は途絶えていない。

 そう思い込んでいるだけだ。

 終の螺旋が防がれたのも思い込みだろう。

 

 つまり、この空間は既に支配されている。

 攻撃も対話も届かない。何をしても無意味だ。


 だとしたら、どうすればいい。

 同調(シンクロ)で自分自身を操る。馬鹿げている。

 そもそも敵の能力が不明瞭だ。

 催眠か、幻術、いや、世界を作り変えると言っていたし、因果干渉能力に近いのだろうか。


 少なくとも今のオレには対処できない。

 完全同調(オルシンクロ)を使える10番(アリシア)か、()()()()を斬り裂いた刹那クラスの力が必要だ。


『困っているようだね』


 10番(アリシア)が完全同調でオレの精神に直接語りかけてきた。

 まさにその通りだよ。お手上げだ。

 

『ボクも色々と試してみたよ。

 そこにいる女は生命として機能していない生命体だ。

 つまり、我々と似ている。存在しているのなら、ボクの力で細胞を破壊して世界から抹消する事もできるけど、その場に存在していないんだ。精神の支配も試したけれど無駄だった。心も存在していない。キミは今、無と対峙している状況。厄介だね』


 ならば奴を倒すにはどうしたらいい?


『まずは終の螺旋を直撃させる。無理だと思うけどね。

 発動を無効化されるか、発動したと誤認させられるだけ。

 そしてもう一つは1番に頼ること。

 1番なら彼女を簡単に倒せるよ。瞬殺だ、勝負にもならない』


 そうだろうな。1番はメチャクチャな存在らしいから。

 だとしたら、オレが終の螺旋を当てるしかないんだな。


『ちなみに言うと、転生者どうこうの話は嘘だと思う。

 1番が作った規律(ルール)を破れる者は存在しないから』


 やはりそうか。オレの精神に負荷を与えるためのブラフ。


『もしくは、限りなく真実に近い嘘、かな』


 どういうことだ?

 結局、美唯子達は生きているのか死んでいるのか。


『……わからない。三人共、世界の理から外れている。

 完全同調で宇宙の全てを探っても見つからなかったよ。

 答えは1番とルナのみが知っているだろうね』


 わかった。もう難しい事を考えるのはやめにしよう。

 まずはルナを倒す方法だ。

 オレ達が繋がるってのはどうかな?


『ボク達が繋がる? ……あぁ、なるほど、面白いね』


 さすがに察しが早いな。

 まずオレをアリシアが完全同調(オルシンクロ)で支配してくれ。

 そこからオレがさらに同調(シンクロ)する。

 自我と精神を完全に同一化するんだ。


 ルナはどちらに能力を使うべきか躊躇すると思う。

 何せ一人の人間に心が二つあるんだからな。


『それだと少し足りないかな。普通の同調合体と変わりない。

 やるなら盛大にやろう。皆んな、おいでよ、2番がピンチだ』


『ケッ! なんか面白そうな事やってんな! 協力するぞ』


 7番、ありがとう。


『私も微力ながら協力いたします。その者からは強い邪悪を感じる。世界から排除せねばなりません』


 4番、感謝する。


『私もいますよ! 早く終わらせてまた唯さんと遊びましょう!』


 愛生、そうだな。ありがとう。


『なぁ、オイ! ほんとに美唯子は死んでないんだろうなぁ!?

 ……数少ない友達なんだよ。生きてて欲しいぜ、でございます』


 12番もありがとう。1番の作った規律(ルール)を信じよう。


『ねぇ、29番(サラ)も生きているよね? 死んだなんて嘘だよね?』


 ……素零。大丈夫だ。サラも必ず生きている。


 よし、同胞達、力を一つにしよう。

 唯が時間を稼いでくれている今がチャンスだ。

 

『──完全同調(オルシンクロ)。同調合体・絆』


 ──同調合体。code同胞(エニグマ)


 ◇ ◇ ◇ ◇


 唯とルナが死闘を繰り広げている。

 攻撃手段の乏しい唯は敵の攻撃を上手く捌いて反撃の機会を伺っているが、次第にルナの圧力に押され始めていた。

 

「ハッハァ! 威勢がいいのは最初だけだったな!

 お前が死ねば全て終わりだ! アイツは私のものになる!」


 両手から光弾を飛ばしながらルナが吼えている。


「──雷撃弾(サンダーベイン)・絆」


 雷撃弾がルナの両手を吹き飛ばし、光弾を霧散させる。


「なっ!? なぜ攻撃が当たる……クッ! がッ……、嘘だ」


 同胞達と同調することにより、力が格段に増したことを確認した。既にこの場の空間はオレが支配している。

 ルナの肉体は無敵ではなくなり、現在は並みの人間と同レベルになるように情報修正した。


 狼狽しているルナの腹部に右拳を打ち込み、左の拳を振り上げ顎を完全に破壊する。

 腕も顎も瞬時に再生するが、その都度破壊するので意味はない。


「支配……できない……。能力が効かないッ!

