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夜の街に唯と二人。匂わせ配信する?


 結局、唯が全てのスケジュールを終えた頃には時刻は深夜を回っていた。

 

 番組制作会社、宇宙次元テレビを二人で出る。

 闇の中を心地よい夜風が吹き抜けていく。


 ずっと室内で待機していたため新鮮な空気を肺に満たすため深呼吸し、硬くなった身体をほぐすために大きく伸びをして星空を見上げる。月が綺麗な夜だった。


「唯、おつかれ。これからどうしようか」

「レオもお疲れ様。少し一緒に歩く?」


 夜の街を唯と腕を組みながらアテもなく彷徨い歩く。

 二人で腕を組むのは恥ずかしいので拒否したかったが、人も少ないし、唯がどうしてもと言うので受け入れた。


 終電の時刻はとっくの昔に過ぎている。

 夜道は危ないし、唯が風邪を引くといけないので、ファミレスか漫画喫茶でも見つけたいところではあるが、こういう時に限って見つからない。


10番街はオレの意向で地球の環境に寄せた惑星運営、開発が成されているが、こんなところまで似るのは皮肉なものだ。

 

「もう時間的にどこも閉まってるな。

 なぁ、街からも大分離れたし、暗黒の運河を使わないか?」 


「イヤ。あれは嫌いだから」


 エニグマ専用転移空間、暗黒の運河。

 時間も場所も関係なしに宇宙中、好きな場所まで自由自在に移動できる。唯はその存在の使用を頑なに拒んでいた。


 今朝満員電車に乗るハメになったのもそのせいだ。

 唯曰く、インチキだし暗くて怖いとのこと。

 

「あ、お城だ」


 都心から少し離れた郊外にポツンと佇む立派な建物。

 妖しいピンク色のライトに照らされた()()

 入り口の看板には休憩と宿泊の文字。

 

「あれは普通のお城じゃないから、見たらダメだ」

「それくらい知ってるよ。匂わせ配信……する?」

 

 とんでもない事を言い出した唯に目を向けると、サッとオレから視線を逸らす。自分で言って恥ずかしいのか頬と耳を赤く染めている。


「匂わせって、完全にガッツリアウトだろ」

「入るだけでもダメなの? レオはイヤ?」


 唯はオレの胸に額を当てて下を向き、甘えるような声を出す。

 多分、精一杯の勇気を出して誘ってくれたのだと思う。

 愛生が今いないのが恨めしい。彼女は現在、神の居城で勤務中だ。


 愛生がいたならなんと言うだろうか。


『男が据え膳食わんでどうすると? はよ入らんか! バカちん! あっ、もちろん宿()()でお願いします! でゅふふ』


 脳内の愛生イメージを振り払う。

 アイツはイメージでさえ、ろくなことを言わない。


 唯がオレの返事を待っている。

 断られたら恥ずかしいのか、悲しいのだろうか。

 どちらにしても嫌な思いをさせてしまう。

 匂わせ配信、いや、単純に宿を取るだけ。

 やましいことは何もない。何もしない。

 普段から同棲しているし、寝る場所が少し近くなるだけ。

 必死に言い訳を並べてみる。体が熱い、燃えそうだ。

 脳が沸騰しそうになっている。そして決断の時が来た。

 

「……じゃあ、入ろうか?」

「…………うん。入る」


 ゆっくりと入り口に向けて歩みを進める。

 手を繋いで歩いているだけなのに心臓が張り裂けそうになっている。化け物(エニグマ)がこんな事で死ぬワケはないのだろうが、オレはもうダメかも知れない。


 受付に男が立っている。当然だ。

 パネルで部屋を選び鍵をもらうだけ。何も問題ない。


「あの、部屋の種類はどれがいい?」

「……メルヘン」


 唯はオレの背後に隠れたまま小声で答えた。


「部屋を選んで休け──」


 休憩のボタンを押しかけると唯に腕を引かれる。


「宿泊……」

「え? 聞こえなかったけど、どうした?」

「宿泊がいいっ!」

「はい、わかりました!」


 もうどうにでもなれという気持ちでボタンを押す。 

 どちらにしても始発まで時間を潰さないといけないのだから宿泊で正解かも知れない。

 

「あの、鍵を……」

「いらっしゃいませ。あれ、そちらは……?」


 受付の男が背後に隠れている唯をジロジロと見ている。

 人生が詰んだかもしれない。


「申し訳ありませんが、未成年者のご利用はお断り……あ!」


 あ?


「なんだ神様じゃないですか! いやいや、失礼しました!

 どーぞどーぞ! ご自由に! 可愛い子ですねー!

 羨ましいなぁ! ゆっくりとお寛ぎください!」


 無駄に神様特権が発動したので難を逃れたが、やはり誰が見ても唯は未成年に見えるようだ。


 エレベーターを降りて廊下を歩いていると、ようやく唯が隣に並ぶ。ここまでくれば安心だと思ったのだろう。


「危なかったね? ドキドキした。私の年齢、知りたい?」

「いや、怖くて聞く勇気がない」


 オレがそう言うと唯はハニかんだ笑顔を見せた。

 

「──唯、オレの背後に隠れろ」

「……やっぱり来た。こんなに簡単に誘き出せるんだ」


 オレ達が選んだ部屋の中に誰かいる。

 ただならぬ気配を感じる。

  

 零の器候補か、その刺客か。

 扉越しにもわかる、肌を刺すような殺気。

 

 敵もオレ達の存在を感じ取っているのであろう、溢れる力の波動を隠そうともしていない。


 戦闘になるのは明白。

 開錠し、ドアノブに手をかけ、一気に扉を開く。


「……お前、どうしてここに」

「久しぶり。元気にしてた?」


 オレと唯を待ち構えていたのは意外な人物であった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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