私が全ての元凶。私こそが真のパラドクス。
オレの目の前にいるのは天使のルナだ。
かつて相棒として共に戦っていた少女。
しかしある日突然姿を消した。
不思議な事に彼女に関する記憶は次第に薄れていき、今に至るまでほぼ忘れかけていた。
「お前、何者だ……」
自然と口から出た言葉。
今目の前にいるのはルナであってルナではない気がする。
オレの問いかけにルナは口角を上げて薄ら笑いを浮かべる。
「気づくのが遅えよ、バーカ! そんなに正体が知りたいか?
アハハ! お前の全てを壊した存在だよ!
私が全ての元凶、私こそが真の逆説王!
お前の名を奪い、心臓を奪い、記憶も消して化け物にした張本人さ!」
ズキンと頭が痛む。
目の前の女を見ているだけで胸が不快になり、言いようのない嫌悪感に身体中が包まれていくように感じる。
「ルナティクル・セレナ・オムニ・エンド。
私の名前だよ。ついでに面白い事を教えてやろうか?」
聞きたくない。心と体が拒否反応を示している。
ほぼ無意識のような状態で終の螺旋を撃ち放つ。
ルナは終の螺旋を片手で受け止めた。完全に化け物だ。
「無駄だよ。大人しく聞いてなよボーヤ。
私は29番を殺し、5番を殺し、そして……美唯子も殺したぁ!」
その言葉を聞いた時、反射的に嘔吐した。
視界が歪み、足がふらつき、立っていられなくなる。
「やめろ、嘘だ、やめろ……」
「私が殺した三人の共通点は、なーんだ?」
考えていられない。息ができない。
苦しくてたまらない。
「はい、時間切れ。全員がお前と結ばれる可能性がありました。
なので一人ずつ順番に追い込んで殺して行きましたとさ。
いつ、どのタイミングで殺したか知りたいかい?」
「さ、──雷撃弾」
とにかく目の前の存在を黙らせたかった。
雷撃弾を闇雲に撃ちまくるが一発として当たりはしない。
「ああ、面白いな、お前。
でもさ、やっぱスゲーわ。運命って本当にあるんだな。
今お前の隣にいる女、そいつの正体を知りたいかい?」
ルナが唯を睥睨している。
汚物でも見るような目で、憎悪を剥き出しにして、吐き捨てるように言葉を紡いでいく。
「そいつは私がぶち殺した女どもの魂の集合体。
この世界初の転生者ってやつかな。どんだけお前のこと愛してんだよ、気色悪い。──よーく、思い起こしてみな?
アレスティラの美貌、美唯子の社交性、サラの寛容さ、その全てを引き継いでいるだろう? よっぽどお前と結ばれたいんだねぇ」
スピラノンノ。スピリチュアル・ラバー。
確かに唯からは全てを感じた。
驚くほど自然に彼女を守りたいと思った。
だがルナが言っている事が真実だとは限らない。
嘘偽りを並べているだけかも知れない。
暗示か洗脳の可能性もある。
敵の発言を迂闊に信じるべきではない。
「待て、三人共、まだ世界に存在している。
サラとは先日会ったばかりだし、お前は嘘をついている」
「お前、本当におめでたい野朗だな。
私の能力を忘れたのか? お前はそう、思いこんでいる。
あの時のサラもアレスティラも、全て私だ。
お前が見てきた世界も私が全て好き勝手に作り変えて、都合のいいように解釈させて、お前の脳に擦り込ませたんだよ、阿呆が」
目眩がする。再度、吐き気が込み上げてくる。
目の前にいる悪意が強すぎて脳が意識を強制的に断ち切ろうとしているのがわかる。
「レオ、無理しないで。
この女は私がなんとかするから、今はゆっくり休んで」
唯が手を握り、優しく囁いてくれる。
心が洗われるようだった。
唯を守らなければならない。だが体が動かない。
「唯、ごめんな」
体の奥底から無理矢理に声を絞り出す。
唯は優しく微笑んでいる。
「ほぅ。私とまたやろうってのかい?
何度殺されたら気が済むんだよ、お前らはよ?
そういえば、前回死ぬときも最後までペル様ペル様とうるさかったよなぁ? 美唯子さんよ、運命なんてもんは叩き潰せんだよ!
1番はお前を助けなかったよなぁ? 何でかなぁ?」
「もういいから、黙って。
私の全てを懸けて、アナタを倒すから。
──希望の残滓──」
閃光が炸裂する。
光を纏った唯と憎悪を燃やすルナがぶつかり合う。
オレの意識はそこで途絶えた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。