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街中ゲリラ動画撮影。それでも唯は満足したい。


 友人の天川大吾から連絡が入った。

 なんでも長年の夢だった単車(バイク)を買いたいからついて来てほしいとのことだ。


「唯、知人に呼ばれたから出かけるけど、どうする?」


 唯はソファに腰掛けてお菓子を食べている。

 昨夜も遅くまでアニメを見てテレビゲームをしていたので、とても眠たそうにしている。


 本来なら人見知りの唯を連れて外を出歩きたくない。

 だが今はいつどこで襲われても不思議ではない状況。

 最寄りのコンビニにいくだけだとしても、二人で行動するようにしていた。


「レオはついて来て欲しい?」


 彼女は毎回必ず同じ質問をする。

 そしてオレがついて来て欲しいと言うと嬉しそうに微笑む。


 一度だけ付いてこないでいいと言ったら、頬を膨らませて子供のように拗ねてしまった。それ以降は肯定一択だ。


「ついて来て欲しい。一人でいられると守れない」

「……うん。行くよ。絶対行く。大切な仲間?」

「ああ、そうかな。唯一まともな男友達かも知れない」

「そっかー。じゃあ、失礼がないように私も本気出す……」


 ──20分後。


 オレは宇宙一の人気ストリーマー、()()()()()()と街を歩いている。


「あれ、本物? 配信中か?」

「キャー! 生スピー!! 宇宙一可愛い〜!!」

「隣の男誰だよ。消し去ってやりたい……」

「可愛いすぎて頭バグる。匂いだけでもかぎたい……」


 過ぎゆく人は振り返り、立ち止まっている人は全員が唯を凝視し、手にした携帯端末で一心不乱に写真やムービーを撮っている。

 知名度が宇宙規模なだけに、唯を知らない者などいない。

 

 唯が配信者として出かけると聞いた時、オレは撮影スタッフのフリをするために頭からズタ袋を被った。そうでもしなければ嫉妬に狂った信者達に殺害されてしまうだろう。

 

 待ち合わせしていたバイクショップの前で天川大吾と彼女の田栗ヨセルが既に待っていた。


「あ、神……様なのか?」

「ドヒャー!? 大吾さん! スピラノンノですよ!

 宇宙最カワ美少女配信者! ほんとに可愛いなぁ……。女の自分が惨めになるっす……」


 オレが頭に袋を被っていること、大量の人間を引き連れて歩いていること、いくつもの奇妙な光景が重なり、二人は疑問符いっぱいの表情を浮かべている。


「レッド、すまない。事情は後で説明するから、とりあえず今回のコラボ相手として適当に乗り切ってくれ」

「……了解。だが次からは事前に知らせておいてくれよ」


 レッドに耳打ちして状況を説明する。

 ヨセルも状況を理解したようで力強く頷いた。


「うし! それじゃあ毛玉っち! 撮影よろしく!」

「OKだミョー! 3.2.……」


 唯が撮影スタッフのミーミョンに合図を送る。

 ミーミョンとはワケの分からない毛玉の生命体だ。

 小さくて融通が利くスタッフが欲しいと唯に頼まれ、神の居城で紫苑と遊んでいたところをメンマの瓶詰め3個で勧誘して来た。


 ミーミョンなら空も飛べるし、カバンにも入るサイズなので撮影スタッフとしては申し分ないだろう。


宇宙乃奇跡(コスモミラクル)TV"をご覧の皆の衆ー!!

 スピラランラハロロー!! アナタの心に零の螺旋!!

 キュンキュン輝く宇宙のアイドル! ラノンちゃんだぁぁ!

 今日も今日とてやっていくぞー!!」


 唯が動画の撮影を始めると群衆が一斉に拍手を送る。

 歓声を上げ、エールを送り、中には咽び泣く者もいる。

 

「皆の衆、スクショの準備はできてるかぁ!?

 今宵のゲストはスンゴイゾー!!!

 なんと、決闘の覇者、キングオブキングの天川大吾ー!!

 と言っても今日は決闘はなしだけどねー! あははぁ……。

 対談の模様はキングのチャンネルで流すから着目せよせよ!」


 唯の言葉に群衆がざわめき、レッドとヨセルに拍手を送る。

 そして始まるキングコールが鳴り止まない。

 

 一般人の二人は顔を太陽のように赤面させて棒立ちしている。

 

「神様、恥ずかしくて死んでしまいそうだ」

「ほんとっすよ……バイクを買いに来ただけなのに……」


「唯、レッド達が羞恥心で死にそうだ。群衆を解散させてくれ」


 カメラの前で笑顔を振り撒いている唯に、スタッフの振りをしてコッソリ近寄り耳打ちする。

 唯はオレに把握したとウィンクをした。


「皆の衆〜! 協力ありがとうだぞ〜!!

 この先は本編でのお楽しみだから〜……。

 すみやかに撤収せよぉー!!!!!」


 唯の一言で群衆は瞬く間に解散した。

 まるで統制の取れた軍隊だ。もしかしたらオレはすごい人と一緒にいるのではないかと今更ながらに感心する。


「神様、どういうことか説明してくれ。

 まさかスピラノンノさんと付き合ってるのか!?」


「うぇっ!? そんな、ミコとはどうなったんすか!?」


 レッドとヨセルが詰め寄ってくる。

 特にヨセルは美唯子の同級生であり、オレ達の仲がどうなったのかを心配しているのだろう。


「美唯子には振られて捨てられた。

 唯は零の器仲間というか、今は番組スタッフをしている」


 二人は一瞬にして言葉を失くす。

 美唯子に捨てられたのは事実なので仕方がないが、改めて口にしてみるとショックが大きい。


 二人共どう声をかけていいのかわからないのだろう。

 気まずそうな雰囲気で視線を彷徨わせていたので、今度はこちらから声をかける。


「大丈夫、気にしないでくれ。それよりもどうして急にバイクを?」


「そりゃあ! 決闘者たるもの一度はバイクに憧れますよ!