 世界の改変……出来ない!? 何故だ、どうして……」


「今この世界の全ては進化した完全同調(オルシンクロ)でオレが完全に支配している。今のお前は再生するしか能がないただのクズだ。再生を封じる事もできるが、敢えてしない。──苦しめ」


 ルナの両手足を吹き飛ばし、胸部を踏み砕く。

 

「唯、大丈夫か?」

「うん、平気。レオ、カッコいいよ」


 唯の頭を撫でてから、ルナを見下ろす。

 

「ほら、立てよ。足なら再生してるだろ?」


「誰だ、お前は一体、誰なんだ……」


「それはコッチが聞きたいね。強いて言うなら、()()()だ」


「エニグマ如きが調子に乗りやがる……。私は今まで何度も何度も貴様らを殺してきたんだよ! 宇宙にノサバル害悪生物め、消してやる……何度でも殺してやる、あガァッ!?」


 ルナの口の中に右腕を突っ込む。

 喉奥を掻き分け、深く深く、突き込んでいく。


「あぼぁ、あが、グゥギ、ギィィ──、。?!!??」


「いいか、今から質問をするぞ、ゴミ野朗。

 返事をしなければ終の螺旋で体の内側から消し飛ばす。

 イエスなら一回、ノーなら二回、瞬きしろ」


 瞬き一回。ルナはイエスと答える。


「お前は本当にオレを利用し、全てを奪ったのか、答えろ」


 瞬きニ回。答えはノーだ。どういうことだ。

 腕を捻る。


「グガガガガ、あギィィいいイイ」


「8番に指示を出したのはお前か、オレと美唯子の運命を引き裂くために罠を張り、画策したんだろ? 答えろッ!」


 瞬きニ回。またしてもノー。腕をさらに深く捻じり込む。

 薄汚い呻き声が世界に響く。


「最後に聞きたい。本当に、美唯子やアレスティラを殺したのか」


 ルナは両手で強引にオレの腕を引き抜き、腹部に蹴りを入れて跳躍し、距離を取った。


「ああ、殺してやったよぉぉ!?

 最後の言葉を教えてやろうか?

 ペル様、心からアナタを愛しています。

 幸せになってください。別れてなんて言ってごめんなさい。

 大好きですってさ!」

 

 もう動じないと決めたのに、心乱される。

 冷静にならなければ、やられる。

 それなのに負の感情が湧き上がってくる。

 オレの感情を揺さぶるための作戦だと自分に言い聞かせる。


「死ね!」


 ルナが放った光弾が右肩に突き刺さる。

 痛みはない。ダメージも皆無だ。


「──終の螺旋【唯我】」


 終の螺旋がルナの肉体を完全に消滅させる。

 あまりにも呆気ない。それにオレを利用していないと言った。

 頭の中に疑念が生じる。やはり何かがおかしい。

 

2番(オレ)くん!」

「2番さん!」


 同調合体を解除すると、暗黒の運河を通じて同胞達が次々とやってくる。


「レオ、大丈夫だよ。私は月岡唯で、美唯子じゃないから。

 転生とか生まれ変わりなんて信じたらダメ」


 今度は唯に頭を撫でられる。

 オレが頷くと唯は微笑みで返してくれた。


「んふふ! そうだよ、素零(オレ)もそう思うな! 

 だってサラが死んだとしたら、素零(オレ)の存在も消えるはずだよね? 誘拐されたかー! 探さないとなー!」


「まぁ、アイツが何を考えて消えたかはわからんが、アタイも逆説王(パラドクス)は簡単に死ぬようなタマじゃないと思うぜ?

 もしかして、今回の一件も美唯子の作戦だったりしてな?」


 12番()が恐ろしい意見を述べる。

 確かにその可能性も否定はできない。

 美唯子が零の器候補として本当に敵対して、オレを陥れようとしているのだとしたら、他者に自らを死んだように()()()()()()のは戦略的に非常に上手い手段だ。


「皆んな、ありがとう。

 オレも美唯子は生きていると思う。

 直接会って話をするまではオレも騙されないから、大丈夫だ」


 オレを騙すための大掛かりな作戦だろう。

 とりあえずはそう受け止める事にする。

 気がつけば夜が明けていた。


 窮地を救ってくれた仲間達に感謝を伝えて、一旦は解散する事になった。


「なぁ、唯。もしかして今回のは唯の作戦か?」


 駅へ向かう道すがら唯に尋ねる。


「うん。なんだかずっと見られている気がしたから。

 レオとの仲を見せつけたら、尻尾を出すかなって思って」


「それじゃあ、作戦成功だな」


「匂わせ配信もしたかったけどね。ほんとにする?」


 唯は無邪気な笑顔で手を差し出してくる。

 最初に会った頃より随分と表情豊かになったと感じる。

 

「それも楽しいかもな。考えてみるよ」


 言いながら差し出された手をそっと握った。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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