 デートの時に二人で移動できる手段も探してましたし、何よりも心にいつもエンターテインメントがなければならないので!」


 ヨセルはオレを励まそうとしているのか、明るい口調で元気よく話しかけてくる。

 言っている言葉の意味は全くわからないのだが。


「おー! もしかしてぇ? キミも同士なのかぁ?

 キングのパートナーになれるなんて羨ましいぞー!?」


 唯には意味がわかるらしく、オレの代わりに返事をしてくれる。


「あ、スピラノンノさん。話しかけてくれて光栄っす。

 いつも動画見てます。あの……ちなみに推しは誰っすか?」


「それ聞くかぁ〜。オレっちは()()したいねぃ!

 あ! 同士には話したけど個人情報はオフレコねー」


 女性二人の会話が盛り上がって来たので、オレはレッドに今日来た一番の目的を話すことにした。


「レッド、美唯子と零の器とかいう連中について調べられるか。

 どんな些細な情報でもいい、多分宇宙の命運がかかっている」


「他ならぬ神様の頼みだ……やってみよう」


 短い会話で情報の伝達は終了した。

 後は普段通り、友人としての会話をする。


「それで、欲しいバイクってのはどれなんだ?」


「ああ、この日のために長年貯金した。

 スペース忍者の最新型。排気量もあるし、デザインもいい」


 レッドが指したのは真紅の光沢を放つシンプルながらに洗練されたデザインの単車だった。


「あー店員殿ー! そのバイク、オレっちが現金で買うぞよ。キング氏にプレゼントするのでラッピングとか出来ますかなー」


 オレとレッドの間に唯が割って入り、単車を購入した。

 単車をラッピングするなんて聞いたことはない。


「プレゼントって……。こんな高いものを貰えるわけがない」


「気にしなくていい。動画出演料だと思ってくれ。

 唯にしてみたら駄菓子を買うようなものだから。

 残ったお金でヨセルと食事でもすればいい」


 困惑するレッドに言い聞かせるように説得する。

 数分もするとレッドは諦めたように嘆息した。


「わかった。ありがとう、神様。また借りができてしまったな」


「ああ、それと、今度大会を開くから是非参加して欲しい。

 ヨセルとチームを組んで優勝を狙ってみてくれ」


「神様の頼みを断われるわけがない。是非参加させてもらうよ」

「神様、ミコの事、元気だしてくださいね? 

 イケメンだし、またすぐ素敵な人に出会えますよ!」


 レッドとヨセルは頭を下げて帰っていった。


「撮影完了だミョー! オイラも先に帰るミョー!

 紫苑とカスタネットで遊ぶ約束をしてるんだミョー!」


 毛玉の生命体(ミーミョン)も手にしたカメラを口の中に放り込んで帰っていった。念の為に言うとカメラは無事だ。ミーミョンの体内で一時間ほど放置しておくと動画が編集された状態で出てくる。

 相変わらずふざけた生き物だ。

 

「疲れた〜」


 レッド達が帰ると唯は変装を解除する。

 スピラノンノとしての姿も素敵だとはと思うが、個人的には素の状態の唯が人間らしくて良いと思う。


「唯、お疲れ様。

 やっぱり初対面だと演技しないと厳しいか?」


「うん。まだちょっと怖い。

 ヨセルさんとは遊んでみたいな」


「そうか、とにかくありがとう。帰ろうか。……ん?」


 店から出ようとすると唯に腕を引かれる。


「待って。レオも買うよ、バイク」

「いや、オレはいいよ。移動なら、暗黒の運──」

 

 唇にそっと指を当てられ言葉を止められる。


「暗黒の運河はダメ。あんなのはインチキ。

 人間に戻って地球に帰るつもりはないのですか?」


 優しいが、厳しめの口調。

 唯が何を伝えようとしているのか考えるが、よくわからない。


「それはあるよ。結局、()()()の故郷は地球なわけだし」


 そう言うと唯はふにゃりとした可愛いらしい笑顔を見せる。


「だったら普通に戻る準備もしないとね?

 もしかしたら二人で一緒に地球に帰るかも知れないし……」


「なんか顔が赤くないか? 動画撮影、張り切りすぎた?」


 顔が紅潮していてたので指摘すると、唯はパッと目を逸らす。


「気にしないでいいよ、もぅ……。恥ずかしいなぁ……。

 店員さんに一番性能がいいバイクを聞いて来て?」


 言われるがまま店員におすすめの商品を尋ねると、宇宙も走行可能、光速度による次元間移動もできる最新式バイクを紹介された。

 

 これだけ高性能(チート)だと暗黒の運河とそう変わらないと思うのだが、唯に怒られるかも知れないので黙っていた。

 

 値段はなんと地球の紙幣換算で約700億円。

 それを唯は七色に輝くクレジットカードで一括払いした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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